「ソーラーシェアリング」(宮城県登米市)耕作放棄地での農業と再生可能エネルギーの融合
農業を行う人の高齢化などの理由により、耕作放棄地となっている土地が全国で増えています。 今回は法律上、農地転用が行えない土地で、平成25年に施行された「一時転用許可」※1制度を活用しようと、地域のさまざまな方と協働し実現させた、ソーラーシェアリング※2についてご紹介します。
※1 農地の一時転用許可:農地を一時的に利用することを許可する制度。農業を継続し、周辺の平均収穫量の8割以上となる収穫量を確保することや、一時的に利用した後に農地へ復元すること、年に一度の報告義務などが許可の要件となっています。
※2 ソーラーシェアリング:営農型太陽光発電事業。農業を行いながら、上部の太陽光発電システムで発電事業も行うこと。
■建設地概要
登米ソーラーシェアリング
- 所在地
- 宮城県登米市米山町善王寺永沢
- 敷地面積
- 21,013㎡
- 発電電力
- 2,183.0kW
- 栽培
- きくらげ
■建設地概要
加美ソーラーシェアリング
- 所在地
- 宮城県加美郡加美町原八幡堂西
- 敷地面積
- 19,826㎡
- 発電電力
- 1,852.6kW
- 栽培
- きくらげ
ソーラーシェアリング実施の経緯とスキーム
宮城県に、農業を行う人の高齢化や、土壌が農業に向かないなどの理由により、長年耕作放棄地となっていた農地がありました。何社かの電力事業者が、太陽光発電の事業化を試みましたが、農業振興地域に指定されていたことが原因で事業化には至らず、全て途中で断念されていました。その後、地権者から相談を受けた自然エネルギーの発電事業を手がけるサステナジー株式会社が、当社と事業化を計画。通常の農地転用が難しいため、「一時転用許可」を取得し、ソーラーシェアリングとして事業化することに成功しました。
■①発電量の最大化と少ない日射で育つ農作物の検討
宮城県の年間の日射量は、全国平均よりも1割ほど少なく、太陽光発電事業で利益を出すには、いかに発電量を増やすかが課題でした。そこで、太陽光発電パネルを敷地全体に敷きつめたり、発電量を最大限増やせるように小型のパワーコンディショナーを分散させて設置する方法を採用しました。そのため、太陽光発電パネルの下で育てる農作物は、少ない日射で育ち、農業として採算のとれるものを検討。その結果、キクラゲを選定しました。
しかし、国内ではキクラゲの生産が少なく、近隣に生産経験者はいませんでした。そこで、キクラゲ栽培に挑戦してくれる農業法人を見つけるとともに、キクラゲの菌床メーカーと協議して生産計画を立てました。
分散型のパワーコンディショナー
■②一時転用に必要な収穫量の判断基準の設定
次に、農業振興地での一時転用許可の取得に取り組みました。一時転用許可は、各地域の農業委員会が農林水産省の指針に基づいて出しています。指針の中には「農作物の収穫量を近隣の同じ年の平均値と比較して、概ね8割以下にならないように維持する」という許可の条件があります。
しかし今回のキクラゲ栽培では、宮城県でキクラゲの栽培実績がなく許可の条件を満たすのか農業委員会では判断がつきませんでした。
そこで約半年をかけ、農業委員会とお互いに勉強しながら協議を進め、最終的には菌床メーカーからキクラゲ生産量に関する参考データを算出して頂き、収穫量の基準を作ることで、農地の一時転用の許可を取得しました。
栽培中のキクラゲ
■③新しいスキームを構築し、資金調達に成功
こうして、農地の一時転用許可を取得したものの、資金調達の面でも課題がありました、それは、一時転用は農林水産省の指針で3年毎に更新が義務化されており(※現在は条件付きで10年毎)、農作物の栽培を順調に続けられない場合は更新ができません。そのため、固定価格買取制度による20年間の売電収入を前提にした事業に対し、金融機関からはリスクが高いと判断され、融資を受けることができませんでした。
この事態に当社は、リース方式をご提案。大手リース会社の日立キャピタル株式会社を通じ、ソーラーシェアリングに関する設備や工事費をリースするとともに、その他の費用は当社、サステナジーで特別目的会社(SPC)を設立し拠出しました。これらによって、金融機関による融資がなくても事業として成立するスキームを構築しました。
ソーラーシェアリング スキーム図
※大和ハウス工業、サステナジーで特別目的会社を設立し、発電事業を行っています。
太陽光発電パネルの下でのキクラゲ栽培
国内で流通しているキクラゲは、海外から輸入されたものが9割以上で、国産のキクラゲは希少価値があり、今後、需要の伸びが期待できます。
今回の事業では、40tものキクラゲを栽培できる計画となっています。太陽光発電パネルの下部に、菌床を置くために3段の棚を設置、温度や湿度を調整できるよう棚全体を覆うことができるビニールシートのカーテンと、それを巻き上げるハンドル、自動散水装置を付けています。また、積雪量の少ない登米では作業効率を上げるため、強度を確保しながらも筋かいのない構造としています。
キクラゲ栽培の棚
ビニールシートを巻き上げるハンドル
キクラゲの菌床
地域の雇用を生み出し、地域の活性化を促す
キクラゲ栽培には、多くの手間がかかるため、地域の雇用を創出することにも繋がっています。地元の方々が丹精込めて育てたキクラゲは、肉厚で食感がよく、地域の自慢できる商品となっています。サステナジーの菊池さんはオリーブオイルとニンニク、鷹の爪でつくるキクラゲのアヒージョがとても美味しいと教えてくれました。
生きくらげ、冷凍きくらげ、乾燥きくらげの3つのタイプでスーパーや道の駅で販売されています。今後は都市部への販売も予定されており、さらなる販路の拡大を見込んでいます。
大和ハウスグループでは、一気通貫したサービスの提供と多様なスキームの提案が可能です。今回は、地権者、農業委員会、発電事業者、農業法人など多くの方と連携し、農業振興地における一時転用許可の基準の設定や金融機関に頼らないスキームの構築など、新たなビジネスモデルを築くことができました。
今後も、今回得たノウハウを活用して、全国に広がる耕作放棄地の有効活用と、再生可能エネルギーの普及、地域活性化などの社会課題の解決に貢献していきます。
地権者 佐藤様
この土地では牧草を作っていましたが、減反の煽りでこのような傾斜地は使われなくなり、土地の使い道に困っていました。太陽光発電の事業ができればいいなぁと考えてはいましたが、農業振興地域では無理だと私も周囲の人たちも諦めていました。しかし今回多くの方の協力で、いざ出来上がってみると、あちこちから羨ましがられ、うちでも是非やりたいと相談されるようになりました。災害時には、ご近所の方に電力を使ってもらえると聞いているので、役立てるのはとても喜ばしいです。
サステナジー 菊池様
私は、入社して初めての案件で、周囲の方々に多大なる協力をいただきながら対応しました。
会社としても、地域の皆さんの役に立つような事をしたいと考えており、ソーラーシェアリングに興味はありましたが、実現が難しいことも知っていました。今回、タイミング良く2つの案件が出てきたので、チャレンジしようと決めました。数々の難題がありましたが、最終的に地域の活性化につながる素晴らしい「コミュニティ事業」になったと思います。
イマジンジャパン(販売会社) 三浦様
一時転用許可を利用するソーラーシェアリングの主役は、農業をする農家の方です。農業の存続のためにもソーラーシェアリングは有効な手段だと思います。登米市や宮城県では、今回が初の事例のため、実現には相当苦労しました。しかし、出来上がって、地元のお母さん方がここで生き生きと誇りを持って働いている様子を見ると、ソーラーシェアリングに元気をもらっているなぁと感じます。この案件以降は、行政もソーラーシェアリングの価値を理解して下さり、簡単に許可が下りていると聞き、やった甲斐があったと私も誇りに思っています。
イマジンジャパンホームページ
日立キャピタル 海藤様
日立キャピタルでは太陽光発電のリース事業に取り組んでいます。今回のお話を伺ったときは、地域の活性化のお役に立てるのであればという思いで参画を決めました。通常の太陽光発電所はパネルが設置されているだけで無人ですが、こちらは皆さんが和気あいあいと作業されていて、その活気が太陽よりも熱い!と、本当に感動しました。今回得たノウハウを活かし、他の地域でも同様にチャレンジしたいと考えています。
スワンドリーム(農業法人) 白鳥様
この太陽光発電所の完成は、これから農業を行う私たちにとってはスタートラインです。発電事業が20年継続できるかも私たちにかかっています。キクラゲの栽培は初めてですので、しっかりと研究をしました。その結果、キノコの9割は水だと知り、きれいな水をたっぷり使って作っています。無農薬の国産キクラゲは私たちの自信作です。自慢のキクラゲを是非食べてください。
担当者の声
耕作放棄地の増加は、日本が抱える問題の一つです。そのため、今回取り組んだ一時転用によるソーラーシェアリングはその解決策の一つになり得ると考えています。ソーラーシェアリングは、事業スキームを構築することがとても難しく、綿密に進める必要があります。今回は登米市と加美町の2事例とも、関係者全員にメリットのあるスキームとすることができました。
今後も、環境負荷低減と社会課題の解決につながるメガソーラー事業を展開していきます。
仙台支社
環境エネルギー事業部
江口 圭哉