a slowly dish
寒気と雪のため米が穫れなかった岩手県北では、数々の雑穀料理が生まれました。
その一つ「へっちょこだんご」は今でも地域の人々に大切に受け継がれています。
岩手県の北に位置する二戸市は、偏東風のやませの影響でも夏涼しく、また米の代替品や輪作作物として、ヒエ、キビ、アワ、タカキビ(モロコシ)、ソバなどの雑穀や、麦、豆が多く栽培されていました。これらの雑穀や麦などは、米と一緒に炊かれたり、粉にして水や湯を加えてこねる「しとねもの」に加工されたり。そこには、限られた食材をよりおいしく食べるための先人の知恵がありました。それは郷土料理として、今でも大切に受け継がれています。
中でも、子どもから年配の人にまで幅広く親しまれているのが、タカキビの粉で作った団子を甘い小豆汁で煮た「へっちょこだんご」です。愛嬌のあるその名前は、団子の真ん中がくぼんで「へそ」のように見えるから、あるいは、秋の庭じまい(収穫祭)の時に「へっちょはかせやぁんした(お疲れさまでした)」とねぎらいの言葉をかけながら食べていたから付けられたのだとか。「子どもの頃は、ふだんの夕食としても食べていたのよ。今みたいに砂糖をたくさん使えなかったから甘くなかったんだもの」と説明するのは、手打ちそばや雑穀料理を提供する『そばえ庵』の店主・米田カヨさんです。
米田さんが作る「へっちょこだんご」(500円)は、一般的のものに比べて団子の色が濃くやや大きめ。そのせいか口に含むと、タカキビ特有のやさしい甘みと滋味が口中に広がります。
一方で食感はやわらかく、しかも時間が経っても変わりません。食後でもするするとのどを通るほどです。
色と風味の秘密は、自家栽培のタカキビの粉にあります。「共同水車を使って自分で製粉するから、色と風味が良いと思いますよ」と米田さん。またやわらかい食感は「餅などを作る時には熱湯を加えて練り上げた方がやわらかく仕上がる」というお母さんの教えを守った結果です。
そのお母さん譲りの味は、「十割そば」(700円)など他の郷土料理でも楽しむことができます。
文/赤坂環
撮影/奥山淳志
rakra2006年5月号掲載
2006年4月頃撮影
共同水車を使って米田さん自身が製粉したタカキビの粉
昨年収穫した自家栽培のタカキビ
生地の真ん中に窪みをつけて「へそ」にします
雑穀を混ぜた自家製の「おさしみコンニャク」
団子の「へそ」にあんをからませてそのまま口へ
手造り風の看板などが風情を醸し出しています