住宅を購入する際に多くの方が頭を悩ます問題のひとつとして、住宅ローンと投資のバランスをどのように取るかという問題があります。このコラムでは、ファイナンシャルプランナーである私が実際に遭遇したケーススタディをご紹介し、住宅ローンと投資のバランスの決定において重要なポイントを解説します。
今回のケーススタディご家族の情報
プロフィール
夫(38歳・会社員)、妻(36歳・会社員)、長男(5歳)、次男(3歳)
主な相談内容
相談者は年収合計920万円のご夫妻で、子どもが2人います。相談者は5,000万円の住宅ローンを検討しており、ローンの金額が適正かどうか、また、頭金をどうするかお悩みでした。幸いなことに、相談者は1,000万円を頭金としてすでに用意しており、この資金を全て頭金とした方がいいのか、もしくは投資などの資産運用として活用し、その場合どのように活用すればよいかが主な相談内容でした。
ライフプランの作成
まず、ライフプランを作成し、家計の収入と支出、将来の希望や目標、リスク許容度などを詳細に分析しました。このプロセスを通じて、相談者が検討されていた5,000万円の住宅ローンが相談者の経済状況に適合していることを確認しました。
頭金として用意した1,000万円の使用方法
次に、頭金として用意した1,000万円の使用方法についての相談がありました。
- 1,000万円を全額住宅ローンに入れる方法
- 一部を投資に回す方法
このケーススタディでは、NISAを利用した投資が検討されました。NISAは税制上のメリットがあり、適切な投資戦略を採用すれば長期的な資産形成に役立ちます。一方、住宅ローンの頭金を増やすことにより、将来的な金利リスクを低減し、総支払額を減らすことが可能です。
上記の通り、二つの選択肢が考えられたので、
- (1)700万円を頭金として住宅ローンに入れ、総支払額を減らした場合(4,300万円の借り入れ)
- (2)用意していた1,000万円から諸費用分300万円を支払い、残りの700万円はNISAを利用し資産運用をした場合(5,000万円の借り入れ)
としてそれぞれのシミュレーションを比較することにしました。
実際に使用したシナリオ
シミュレーションと相談者の決定
さまざまなシミュレーションを行い、それぞれの選択肢のメリットとデメリットを相談者に提示しました。最終的に、相談者は頭金を少なめにして、NISAを利用した投資を行う選択をしました。また、この際の資産運用のシミュレーションは過去の投資信託や債券といったさまざまな金融商品の推移を見て利回り1%だった場合、3%だった場合、5%だった場合と複数のパターンを用意してご提示しました。
今回の例は3%のものをご紹介しています。その上で住宅ローンの差額と資産運用で生まれる利益を比較しながら、どのような選択をするのが良いのかを相談者と一緒に考えました。
ファイナンシャルプランナーとしてのアプローチ
このケーススタディでは、相談者にとってどの方法が良いかを判断するのに必要な情報提供が重要でした。また、投資にはリスクもあるため全ての相談者が同じ解決策を選ぶ訳ではありません。したがって、ファイナンシャルプランナーとしては、相談者のライフプラン、リスク許容度、将来の目標に応じて、最適なアドバイスを提供することが求められます。
住宅ローンと投資のバランスの決定は、多くのご家庭にとって重要なものです。ファイナンシャルプランナーとしての役割は、単に情報を提供することだけでなく、相談者が自信を持って適切な決定を下せるようにサポートすることにあります。このケーススタディでは、適切なファイナンシャルプランニングによって、相談者に適した決定を下していただくための選択肢をご提供しました。
シミュレーションのまとめ
今回のケーススタディの住宅ローンと投資のシミュレーション
期間設定
35年の長期間にわたるシミュレーションを行いました。これは住宅ローンの一般的な返済期間と、投資の長期的な成果を見るのに適した期間です。
投資の運用率シナリオ:投資の年間平均運用率が異なる3つのシナリオを想定しました。これにより、投資のリスクとリターンのバランスを評価できます。
過去のデータに基づく検証
過去の投資パフォーマンス
過去35年の期間に同じ投資戦略を採用していた場合の結果を検証しました。これにより、投資の過去のパフォーマンスを理解し、将来の投資戦略についての判断材料を得ることができます。
結論
今回の相談者は手元にお金があり、それを頭金として住宅ローンに入れるのか、それともNISAを使って資産運用をするのかというところに対してのご相談でした。資産運用には絶対がないので100%こちらが正しいという回答は出せないのですが、こういうパターンの場合にはこうなる、こういったパターンの場合にはこうなる、というさまざまなパターンをご提示し相談者がご自身の意志で選択ができるような情報提供を行いました。
その中で、投資の場合、資産運用で得た利益を元本に再投資することで、複利の効果が得られることを理解していただく一方、住宅ローンの金利と投資での利回りのパーセンテージは単純な比較をすることができないこと、そして、複利の効果が得られる投資ではあるものの、市場の状況次第ではリスクがあることも理解していただきました。将来を断定するようなシミュレーションはできませんが、上記を踏まえ、今回は、過去にどのような資産運用がなされてきたかを参考に判断するという手法を取りました。このケーススタディでは、安心して住宅ローンを組むお手伝いができ、相談者もどちらが得かということではなく、どちらがご自身の考えに合っているかで判断できたのはとても良かったとのご感想をいただきました。
相談者や市場の状況によっては、頭金と資産運用を比べるだけでなく、繰り上げ返済の検討をする方が良い場合もあります。ご自身に合う最善の選択をするためにも、住宅購入を検討する際には信頼のできるファイナンシャルプランナーへの相談をおすすめします。
執筆者
山田健介
FPplants株式会社 代表取締役社長
住宅メーカーから金融機関を経て「お客さまにお金の正しい知識や情報をお伝えしたい」という思いからFPによるサービスを行う会社を設立。現在は全国のFPを教育する傍ら、執筆、セミナーを行う。特にライフプラン作成、住宅、保険に関する相談を得意とする。
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