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家づくりを知る

住み替え時の3,000万円の
特別控除と住宅ローン控除、
どちらを選択?

「人生100年時代」とうたわれるこの現代では、生き方はさまざまです。進路選択、結婚か独身か、国内にとどまるか海外移住するかなど、私たちの人生は日々選択の連続です。住宅に関しても同じことが言えるのではないでしょうか。ずっと賃貸住宅を選択する人もいれば、一方で複数回住宅を購入するという選択をする方もいます。今回は実際にあったケーススタディから、住宅ローンを既に組んで住宅を購入した方が、新しい住宅に住み替える際の制度についてのご相談内容をご紹介します。

今回のケーススタディ

ご家族の情報

プロフィール

夫:外資系会社員 年収900万円 37歳

妻:会社員 年収420万円 第2子妊娠中(半年後に誕生予定)

子:長女 3歳

  • 3人目の子どもも3年以内に出産ご希望
  • また子どもが小学校入学前までは時短勤務の可能性もあり

主な相談内容

「数年前に中古マンションを購入し、購入後自らリフォームして住み始めましたが、子どもが成長してきて、第2子の誕生予定もあるため、この先は手狭になるだろうと感じています。できればもう一人子どもも希望しており、子どもの足音などで気を遣わずに、のびのび暮らせるように戸建て住宅への住み替えを検討しています。その上で希望をかなえる物件の費用面も気になるところです。購入した時よりも高い金額でマンションが売れそうですが、今のローンよりも返済金額が多くなってしまうので、3人の子どもを育てていくのにも費用がかかることを考えると、払っていけるのか不安に思います。また、税金についても、3,000万円の特別控除と住宅ローン控除のどちらを選択すべきかのアドバイスも欲しいです」とのことでした。

相談者さまの状況

入居中のマンション 住宅種類 中古マンション
購入金額 4,700万円
リフォーム代金 300万円
ローン残高 4,300万円
購入時期 3年前
住宅ローン 夫婦ペアローン(半分ずつ)
売却査定額 6,600万円
管理費・修繕積立費 32,000円/月
駐車場代 20,000円/月
住宅種類 新築戸建(長期優良住宅)
購入予定の戸建住宅 購入予定時期 2年以内
土地・建物価格 7,500万円(税込)
購入時の諸費用 360万円
住宅ローン金利
※変動金利
1%
住宅ローン返済期間 35年

ライフプランの作成

まず、ライフプラン(キャッシュフロー表)を作成し、抽象化している金銭面の悩みや不安を目に見える形にします。今回はまず、希望の戸建て住宅を購入しても問題ないかを見ていきました。外資系に勤務している夫の年収が早い段階で1,000万円を超えるだろうという見通しもあり、仮に妻が時短勤務での働き方になっても、収支が安定するだろうという予測が立ちました。また希望している第3子を育てることになっても、児童手当の制度改正も見込まれることから、高校からはご夫婦の希望通り私立の学校に通わせることが可能であり、収支が破綻することなく、結論として、希望額での戸建て住宅への住み替えは問題ないという判断に至りました。

3,000万円の特別控除か、住宅ローン控除か

今回の相談者さまは住み替えです。入居中のマンションを売却した上で、新しい住宅を購入しようと考えています。仮に取得時の物件価格より高く売れた場合、売却した際に得られる利益(譲渡所得)に対しては税金が発生します。税金は所有期間によって変わります。

※譲渡した年の1月1日現在の所有期間

所得種類 所有期間 所得税 住民税 復興特別所得税 合計
短期譲渡所得 5年以下の土地・建物 30% 9% 0.63% 39.63%
長期譲渡所得 5年超の土地・建物 15% 5% 0.315% 20.315%

今回の相談者さまの場合は、今の住居の購入から5年以内での売却となるため、税率が高くなり高額な税金が発生します。しかし、自宅を売却した際には、条件を満たしていれば譲渡所得から最高3,000万円までを控除できる「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」という制度があります。また、住宅ローンを利用して住宅の新築・取得をする場合には、毎年の住宅ローン残高の0.7%を最大13年間所得税額等から控除可能な「住宅ローン減税」という制度もあります。「3,000万円の特別控除」と「住宅ローン控除」はどちらか一方しか選択できないという決まりになっています。相談者さまは自分の場合どちらを選択するのが、より良い選択になるのかという点が気になっていました。相談者さまの場合のそれぞれの制度を利用した税額を確認してみましょう。

まずは3,000万円の特別控除です。

譲渡所得税額を求める際は譲渡所得を求める必要があり、譲渡所得を求める計算式は、以下のようになります。

「課税譲渡所得金額=譲渡(売却)価格-(取得費+譲渡費用)」

※「取得費」には、不動産を購入する際に発生した、購入金額、仲介手数料・登記費用などの取得時の諸費用が含まれます。また、物件購入時にリフォームなどしていれば、リフォーム代金も加える必要があり、建物は築年数が経過すると価値が下がるため、所有期間中の減価償却費にも考慮する必要があります。

例) 今のマンションが6,600万円で売却できた場合の課税譲渡所得の計算
今入居しているマンションの取得費(取得費=購入金額+リフォーム代金+取得時の諸費用-減価償却費)が5,150万円、譲渡費用225万円だったと仮定した場合

※減価償却費とは、購入した固定資産である建物や設備等の取得費用を、その資産が使用される期間にわたって分割して、計上する費用のことです。

課税短期譲渡所得金額の計算

6,600万円-( 5,150万円+225万円)=1,225万円 →課税短期譲渡所得金額
1,225万円×39.63%=約485万円 → 譲渡所得税額

つまり、3,000万円の特別控除の適用を受けることで、約485万円分の税金が控除されることが分かります。

次に、住宅ローン控除はどうなるのでしょうか。

2025年までに住宅を購入する場合には相談者さまのような子育て世帯には拡充があり、長期優良住宅の場合には控除上限額が5,000万円になると予想されます。

出典:国土交通省報道資料「住宅ローン減税の借入限度額及び床面積要件の維持(所得税・個人住民税)」

7,500万円の住宅ローンを5,250万円×2,250万円のペアローンで組んだ場合の住宅ローン控除額
(金利1%で長期優良住宅の場合)

先述しているように妻は今後、産休・育休を取得する予定で、さらにもう一人子どもを出産する可能性があります。住宅ローン控除は支払った税金が戻ってくる制度になりますので、産休・育休により税金を支払っていない期間はそもそも控除ができる税金が発生しません。そのため、最も控除額が多い最初の2年間を控除がなかったと仮定した計算もしてみましょう。

2年間の産休・育休等を含んだ場合の住宅ローン控除額(金利1%で長期優良住宅の場合)

結果を見ると2年間の産休・育休等を含んだ「住宅ローン控除」が約533万円、「3,000万円の特別控除」が約485万円となり、「住宅ローン控除」の方が控除額が大きいことが判明しました。

結論

今回の相談者さまの場合には、マンションから戸建住宅への住み替えにより、住宅ローンの返済金額は上がりますが、下記のポイントにより返済金額の増加分がそれほど大きく生活に響くこともなく、キャッシュフロー表を確認しても安定して生活が送れるような結果となりました。

ポイント

  • 現在のマンションが購入時よりも高い金額で売却できる見込みであり、手元に現金が残ること
  • マンションから戸建て住宅に変わったことにより、定期的な支払いが不要になった費用があること
    (1)駐車場代 → 年24万円(月2万円)
    (2)管理費・修繕積立金 →年38.4万円(月3.2万円)
    合計年間 624,000円
    ※ただし、戸建て住宅の場合、修繕費は自分でためる必要があります。
  • 児童手当の制度改正

令和6年10月分(令和6年12月支給)からの児童手当については、所得制限の撤廃・高校生年代(18歳到達後、最初の3月31日)まで拡充・第3子以降の月3万円への増額等が予定されています。今までの制度では所得制限の対象だったと考えられる相談者も、今後は児童手当を受ける対象になると予想できるので、その収入分も反映し、安心して住み替えに踏み切っていただいて問題ないと最終的に判断し、お伝えしました。

また「3,000万円の特別控除」と「住宅ローン控除」のどちらを選択するべきかについては、今回のシミュレーションでは住宅ローン控除を選択した方が控除額が大きいという結果になりました。しかし、入居中のマンションの実際の売却価格や、妻の今後の働き方などによって結果は変わる可能性があります。今後の見通しが大きく変わる場合には再度ご相談くださいとご案内をしました。おのおのの暮らしや家庭の状況によって、暮らしの行方は大きく変わります。不安のまま計画を進めるのではなく、ファイナンシャルプランナーへ相談をすることで、将来にわたって安心できるプランを作成できます。希望の住宅を安心して購入するためにもファイナンシャルプランナーへのご相談をおすすめします。

執筆者

山田健介

FPplants株式会社 代表取締役社長

住宅メーカーから金融機関を経て「お客さまにお金の正しい知識や情報をお伝えしたい」という思いからFPによるサービスを行う会社を設立。現在は全国のFPを教育する傍ら、執筆、セミナーを行う。特にライフプラン作成、住宅、保険に関する相談を得意とする。

※掲載の情報は2024年6月現在のものです。内容は変わる場合がございますので、ご了承ください。

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