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Special Interview スペシャルインタビュー サステナブルな人 アルピニスト 野口健さん

写真:福田栄美子

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サステナブルな人 スペシャルインタビュー

野口健さん【後編】環境活動から広がる、テント村での災害支援
~環境活動も日常生活もバランス感覚が大切~

2017.03.27

野口健 さん

アルピニスト

1973年、アメリカ・ボストン生まれ。25歳でエベレスト登頂に成功し、当時世界最年少で、7大陸最高峰登頂を達成。エベレスト・富士山での清掃活動、「野口健 環境学校」の開校、ネパールや熊本地震被災者支援など、登山を通じた社会貢献活動を行う。

厳しい登山で深まる娘とのコミュニケーション

―― 娘さんとの登山を通して、お感じになったことを教えて下さい。

「環境学校」は、対象が小学生から大学生までなのですが、これからは親子参加もアリだなと思っています。私は娘が小さい頃から登山に時々連れて行っているんですが、家にいるときよりも山にいるときのほうが、娘と深いコミュニケーションがとれるんですよね。

山道から落ちたら死んでしまうような登山にも一緒に行っています。娘は疲れて泣きながらも登って、山頂に着いても全然喜ばない。「だって、下りるまでが山でしょ」って(笑)。

冬山登山も体験させました。吹雪の中を泣きながらも行けるところまでは行こうと、娘は気丈にも足を止めずに歩き続けていましたが、吹雪がひどくなりそうだからこれ以上は登らないほうがいいと判断し、山小屋で宿泊したところ、私たちが撤退したコースを登っていった2人組がいまして、そのまま亡くなってしまったんです。

そのときの撤退の判断は、私がプロの登山家としてこれ以上行ったら危ないという限界の感覚が身に付いていたからだと思いますが、仕事でもなんでも、限界の感覚を身につけることが大事なんじゃないでしょうか。そういう父を見ているからか、頼られているのかわかりませんが、娘は「今度はキリマンジャロに登りたい」と言っています。

「日頃、あまり家にいない分、娘との時間を大切にしたい」

学校行事で行われる登山で山を嫌いになる子どもがいますが、専門家と一緒に行くと、山の楽しさがわかるんです。時間を共有できる親子登山はよい経験になると思います。そして、実体験の中から、色々と学んでほしいですね。

野口健さんにとって「続ける」ということ

―― 15歳の頃から登山を始め、今も毎年ヒマラヤ登山をしているとお聞きしました。様々な活動を続けていくなかで、「続けるためのコツ」などはありますか。

続けるということは、新しいことを始めることよりも難しいこと。今やっていることをどうやって最後までやり続け、やり遂げるかが私にとって課題ですね。様々な活動をしているので、たまには疲れてしまうこともあります。そうすると切り替えが大事になってきます。エネルギーを使っていくと、どんどん煮詰まっていくんですね。

そんなとき、まずはその状況から離れてみることです。物事に向き合うことは大事ですが、向き合い過ぎて、余裕がなくなっていくと、全体像が見えなくなってしまいます。後は、単純に疲弊していきます。疲弊していくと、感情がなくなってしまうんです。被災地でスタッフの表情を見ていたときもそう感じました。少し離れてみることも大事ですね。自分がツライなと感じるのを認めること。

自分のモチベーションを維持し続けるためにどうするかの工夫が大切です。私にとっては、ヒマラヤが心のバランスをとれるところであり、続けることのモチベーションを生み出してくれるところ。ヒマラヤの自然に力をもらいに行くんですね。

もちろん、その場所は人それぞれだと思いますが、自然の中にいるとエネルギーがもらえます。人間はエネルギーを消費した分、吸収しなければいけません。そのバランスを崩すと、続かなくなっていくんですね。

ヒマラヤ・エベレストでの清掃活動

一時の思いや正義感では続きません。長く続けていけば、悪い面がみえてくることもある。トラブルも出てくるし、批判されたりすることもあります。ときに日常から離れて、自分の場所をみつけたほうが楽です。逃げる場所とでもいうのでしょうか。壊れるまでやってはいけない。命を落とすのは登山だけではなく、日常生活の中でも自分を殺してしまう。人間はそもそも強くないんです。

環境の環は“わ”とも読みますが、私にとってこの環は自然と人の環、人と人の環。それをどう広げていくか。その環がないとサステナブルな社会になりません。精神的なことや肉体的なことも含め、自分の限界を知り、バランスをとっていくことが、続けることに繋がり、広がっていくのだと思います。

文章:西 樹里(一宝堂) プロフィール写真:福田栄美子 本文中写真:野口健事務所

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