a slowly dish
かつて青森県津軽地方ではつなぎに大豆を使ったそばが食べられていました。
一時は途絶えたこの「津軽そば」ですが6年前から元祖の店が復活させ、当時の味を伝えています。
弘前城址の西堀をのぞむ絶好のロケーションに位置する会席郷土料理店「野の庵」。「かねよ」という屋号で城内でそば店として開店した幕末の頃、地域で採れるソバと大豆を使ったそば切りに熱いかけ汁をそそいで提供したのが、「津軽そば」です。同店では当時店で抱えていた丁稚たちにもその技術を教えて独立させたため、その味は食糧難時代の町にあっという間に広がりました。
「津軽そば」の特徴は、つなぎに大豆を使っている点。弘前では小麦が採れなかったからなのですが、「野の庵」の5代目店主・佐藤彰さんは「量と旨みを加える目的もあったのではないか」と考えています。
大豆は、ひと晩水に浸した後すり鉢で潰し、ソバ粉に混ぜます。できた生地の塊にさらにソバ粉を加え、のして切った後、ひと晩寝かせて完成。一晩ねかせるのは、大豆とソバ粉をなじませるためです。
できた生地をすぐに切って茹でて食べる一般的なそばに比べて、「津軽そば」は時間と手間がかかります。そのため、食糧事情が良くなり、さらにソバや大豆の畑がりんご畑や水田に変わり始めた戦後には、同店も含め、作る店はなくなってしまいました。しかし、郷土の味を次世代に伝えたいと平成11年に発足した「幻の津軽そば復活研究会」に佐藤さんも加わり、他の会員とともに研究して2年がかりで復活させたのです。
本来はソバ粉に対して10~20%の大豆を混ぜていたところを5%に減らしたり、だしの材料にこだわってかけ汁を作ったり。こうした工夫を重ね、現代人の舌に合う洗練された味に仕上げたというわけです。
同店ではこれを単品では売らず、会席郷土料理とセットで、「幻の津軽そばご膳」(2700円~)として提供しています。創業140年という老舗ならではの風流な店内で、ゆっくり食事することをおすすめします。
文/赤坂環
撮影/奥山淳志
rakra2007年9月号掲載
2007年8月頃撮影
「幻の津軽そばご膳」の一つ、「津軽の花」(3700円)。料理内容は季節替わり。さらにこれに、「津軽そば」、ソバ粉100%のもりそば、そばねりが付きます(20007年8月取材時)。
津軽城址の西堀をのぞむ、情緒あふれる店内。グループ客の利用が多いので、予約した方が確実。
「津軽そば」のだしには焼き干し、昆布、カツオ節、さば節を使い、上品で豊かな風味のかけ汁に仕上げています。
接客を担当する奥様の佐藤貞子さん。「主人は東京の老舗料亭で懐石料理を修業しました。ですから津軽そばはもちろんですが、料理もぜひ堪能していただきたいですね」。