照明は単にその場を明るくするだけではなく
人の暮らしにおいて、とても大切な役割をもっています。
今回は照明の専門メーカーに、人と照明の関係について
教えていただきました。
私達の体に刻まれた自然光の記憶
人間と光の関係を考える時、太陽の存在を無視するわけにはいきません。人類が誕生してから今日に至る約300万年の年月を1日24時間に換算してみると、照明が発明されたのはわずか4秒前のこと。それまでの23時間59分56秒は、太陽、月、火という自然環境下の光でのみ暮らしてきました。このことから、人間と自然光がいかに関係深いかが分かります。太陽とともに生活してきた記憶は、DNAレベルで私達の体に刻み込まれているといえるでしょう。
太陽の光は朝から昼へ、そして夜へと、時間を経るごとに刻々と変化します。私達の体は朝の白い光を浴びるとセロトニンというホルモンが出て脳内の体内時計がリセットされ、活動的になります。また、日がだんだん沈み、空がオレンジ色に染まっていくと、人の体は徐々に休息モードに入ります。これはメラトニンというホルモンの働きです。
人工の光の下で生活するようになっても、私達の体と光の関係は基本的には変わりません。朝の光をしっかり浴びないと体にスイッチが入らないことや、夜に明るい光を浴びたり、寝る直前までスマートフォンを見ていたりするとメラトニンの分泌が鈍って睡眠の質が低下することはよく知られています。
住まいの照明計画を立てる際の大きなポイントは、自然光のリズムをできるだけ踏襲すること。ご家族の心身の健康に大きくかかわる光と明かり(照明)の環境をしっかりと整えたいですね。
住まいにおける照明は一室多灯の時代へ
かつて日本の住宅の照明は「一室一灯」が中心でした。部屋の天井の中央にシーリングライトやシャンデリアなどが設置され、部屋全体を一つの明かりが照らしていました。一日を通じて変わらない明るさや光の色で生活をするのが普通だった時代です。
2000年代からは「一室多灯」の時代が始まります。これは部屋全体を一つの照明器具ですみずみまで照らすのではなく、ダウンライト、間接照明、スタンドライトなど複数の照明を立体的に分散配灯する考え方です。食事、団らん、ホームパーティーなど、さまざまな生活シーンに応じて照明を使い分けるのが主流になってきました。
その背景となった要因としては、住宅の間取りの変化が挙げられます。リビング・ダイニング・キッチンを一体化した間取りが増え、そこでさまざまな日常生活のシーンが繰り広げられるようになりました。また、家族の形とライフスタイルが多様化したことや、インテリアトレンドの多様化や、必要に応じた明るさで省エネ性を高める考え方が広まったことも、理由として挙げられます。
クリエイティビティを刺激する創作の場には、やさしい自然光を取り入れて。素材を際立たせるミニマルなインテリアに、存在感を抑えたシンプルな照明器具が似合います
朝食をとる時は、朝の太陽の光に近い、白い色の照明を。夕食時には料理をおいしく感じさせる暖かな色の照明で。夜の団らんの時間には、間接照明やスタンドライトでリラックスした雰囲気を演出して…。多様な生活シーンをさまざまな照明で演出する考え方が主流になってきたのです。
この傾向は、今後より強まっていくと考えられます。新型コロナウイルス感染症の影響で在宅でのテレワークが一気に推し進められ、プライベートな場所だった自宅が執務スペースになったり、テレビ会議の場になったりしています。子ども達がオンライン学習をする機会も増えました。このように家の中で過ごす時間が増え、行うことも多彩になっているからこそ、照明の切り替えで作業に適した環境を整えたり、気分を変えたりすることが重視されるようになるでしょう。
勾配天井を照らす間接照明を中心に、スタンドライトやスポットライトを組み合わせて「一室多灯」を実現。天井や壁の素材感が照明によって豊かな表情に変化します
コイズミ照明株式会社
1716年創業の老舗企業、小泉産業株式会社グループの中核を成す照明メーカー。省エネ・省資源の環境配慮型製品やデザイン照明など、住宅用照明から店舗・施設向け照明まで幅広く手掛ける。本社は大阪府大阪市。
column
天井・壁・床の明るさバランスによる心理効果
自然界の光のバランスは、天(空)が明るく、地面が暗め。このバランスが人間にとって落ち着くといわれています。これを応用して、天井面・壁面・床面の明るさのバランスによって、さまざまな演出が可能になります。
アースカラー
天井面と壁面を強調
非日常
床面を強調
重厚感
床面と壁面を強調
ギャラリー風
壁面を強調
閉塞(へいそく)感
天井面を強調
柔らかく
全体に均一に
人に寄り添う光を自動で手軽に
近年、照明業界では「ヒューマンセントリックライティング(人を中心に考えた照明)」が提唱されています。照明は人間に視覚的な影響だけでなく、生物学的・心理的な影響も与えることが明らかになっており、「人に寄り添う光」の研究開発が進められています。
ダイニングは食事以外にも書きものをしたり勉強をしたりと、さまざまな作業に使われます。明るさや色を調整できるペンダントライトで、生活シーンや時間帯に応じたライティングが可能
人に寄り添う光、つまり、人の心身に合わせた明かりには、未知の可能性があります。気分を向上させてコミュニケーションを活発にしたり、仕事や学びの場で集中力をアップさせたり、安全性や効率性を高めたり。病院や介護施設では、患者さんの体の自然治癒能力を高め、慢性疾患の予防をサポートする効果も期待されています。
とはいえ、有効だと分かっていても、毎日こまめに照明の調整を行うのは手間がかかると感じるかもしれません。そんな方のために、住宅内の照明を自動で制御する装置をご紹介します。
コイズミ照明には、IoT技術を活用した住宅用照明制御アプリ「TRee(ツリー)」があります。コイズミ照明の約3000ものアイテムを制御でき、明るさや色の自動調整、シーンに応じた雰囲気の演出が可能です。スマートフォンやスマートスピーカーと連携するため、「パーティーのシーンをオンにして」「勉強のシーンをオンにして」などと声にするだけで操作できます。さらにスケジュール機能もあり、設定時刻になると自動で明るさを落とすといった調整も可能です。こうした住宅用照明制御システムは、新築時に検討することで、コストを抑えて効率良く導入できます。
家中の照明器具を手元で操作できる住宅用照明制御アプリ「TRee」。便利なスケジュール機能もあります
間接照明の効果的な取り入れ方
リビングや玄関ホール、寝室などに間接照明を取り入れたいと考えている方は多いのではないでしょうか。間接照明はまぶしい光が直接目に入らないのでリラックスした雰囲気をつくるのに適しており、照らす方向への空間の広がりも生まれます。
間接照明と、ダウンライト、スタンドライトを組み合わせた「一室多灯」の空間。手元に必要な明かりは、スタンドライトで調整します
天井に光を当てて拡散させるコーブ照明や、壁に光を当てるコーニス照明など、建築構造と一体化させた照明方法(建築化照明)は新築時だからこそ取り入れやすいといえます。このほか、造作のリビングボードや書棚などに照明を納める方法もあります。
間接照明を取り入れる際に気をつけたいのは、光を当てる内装材(クロス、タイル、塗り壁など)との相性です。素材や色や光沢によって反射率が変わるので、思い通りの効果を得るために事前に十分な検討が必要です。
人の心と体に影響する、「あかり」と「ひかり」。暮らしに上手に取り入れて、健やかで快適な毎日をお過ごしください。
取材協力
コイズミ照明株式会社
(本社)〒541-0051大阪府大阪市中央区備後町3-3-7
TEL:06-6266-8141
ショールームのご案内
コイズミ照明では、東京・大阪・福岡・名古屋・沖縄の5か所にショールームをご用意しています。
※諸条件によりオープンを見合わせている場合があります。詳しくはホームページをご覧ください。
2020年7月現在の情報となります。