a slowly dish
南部せんべいの故郷に伝わる「せんべい鍋」。
主役の「鍋専用せんべい」誕生の背景には鍋のスープを味わってもらいたいという想いがありました。
北東北のおやつや土産品として親しまれている南部せんべい。その故郷である南部地方には、これを汁物にいれた郷土料理「せんべい鍋(汁)」が伝わっています。
「子供の頃は実家でゴマせんべいを焼いておき、人が集まった時に豚汁や鶏汁に入れてもてなしていましたね」と懐かしそうに話すのは、青森県南部町(旧名川町)にある「南部町名川センターハウス」のスタッフ・清水葉子さんです。
清水さんは旧名川町出身。清水さんの実家に限らず同町の家庭では、昔から豚汁や鶏汁に南部せんべいを入れ、主食代わりに食べるのが一般的でした。ところが、この時使うのは普通の白せんべいやゴマせんべいだったため、煮ているうちに溶けてしまったり、せんべいの塩味が汁に溶け出して塩辛くなったり。そこで、「煮込んでも溶けないせんべいが作れないだろうか」と考え、今から50年ほど前に開発したのが、清水さんのお姑さんであるカツさんでした。
当時カツさんはご主人と町内で食堂を経営しており、家庭料理の域を超えた「せんべい鍋」を提供したいと考えておりました。そこで他店にはないオリジナルの鍋料理を作り、そのスープを存分に味わってもらうために、スープをしっかり吸い、しかも溶けないせんべいが必要だったのです。今では「かやきせんべい」という名の鍋専用せんべいがあり、家庭や飲食店でおいしい「せんべい鍋(汁)」が食べられるようになりましたが、その開発の先駆けはカツさんだと言われています。
現在同センターハウスで提供されているカツさん自慢の「せんべい鍋」(1人前890円/写真は3人前)は、肉と魚のだしに10数種類の調味料などを加えた旨みたっぷりのスープが魅力。このスープを吸ったせんべいのおいしさと独特の食感に魅せられたリピーターは、少なくありません。また、具はせんべいのほか、キャベツ、長ネギ、人参、高野豆腐などとシンプルですが、それだけにコクのあるスープとの相性は抜群です。
文/赤坂環
撮影/奥山淳志
rakra2006年12月号掲載
2006年11月頃撮影
鍋専用せんべい。15枚315円で販売されています。清水さんの家では、すきやきにも入れて食べているそうです。
旨みたっぷりのスープ。「売ってほしい」と言われることもあるとか。
熱々ですが、夏でも箸が進むおいしさです。
自家製南蛮。量が少ないので、「欲しい」というお客にだけ添えるそうです。
旧名川町特産のさくらんぼと梅を使ったワインも味わえます。
「せんべい鍋」におかず2品とご飯、お新香が付いた定食(1155円)も提供しています。