青森県黒石市から十和田湖に向かう途中、国道102号の浅瀬石川沿いにある、鄙びた１軒宿が温川山荘。

創業は昭和37年（1962）。温川温泉は文豪・吉川英治ゆかりの地で、山荘の庭には文学碑が建立されている。

山あいの渓流にかかる、情緒たっぷりの吊り橋を渡ると、木々の中にひっそりと佇む宿。青森ヒバを敷き詰めた浴室の湯船からは、湯が豊富にあふれていた。

無色透明の温泉に身をゆだねると、ほのかに硫黄の匂い。湯の中に見える自分の肌が少し白っぽく見え、だんだんスベスベになっていった。

木の階段を降りた川沿いにある露天風呂は、十和田湖の石を積み上げたスタッフの手造りだ。

木立に包まれ、湯船に浸かって聴こえるのは、川のせせらぎの音だけ。時おり落ちてくる葉っぱが、自然との一体感を満喫させてくれる。

混浴露天風呂といえば、年配の人が多いと思いきや、ここは違う。日帰りなら地元や弘前・青森方面から。宿泊は首都圏からのお客が多く、若い女性やカップルが日頃の喧噪を忘れ、湯の中でのびのびとくつろいでいる。それはまるで、心を癒す楽園のように思える。

ゆっくりと手足を伸ばして、「ほっ」と一息つける、誰にも教えたくない秘湯に出会えた気がした。

絶え間ない川の音がすべてを浄化してくれるかのようだ。

rakra2009年11.12月号掲載

2009年10月頃撮影

温川山荘

青森県平川市切明津根川森1-32
TEL 0172-55-2314

日帰り入浴時間／10:00～17:00

日帰り料金／中学生以上500円、小学生以下250円、幼児150円

定休日／無休

宿泊料金／１泊２食付2名利用、1人10650円～

泉質／ナトリウム・カルシウムー硫酸塩・塩化物泉（低張性中性高温線）

効能／筋肉痛、関節痛、切り傷ほか

内湯男女各1、
混浴露天風呂（宿泊のみ20:00～21:00女性専用）

ロイヤルシティ八幡平リゾートより約108.9km

「しのべ」「ふくべら」「あざみ」……。創業当時のままの部屋には、山菜の名前。

料理は、イワナの田楽やニジマスのお刺身、竹の子の味噌漬けなど、季節ごとに野趣あふれる山の幸が品よく並ぶ。

膝や腰に効くからと、定期的に訪れる地元の人も。別荘のような宿はとても静か。

ゆっくりと湯につかれば心もほぐれる。

日常からの解放感に包まれる。