西畠清順さん【前編】植物への“好き”の種を蒔き、人の心を自然へとつなぐプラントハンター
~植物を好きになってもらうことが自分の使命~
2017.03.27
江戸時代より続く花と植木の卸問屋「花宇(はなう)」の5代目として生まれた西畠清順さん。2012年には「そら植物園」も設立し、植物に対する関心をより幅広い層へと広げました。国内外の植物を収集し、本来の魅力を伝えるプラントハンターとしての活動も注目されています。
今回は、自然と人の暮らしとの調和を目指した環境保護や、サステナブルな社会のありかたについて話を伺いました。
西畠清順 さん
そら植物園 代表/プラントハンター
幕末より150年続く、花と植木の卸問屋「花宇」の5代目。日本全国、世界数十カ国を旅し、収集した植物は数千種類に及ぶ。2012年には、ひとの心に植物を植える活動「そら植物園」をスタートさせ、 国内外の企業、団体、行政機関、プロの植物業者等からの依頼に応え、さまざまなプロジェクトを展開し反響を呼んでいる。著書に「教えてくれたのは、植物でした 人生を花やかにするヒント」(徳間書店)、「そらみみ植物園」(東京書籍)、「はつみみ植物園」(東京書籍)など。
その花が育ってきた背景も伝えたいという想いで始めた、そら植物園
―― まず、清順さんと植物との関わりから教えてください。
家業は5代続く花と植木の卸問屋で、生け花の家元やフラワーデザイナー、フラワーアーティストなどと取引をしています。若いころは植物にあまり興味がありませんでした。ただ、物心ついたころから、住み込みの職人さんたちと生活を共にしており、毎日汗をかきながら土と格闘し強くたくましい彼らと共に働きたいという思いは強かったです。
世界を放浪したり、今の仕事とは全く違う業種のアルバイトをしたりした経験はありますが、結果的に、この仕事以外の道を考えたことは一度もなかったですね。
―― 迷うことなく植物の世界一筋だったのですね。植木の卸問屋とはどのような仕事なのでしょうか。
実家の「花宇」に入る前の1ヶ月間、別の業者に修行へ出されたんです。初日から植物の採取のため山に分け入り、寝泊まりは車の中という生活。そういう毎日の中で、切ってはいけない木を採取してしまい、問題になったという経験もしました。それまで自分の使命は植物を探し出すことだと思っていましたが、植物を守る側に立ったうえで魅力を伝えたいと考えるようになりました。
―― 花が咲く姿は華やかですが植木の卸業は裏方ですよね。
プラントハンターは、王侯貴族や生花の家元に美しく貴重な植物を供給する黒子的存在です。ともすれば植物を配送トラックの荷台に積み込んでしまえば仕事はそこで終わりといったところ。
昔は、花と言えば表面的に美しく飾られていれば良しとされていましたが、現代ではテーマや意義が重視されるようになった。
だから、30歳を目標に裏方から表舞台に出てみようと考えていたんです。それを形にしたのが、植物のコンサルティング事務所「そら植物園」です。
代々木駅から徒歩1分の「代々木VILLAGE by kurkku(クルック)」。この中にそら植物園がプロデュースした庭があり、約650坪の敷地内に120種近い植物が集められている。(2020年閉館)
写真提供:そら植物園
―― 「そら植物園」を作ったきっかけは?
一つは、日本の植物業界は生産者と飾る人が別だということ。海外の途上国などでは、畑で花を育てている人が収穫し、店に持っていって飾る。日本は流通が成熟しているがゆえに、生産者と表現者の距離があって、生花店、庭師、造園業者など、世の中に植物の表現をもたらす仕事をしている人でも、我々のような生産卸業者が当たり前に目にする植物の育つ姿を知る機会が少ないのです。
―― 意識したことはなかったですが、我々消費者も、生花店や庭師、造園業者も、目にするのは、花が咲く前後の短い期間に限られているというわけですね。
花が世に出るのは、開花のピークに向け仕上げられた一瞬でしかありません。その花がどこでどのように育てられ、どうやって運ばれたのかは知るよしもない。そういった慣習を壊すため、自分の名前を表に出したプラットフォームを作りたかったんです。
なぜその場所に、その種類の植物が必要なのか?という背景まで把握した上で世の中に伝える。長年卸業で培った目利きで集めた植物の質と、信頼関係を築いてきた庭師や盆栽師といった施工業者との間に築いてきた信頼関係は誰にも負けないという自負がある。
プロジェクトにぴったりな植物と表現者を組み合わせ、その植物のストーリーも伝えられるような提案をすることができるシステムというわけです。
―― 新しいシステムですが伝統の蓄積が生かされているのですね。具体的に「そら植物園」ではどのようなプロジェクトを手がけていますか?
「そら植物園」の立ち上げ時期には、日本中の桜を集めて一斉に咲かせて「桜を見上げよう」というイベント、「Sakura Project」を東京・有楽町で開催しました。
東日本大震災の翌年に47都道府県から集めた桜を、一つの大きな植木鉢の中で、ある日一気に満開にさせる。同じ日に咲くはずがない地域の異なる桜を同時に花開かせることで、「日本は一つ」という復興を祈願するメッセージとして受け入れてもらえました。
あえてデザイナーは入れずに、それぞれの桜の産地にゆかりの深い植木職人に協力してもらって実現させたのですが、翌日のニュースで大々的に取り上げていただいたおかげで、多くの方に見てもらえたのは嬉しかったですね。
有楽町に47都道府県の桜を一堂に集め一斉に開花させた。
写真提供:そら植物園
文章:杉山元洋 写真: 長谷川靖哲