人はなぜ眠るのか。これはいまだ解明されない謎ですが、
睡眠がすべての人にとって大切であることは言うまでもありません。
老舗の寝具メーカーであり、科学的な睡眠研究を行う西川株式会社に、
上質な睡眠のためのノウハウを教えていただきました。
良い睡眠は心身の健康の要
睡眠は心と体の健康に深く関わっており、その役割は大きく4つに分けられます。1つ目は食欲のコントロール。食欲を増進させるグレリンというホルモンの分泌を抑制し、反対に食欲を抑えるレプチンを増加させる働きがあります。睡眠が不足するとこれらのホルモンバランスが崩れ、過食や代謝機能の低下によって、太りやすくなる可能性があります。
2つ目はメンタルバランスの調整。睡眠にはストレスを緩和し、イライラを抑える役割があります。睡眠不足は脳の働きに影響し、イライラや気分の落ち込みの原因になります。
3つ目は集中力や注意力の維持です。睡眠が不足すると、覚醒時(かくせいじ)に集中力や注意力の低下からさまざまなミスを起こしやすくなります。また、睡眠中、体は休んでいますが脳は活性化し、情報の整理や記憶の定着を行っています。試験前にはよく眠るのが良いといわれるのは、覚えた知識が定着しやすくなるから。徹夜で勉強して覚えた知識は、短期的には記憶しても、それ以降は忘れてしまう可能性が高いのです。
4つ目は体のメンテナンス。入眠から約3時間に最も深い眠りが訪れ、成長ホルモンが分泌されます。成長ホルモンは「成長」という言葉から大人には関係ないと思われがちですが、骨密度を上昇させるほか、皮膚のハリを保ってしわを減らしたり、代謝を調整したり、脂肪を減らしたりするなど、老化予防の働きがあり、美容においても大切なホルモンなのです。また、免疫力の維持・強化にも関係します。
子どもの成長と睡眠の関係
生後間もない赤ちゃんは1日に約15〜17時間眠り、昼夜の区別なく3〜4時間おきに目覚めます。3〜5歳くらいになると大人の睡眠時間に近づきますが、小学生くらいまでは体の発達のためにしっかりとした睡眠が必要です。一般的には9〜10時間といわれますが、前述の成長ホルモンが十分に分泌するように、長さだけでなく質の良い睡眠が取れるように配慮しましょう。
睡眠の質を高める寝具選び
感染症予防など健康への関心が高まる昨今は、より良い睡眠を取ることで免疫力を高めようと、マットレスや敷き布団、枕などの寝具を買い替える人が多いようです。ここでは体に合った寝具を選ぶポイントをお伝えします。
マットレス・敷き布団
立った時の姿勢をそのまま90度倒した姿が理想的な寝姿勢。体圧分散(体の圧力が部分的に集中せず分散された状態)が寝姿勢保持のポイントになります。マットレス・敷き布団が柔らかすぎると腰が沈んで体が「くの字」になり、反対に硬すぎると腰の後ろが浮いて負担になるので、自分に合った硬さを選びましょう。
掛け布団・カバーリング
掛け布団やカバーリングは、季節に合わせて適した厚みや肌触りのものを使い分けることが大切です。西川の羽毛布団を例に挙げると、掛け布団、合い掛け布団、肌掛け布団の3種類があります。
特に枕やマットレスなどは、お店で販売員にアドバイスを受け、実際に寝心地を確かめて購入することをお勧めします。西川の販売店には、後頭部や首の高さなどを細かく計測する測定器や、体圧測定器があります(店舗により異なります)。
枕
枕は頭と首の両方を支えるもので、頭だけをのせると首に負担がかかります。頚椎(けいつい)の隙間を埋め、自然な寝姿勢を保てるのが、自分に合った枕です。枕の素材は綿(わた)、羽毛、そば殻、パイプ、備長炭など多岐にわたりますが、好みで選んで構いません。
眠りのための寝室環境を整える
快適な睡眠を得るための寝室環境のポイントをご紹介します。
温度・湿度
温度は冬季10度以上、夏季28度以下が推奨されています。湿度は50パーセントが目安。熱帯夜などにはエアコンを朝までつけたまま眠っても構いませんが、朝方には体温が低下するので掛け布団をかけて調節してください。エアコンの風は直接体に当たらないように。
光
明るさの目安は0.3ルクス程度。ものの形がぼんやりと見える程度の明るさです。照明器具の光が直接目に入らないよう、フロアランプや間接照明を利用するのがお勧めです。
音
目安は40デシベル以下。図書館程度の静かさがちょうど良いとされています。まったくの無音の状態では不安を感じてしまうことも。
香り
就寝時のアロマには神経を落ち着かせるラベンダー、ローズ、カモミールなどの香りがぴったり。起床時はさわやかなペパーミント、レモンやグレープフルーツなどの柑橘系の香りがお勧めです。
空気
室内のほこりはアレルギーや咳の原因になります。主に布類から発生するため、布団やカバー類などを使う寝室は特にほこりがたまりやすくなっています。こまめに手入れをして清潔に保ってください。
色
寝室のカラーコーディネートは、自分が落ち着ける色がベスト。一般的にはベージュなど、安らぎを感じられる色が良いとされていますが、北欧風のインテリアのように明るい色やポップな柄を取り入れるのも良いでしょう。
健やかに眠れる生活習慣
最近は在宅の時間が長くなったため活動量が減り、夜眠れない、昼夜が逆転してしまったなどの悩みがよく聞かれます。ここでは、上質な睡眠のための生活習慣をご紹介します。
運動
日中の活動量や満足度によって睡眠の質は左右されます。仕事や勉強の合間に5〜10分のストレッチを何度か行うのがお勧めです。ただし、寝る前に激しい運動をすると、睡眠の質が低下してしまうのでNG。激しい運動は夕方までに行いましょう。
食事
食事をすると胃腸の働きが活発になるため、睡眠の妨げになります。就寝の2〜3時間前に終えるのが理想です。炭水化物の取り過ぎは成長ホルモンの分泌を抑制するので、肉や魚などタンパク質を取るようにしましょう。どうしても夜遅くに食べる場合はヨーグルトやチーズ、バナナなど消化の良いものを。
入浴
人間の体は体温が下がる時に眠気を感じる仕組みになっています。就寝の1〜1.5時間程度前に入浴し、体温を上げておくと徐々に体温が下がっていき、スムーズな入眠ができます。湯船の湯温は少しぬるめの38〜40度程度。湯温が高すぎると交感神経が活発になってしまいます。
スマートフォン・パソコンなど
ブルーライトは目に刺激を与え、脳を覚醒させるため、就寝の1時間前、少なくとも30分前にはスマートフォンやパソコン、テレビを見るのをやめるのが理想です。
入眠ルーティン
アロマを楽しむ、パジャマに着替える、ストレッチを行うなど、就寝前に行う作業を決めておきます。「これから寝るのだ」という気持ちの切り替えになり、入眠しやすくなります。
- 朝すっきり起きるコツは?
- 自分の睡眠サイクルを把握することです。睡眠にはサイクルがあり、浅い眠り(レム睡眠)と深い眠り(ノンレム睡眠)がセットになり、一晩に4〜5回繰り返されます。一般的には90分で1サイクルですが、80〜100分まで個人差があります。自分の睡眠サイクルを把握して、例えば90分サイクルの人が6時に起床したいなら12時に就寝するという具合に工夫すると、すっきり目覚めることができます。
- 寝る時にはパジャマに着替えるのが良いのでしょうか?
- はい。寝ることに特化した衣服なので機能や着心地に優れています。部屋着と区別していない人も多いと思われますが、パジャマは睡眠を目的としたもの。睡眠中はコップ約1杯分の汗をかいています。そのため、吸放湿性の高い素材のパジャマを選びましょう。また、就寝時に着替えること自体が、睡眠へと気分を切り替えるスイッチになります。
- いびきや歯ぎしりの解消法を教えてください。
- 寝姿勢や生活習慣で改善できます。睡眠中にのどの奥の筋肉が緩み、気道が狭くなると、空気が通る際に抵抗が大きくなって振動音が起こります。これがいびきです。抱き枕を使い、横向きで安定した姿勢で寝ると緩和できるかもしれません。歯ぎしりは、あごのかみ合わせのバランスが取れていない成長期によく起こります。また、ストレスにも起因するので、規則正しい生活やストレス発散を心がけてください。
- 寝具の買い替えの目安を教えてください。
- 枕は2〜3年、マットレスは10年程度です。使う人の体型や体質、寝室の環境などで異なりますが、枕は2〜3年、マットレスは10年程度が買い替えの目安。枕は使い続けて高さが変わってきた場合、中の素材を調整してメンテナンスできる商品もあります。
- 夫妻で寝室やベッドを分けるメリットは?
- それぞれの体に合った環境で眠れることです。マットレスは人によって合う硬さが異なるので、眠りの質という観点からは、個々のベッドでお休みになるのがお勧めです。また、睡眠時は体温が変化し、暑さや寒さの感じ方は個人差が大きくなります。感じ方が大きく異なる場合はお互いが快適に過ごせるように、別室でお休みになるのが良いでしょう。
眠りのプロ「スリープマスター」(社内認定資格)に、眠りの疑問や悩みを相談できるサービスです。眠りに関するヒアリングや、機器を使った眠りの計測、睡眠環境の計測によって、眠りを可視化。一人ひとりにフィットした睡眠環境や寝具を提案してくれます。
- ※店舗によってサービス内容は異なります。
- ※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、臨時休業や営業時間短縮の店舗がございます。お出かけ前に各店にお電話などでご確認ください。
2021年9月現在の情報となります。