誰にでも起こり得る介護の問題。大切な家族の介護をしたいと考えていても、自分の時間がない、
睡眠不足で疲労がたまる、お金の不安がつきまとうなど、ストレスを感じる人は多いはずです。
一方で、住み慣れた住まいで介護を受けたいと望む人も多いでしょう。
要介護者も家族も充実した暮らしをするため、介護ジャーナリストの小山朝子さんに、
介護ストレスの問題や、ストレスをためない方法について伺いました。
Part1超高齢社会の問題とは? 同居介護が約50%という現実
高齢者の人口が増加する中で、それを支える生産年齢人口は減少傾向が止まりません。このような背景もあり、国は住み慣れた地域や自宅で、介護や医療などをサポートする取り組みを強く進めています。
在宅医療や介護が推進される背景
2023年9月現在、65歳以上の高齢者の人口は3,623万人※1。いわゆる団塊世代が後期高齢者となる2025年には高齢化率は30%近くになり、2040年には3人に1人が高齢者となると予想されています。高齢者の増加に伴い、要支援・要介護認定を受ける人の数も増加しています。このまま少子高齢化が進んでいくと、介護の現場では十分な人手が確保できないという問題が残されています。
高齢者人口及び割合の推移(1950年~2023年)
内閣府が公表する高齢社会白書※2によると、「自宅で家族を中心に介護を受けたい」「自宅で家族の介護と外部の介護サービスとを組み合わせて介護を受けたい」といった割合を組み合わせると、70%以上の人が「自宅で介護を受けたい」と希望していることが分かりました。また、60歳以上の人の約半数が「自宅で最期を迎えたい」と考えています※3が、実際に実現できる人は少ないようです。
- ※1出典:統計からみた我が国の高齢者 2023年9月 総務省 より
- ※2出典:平成30年版高齢社会白書 内閣府より
- ※3出典:令和元年版高齢社会白書 内閣府より
老老介護の割合も60%超まで増加
65歳以上の高齢者のうち、認知症患者の割合も増加傾向にあります。認知症介護では、記憶障害や道に迷ったりする見当識障害などへの対応が必要となり、介護する人の負担が大きく増加します。また、世帯主が65歳以上の単独世帯や夫妻のみの世帯が増加し、介護する人と受ける人が共に65歳以上の高齢者となる、いわゆる「老老介護」の割合も63.5%と増加している※4のです。
こうした状況に対して国もさまざまな対策を講じています。その一つが「地域包括ケアシステム」※5です。その目的は、単に在宅介護をすすめるのではなく、住み慣れた地域で自分らしい生活を最期まで続けることができるよう、地域内で助け合う体制をつくることです。ただし、仕組みづくりが地域にゆだねられていることもあり、サービスの質に地域差も生まれています。
- ※4出典:厚生労働省「2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況」 より
- ※5出典:厚生労働省「在宅医療の推進について」より
同居介護が半数近くという現実
要介護者と家族が同居している割合が45.9%。そのうち、配偶者が介護する割合は22.9%、子が親を介護する割合は16.2%となっています。
介護は要介護者の家族が担うことがいまだ多いのです。主な理由は、要介護者や家族に介護施設への抵抗感があったり、施設の入居条件を満たしていない、介護費用を抑えられることなどが挙げられます。しかし、介護による負担やストレスは想像以上に大きいものです。
「要介護者等」からみた「主な介護者」の
続柄別構成割合※6
※()は2019(令和元年)年の数値
Part2家族の介護をする人の負担やストレス
介護をする家族は、どのような負担やストレスを抱えているのでしょうか。まずは主な3種類を知り、ストレスの解消につなげましょう。
身体面の負担
介護を受ける人の状況によって大きく変わりますが、例えば要介護認定で最も重い要介護5の場合、食事や衣類の着脱の補助、トイレや入浴の介助、たんの吸引といった医療行為などを含めて、生活に関するすべてのサポートが必要になります。そのため、夜十分に休めないことがよくあります。また、無理のある姿勢での介助を続けることで、腰、ひざ、腕などを痛めてしまうこともあります。
経済面の負担
介護をするには日常生活でもさまざまな費用が発生します。在宅介護を行う場合には、紙おむつや介護食品などの費用が発生します。また、介護の時間を確保するために労働時間の調整や離職を余儀なくされ、収入減となってしまう可能性もあります。 その場合、介護を受ける人の年金や家族の貯蓄などから、生活費や介護費用を捻出する必要が出てくるのです。
精神面の負担
在宅介護を行う家族は常に要介護者のことが頭にあり、外出さえもままならず、それがストレスになることもあります。自分のための時間を削り、要介護者を介助する時間が増えることで不満を募らせる人もいるでしょう。加えて、認知症の症状があるなど、要介護者の状態によっては、24時間目を離せないこともあります。意思の疎通が難しく、性格が変わってしまうなど、その変化に対する精神的負担も大きくなります。
Part3介護負担やストレスを放っておくことで起こり得る問題
介護による心身の疲労がたまり続けていくと、虐待や介護うつなど、いつしか大きな問題へと発展してしまう可能性があります。自分なら大丈夫とは考えず、誰にでも起こり得ることだと心に留めておく必要があるのです。
要介護者への虐待
厚生労働省の調査※7によると、ここ10年ほどで家族などによる要介護者への虐待が増えています。身体的な虐待だけでなく、心理的、経済的な虐待(要介護者の年金を家族が自分のために使ってしまう場合など)、介護放棄も含まれています。
原因はさまざまですが、まじめな人、献身的な人が虐待を起こすケースも多くあります。介護保険などで受けられる外部のサービスを利用できず、自分一人でがんばりすぎて心身共に疲れ果ててしまうこともあります。施設などと異なり、在宅介護では第三者の目が届かないことも、その一因だと言えるでしょう。
※7出典:厚生労働省 「令和2年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果)」より
介護うつ
昼夜問わずサポートをする場合や、家族の心配、自身の将来に対する不安など、悩みは尽きません。
また、介護によって自分の時間がとれず、気分が沈みがちになることも。誰の手も借りることなく、責任感が強く、一生懸命に取り組む人ほど、介護うつに陥りやすいといえます。
介護離職
働き盛りの世代が親の介護のために同居するものの、仕事との両立ができず、やがて仕事を辞めざるを得ない状況に陥ってしまう、いわゆる「介護離職」というケースも起こり得るのです。そうした状態が続くと、貯金を取り崩すなど、ライフプランに狂いが生じてしまいます。
厚生労働省の調査によれば、介護離職者が仕事を辞めた理由でもっとも多かったのが、「仕事と介護の両立が難しい職場だったため」というもので約60%※8に上ります。
※8出典:厚生労働省「仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業 令和元年度厚生労働省委託事業 労働者調査結果概要」より
Part4介護者がストレスをためこんでしまう原因
ストレスとうまく付き合うことは、なかなか難しいものです。介護者はなぜストレスを抱え込んでしまうのでしょうか。
自分一人でがんばってしまう
親や配偶者が困っているのだから、「自分が何とかしなければならない」という思い込みが強くあるのかもしれません。また、身近に相談できる相手がおらず、自分一人で何とかしようとがんばってしまうケースも多いと考えられます。
職場に相談しづらい
厚生労働省の調査※9によれば、約45%の人が「(介護について職場で)相談しやすいと思わない」(正規労働者の「あまりそう思わない」「そう思わない」の合計)と回答しています。介護を行うにあたり、早めに職場に相談し、支援制度を利用したり仕事の調整をしたりしないと、介護の負担が増大した際に、両立が難しくなります。介護離職せざるを得ないことになると、経済的に困窮してしまうこともあります。
※9出典:厚生労働省「仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業 令和3年度厚生労働省委託事業 労働者調査報告書」より
負担やストレスの軽減・発散方法が
分からない
いざ介護が必要になった時にどうすればいいのか。介護保険で受けることができるさまざまなサービスや各自治体で行っているサービスなどを知らない人も多くいらっしゃいます。本来であれば受けられるはずの支援を受けていないケースもあります。そうしたサポートがないことで、介護はより一層難しいものになるでしょう。
Part5介護ストレスを減らす方法とは?
ストレス予防と発散の方法をご紹介
今すでに介護ストレスを抱えている人も、これから介護をする可能性がある人も、ぜひチェックしてください。
介護ストレスの予防
介護サービスに頼ることは家族の負担を軽減するばかりか、プロによる介護を受けることで、介護を受ける人の心身のストレスを軽減できることもあります。一人で抱え込まないことが大切です。
介護保険制度のサービスを利用する
介護が必要な状態になったら、まずは「介護保険制度」を利用しましょう。65歳以上の要介護認定を受けた利用者が、所得に応じてかかった費用の1~3割の利用料を支払うことで、その人の状態に合った介護サービスが受けられます。利用する場合は、近くの地域包括支援センターや、各自治体の介護保険課などへ申請する必要があります。申請後、訪問調査や主治医意見書等により、各都道府県に設置されている介護認定審査会が要介護認定の判定を行います。
要介護者が介護保険制度で利用できるサービスには、スタッフが自宅に訪問する「訪問サービス」、要介護者が日帰りで事業所通い、機能訓練などを受ける「通所サービス」、介護施設や医療機関に短期間入所し、介護や機能訓練などを受ける「短期入所サービス」などがあります。
- 「訪問サービス」: 訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション
- 「通所サービス」: 通所介護、通所リハビリテーション
- 「短期入所サービス」: 短期入所生活介護(ショートステイ)、短期入所療養介護など
ほかにも、施設に入居する「施設サービス」や、要介護者が身近な地域でサービスを受けられる「地域密着型サービス」があります。
そのほか、国が介護と仕事の両立を支援する制度を設けています。
ケアマネジャーに相談する
要介護の認定を受けたら、これからの支援目標や利用するサービスを決めるケアプランを、介護支援専門員(ケアマネジャー)が作成します。作成にあたっての費用は、全額介護保険より給付されます。その際に、介護を行うにあたっての不安や悩みを遠慮せずに相談しましょう。経済的な不安や精神的負担の軽減にもつながります。
自宅での介護が難しくなった時のために、介護施設を利用することも選択肢として考えておきましょう。
見守りサービスなどを利用する
離れた場所から見守ることができるネットワークカメラや、要介護者が声で電子機器の操作ができるAIスピーカーなど活用することで、介護の負担が軽減できる場合があります。
住まいを見直す
在宅介護の場合、要介護者も家族も安心安全に暮らせる家が理想です。例えば、部屋の出入り口の段差や家電の配線コードなどが原因となる転倒事故が発生することもあります。高齢者の場合は重傷化しやすく、骨折などで入院し、ベッドで過ごす時間が長くなると、やがて歩行が困難になったり、自立した生活が難しくなったりする可能性もあります。
介護ストレスの発散
友人や仲間との関わりを持つことを心のよりどころとする人もいれば、好きな音楽を聴く、趣味の絵を描く、ガーデニングを楽しむ、お気に入りのカップでティータイムを楽しむなど、自分のための時間をもつことは、精神的な安定をもたらしてくれるはずです。特に在宅で介護をしている人は、一日わずかな時間でも自分だけの時間をもつことでストレスが軽減できるのではないでしょうか。
家族だからといってお互いのことをすべて理解することは到底できませんが、要介護者はどんなことが好きだったのか、どんな暮らしをしていたのかをふまえて家族がサポートすることで、その人は穏やかな暮らしを送ることができるのではないでしょうか。認知症を患っている人にとっては、歌や楽器の演奏、絵を描く、ペットと触れ合うなど、長年親しんできたことが心の安定につながる可能性もあります。
また、香りを楽しむことを取り入れてはいかがでしょうか。庭やベランダで育てている花やハーブの香りは、ストレスを緩和してくれるでしょう。好きなものに囲まれて、自分や家族がくつろげる空間にする。それこそが、在宅介護のメリットでもあります。
ここでは、介護の負担やストレスを軽減する方法についてご紹介しました。在宅介護の負担を軽減し、人生を豊かにするためには、住まいの性能や間取りの工夫がとても重要です。
Part6介護の負担やストレスを軽減する家づくりの工夫
これから家づくりやリフォーム、引っ越しなどを考えている人のために、介護のストレスを軽減する家づくりのコツをご紹介します。すべてを解決できるわけではありませんが、負担やストレスを軽減する住まいができることをぜひ知っておきましょう。
介護や住まいのプロに相談する
大和ハウスグループの総合窓口であるLivness(リブネス)では、グループ会社のうち8社が連携し、お客さまの住まいや暮らしに関わる悩みを、ワンストップで解決できるように、体制を構築しています。ケアマネジャーに介護の相談もしていただけるので、在宅介護を機に家づくりを考えている人は、ぜひ問い合わせしてみてください。
ユニバーサルデザインの家にする
誰でも安全に上り下りできる「階段幅」や、車いすでも通行しやすい通路幅など、介護が必要な人はもちろん、子どもから高齢者までさまざまな世代が暮らす住まいでは「みんなにやさしい」ことが大切です。また、階段の上り下りのない生活動線がスムーズな平屋は、家族のコミュニケーションがとりやすく、幅広い世代に魅力があります。
ダイワハウスのユニバーサルデザイン
- 左/スライドベンチ:靴の脱ぎ履きに適した高さに設定でき、引き出し式で靴箱にコンパクトに収納可能
- 中/ファミリースイッチ:子どもや車いすの人でも操作できる位置に電気のスイッチを設置
- 右/指はさみ防止機能付き玄関ドア:隙間を極力なくし、指はさみ事故を防止
ただし、本来であれば必要でない部分に手すりをつけたことで体をぶつけてしまったなど、せっかく取り付けた設備や機能が、介護が必要になった時に実際の生活に即していなかったというケースもあります。
自分時間を大事にできる家にする
上記でご紹介したように、介護のストレスを予防したり発散したりする上で、家族が自分の時間を確保することが重要です。例えば、家族のテレワーク中に、要介護者が大きな音でテレビを見ているなど、日常生活において生活音に困ることは多々あるかと思います。
在宅介護をする暮らしでも、静かな環境でテレワークができる、音漏れを気にせず音楽を聴いたりテレビを見たりできる、そんなふうに、自分の時間を大事にすることはできそうです。
例えば、ダイワハウスの注文住宅の中には、快適防音室&静音室「音の自由区」という提案があり、減音レベルが違う3つのグレードが用意されています。音の大きさに合わせて、それぞれが図書館並みの静けさ(45dBA)まで減音できるので、暮らしにおいて音が気になる人などは、ぜひウェブサイトをご覧ください。
在宅介護をしながらも、快適な環境でテレワークをしたいなら「やすらぐ家」。時には、リフレッシュのために楽器を演奏したりカラオケをしたりしたいのなら「奏でる家」など、理想のライフスタイルに合わせてグレードを選べます。
こういった防音環境であれば、さまざまなストレスを軽減でき、自分時間を有意義に使え、介護をする人も介護を受ける人も、もっと心にゆとりをもって暮らせるのではないでしょうか。
※数値は、大和ハウス工業で測定した数値(JISA1417:2000 建築物の空気音遮断性能の測定方法に基づく)ですが、性能値として保証するものではなく、使用状況や周辺の環境、間取りなどにより異なる場合があります。
介護のストレスや不安を整理して、
家族みんなが望む暮らしを考えよう
「介護」をしていると、先が分からず不安に陥りやすくなります。まずは、漠然とした不安を整理しましょう。お金や健康のこと、住まいのことなど、不安を一つひとつクリアにすることで、はじめて対策ができるのです。
不安を整理するためには書き出してみることも有効です。「3行日記」などは自分を客観視することができ、自己管理を行うための手段としてもおすすめです。
お話を伺った方
小山 朝子さん
介護ジャーナリスト、介護福祉士。小学生時代は「ヤングケアラー」で、20代からは洋画家の祖母を約10年にわたり在宅で介護。執筆、講演をはじめ、介護現場の取材や調査を長年にわたって行い、介護ジャーナリストの草分け的存在に。最新刊『ひとり暮らしでも大丈夫!自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)が各種メディアで紹介され、話題に。