戸建て住宅をプランニングする上で、重要なポイントとなる階段。
階段は上下を移動する通路としてだけでなく、
二つの空間をゆるやかにつないだり切り替えたり、さまざまな役割を持っています。
また、階段下や踊り場は、居心地のいいおこもりスペースや収納として活用することもできます。
家族の暮らしに合わせて作り上げた階段はインテリアのアクセントにもなり、
毎日の暮らしを豊かにしてくれるはずです。
さまざまな階段のアイデアを大和ハウス工業の設計士、櫻井 壯がご紹介します。
Profile
大和ハウス工業 奈良支社 住宅事業部 設計課
櫻井 壯
一級建築士、一級エクステリアプランナー、ハウジングマイスター(社内認定)
私が家づくりで大切にしていることは、デザインすることです。デザインは見た目を美しくするだけでなく、使いやすさを考えて問題解決をすることです。敷地や家族構成、価値観が違えば、デザインも多様になります。そこで重要なのはコンセプトです。
こんな家に住みたい!というイメージよりも、「どのような暮らしをしたいのか」が大切です。ご家族の価値観や生活スタイルを共有し、自分たちだけの家づくりを楽しみましょう。
階段は暮らしを豊かにする場所
階段の設計の手順として、見た目のデザインありきで設計を考えることはほとんどありません。階段をどう設置するかで家全体のプランも変化しますし、掛け方によっては生活そのものが変わります。住宅の中では重要な要素です。
お客さまが新しい家でどんな過ごし方をされるのか、全体的なヒアリングを進める中で、リビングやキッチン、水回りなど他の居室スペースを確保していくと、おのずと階段に取れるスペースがつかめてきます。その上で、どんな形の階段が実現できるかを踏まえて、形状や素材をご提案していきます。
限られた敷地の中で空間の有効利用を考えるときに、階段を単なる通路としておくのはもったいないもの。階段も他の居室と同様に、家族のライフスタイルを反映させて居心地のいい場所にしていきましょう。
スキップフロア、スケルトン階段…最近人気の階段は?
ここからは、さまざまな階段の形や種類、階段周りの空間活用事例をご紹介していきます。
リビング階段orホール階段
階段のタイプは大きく分けてリビングの中に階段を組み込む「リビング階段」と、廊下に階段を設ける「ホール階段」があります。
最近人気なのは「リビング階段」です。家族のコミュニケーションの機会が増えることやインテリアのアクセントになること、開放感を演出できることがメリットですが、空気が2階に流れる分、冷暖房効率が落ちること、臭いや音が回りやすいことがデメリットといえるでしょう。階段の形状や素材によってリビングの雰囲気が大きく変わるといっても過言ではありません。
階段の形状
上下階をつなぐ階段の形状もさまざまです。
● 直階段 … 上下階をストレートにつなぐため、狭い面積でも設置できる。曲がりがない分転倒しにくいが、一度足を踏み外すと下階まで転げ落ちてしまう危険性も。
● L字階段(かね折れ階段)… 直線部分が多く、途中で1カ所曲がっているタイプの階段。
● U字階段(折り返し階段)… 途中で折り返すタイプの階段。比較的勾配をゆるやかにできる形だが、踊り場の面積がある分、スペースが必要になる。
● らせん階段 … らせん状の象徴的なデザインが人気。設置スペースが少なくて済むが、階段の踏板(足を乗せる板)が三角形なので踏み外しやすく、荷物を持っての移動がしにくい。
階段のタイプ
● 側板階段 … 壁に固定された側板が踏板を支える構造の階段。壁に囲まれた階段はこのタイプ。
● ひな壇階段 … 横から見たときにひな壇のように見える階段。壁で囲わないため開放感を演出できる。階段下を収納に活用することもできる。
● スケルトン階段 … 踏板とそれを支える構造物のみで構成され、踏板を垂直に支える「蹴込み板」がないタイプ。視界を遮るものが少ないので、開放的な空間にできる他、階段下のスペースを間接照明で演出したり、スタディスペースにするなどの活用も可能。デメリットはコストがかかること。スチール製のスケルトン階段を「鋼製階段」と呼ぶ。
● スキップフロア … 階段の途中に設けた高さ違いのフロアのこと。踊り場を広く取る方法もある。階段周りにまとまったスペースが必要でコストがかかるが、スキップフロアの下も有効活用できる。
階段下スペース、踊り場…階段周辺を有効活用する
前述の通り、階段の踊り場や階段下、階段の壁面、スキップフロアなど、階段周りをうまく活用して生活空間を広げることができます。
● ライブラリースペース … 階段の壁面に収納棚を作って見せる収納に。段差に腰掛けて読書のスペースにも。
● ベンチ … 階段の1段目と2段目を広げて、リビングを取り囲むようにベンチを設計。人が大勢集まったりしたときにも、思い思いに腰掛けて過ごせる場所になります。
● コレクションスペース … 階段の踊り場にコレクションしているアイテムを飾るのもアイデアの一つ。毎日通る場所に飾って楽しめます。また、階段すべてに側板を設けるのではなく、半分はリビングから見えるように設計。奥行きが得られるとともに、空間としてのおもしろさが引き立ちます。
● 窓からの景色を楽しむ場所 … 景色を取り込む開口部分に階段を設置すると、毎日階段を上り下りするときに気持ちよさを感じられます。
● トレーニングスペース … スケルトン階段(鋼製階段)の階段下にU字バーをつければ、階段下で懸垂などのトレーニングをすることができます。
● お掃除ロボットの基地局 … 階段の1段目にスペースを確保してコンセントを引けばお掃除ロボットがスッキリ収まる基地局に。
このように、お客さまの暮らし方に合わせて階段のデザインを考えることで、ユニークで豊かな空間を計画することが可能です。
将来の変化も踏まえて、安全な階段を設計する
階段は上下運動によってケガをしやすい場所でもあるので、基本的な安全対策は必須です。踏み外したりしないようにすべり止め加工を加えたり、小さなお子さまがいらっしゃる場合は、手すりの隙間から落下してケガをしたりしないような配慮が必要になります。
また、階段は構造物の一部なので後から変えることが難しく、現在のライフスタイルだけでなく、将来的な変化も踏まえて検討する必要があります。
例えば、ゆくゆくはご高齢の方が一緒に住まわれる場合、もしくはご自身がお年を召したときのことを考えると、階段は急勾配にならないよう、蹴上(けあげ:1段の高さ)と踏面(ふみづら:足を乗せる部分の奥行き)のバランスを考慮しておかなくてはなりません。
スキップフロアは多くの面積を要するため、これを作る場合は他のスペースをあきらめなければならないケースもあります。他の居室の面積を割いてスキップフロアを設置してのち、ご高齢になったのち段差の多いスキップフロアへ上がるのが辛くなってしまった…等。想定外の事態に陥らぬよう、長期的な暮らし方の変化も考慮しながら、暮らしを豊かに広げる理想の階段を作り上げていきましょう。
まとめ
リビングやキッチンなどと比べて、階段に明確なイメージを持っている人は多くないかもしれません。実は活用方法もデザインも無限大。ご家族のライフスタイルに合ったスタイリッシュで機能的な階段を、住まいづくりに取り入れましょう。
※掲載写真の外観・仕様・外構等については、敷地、周辺環境等の諸条件や地域の条例その他諸事情により採用できない場合があります。
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