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岩手県一関市川崎町には北上川のモクズガニを使った「カニばっと」が伝わります。
カニの生息数が減っている中農家レストランの女性店主が
カニ漁担当のご主人のサポートを受けふるさとの味の伝承に取り組んでいます。
かつて岩手県一関市川崎町では、秋の彼岸の頃から11月まで、北上川やその支流でモクズガニの捕獲が盛んに行われました。モクズガニとは淡水に生息する食用ガニで、中華料理でおなじみの上海ガニの仲間。そのため上海ガニ同様身は甘く、ミソもコクがあることから、町内の人たちは茹でてそのまま食べたり、甲羅ごと潰してだしをとり、その汁に小麦粉生地の「はっと」(すいとん)を入れた「カニばっと」を作って食べていたそうです。しかし、河川環境の悪化などによりカニの生育数は年々減少。それとともに、茹でたカニもカニばっとも食べる機会が少なくなりました。
そんな中で、年中カニばっとを食べられる貴重な店が「農家レストラン ぬくもり」です。同店のカニばっと(定食で1000円)の汁は、カニのだしがほどよく効いた、やさしい味わい。コシのある「はっと」との相性も抜群です。
実は店主の千葉秀子さんは隣の千厩町の出身。それまでカニばっとを食べたことがなかった千葉さんは、お姑さんや近所のおじいさんから教わった作り方にアレンジを加えて、この味にたどり着きました。
「十数年前にイベントで町外の人にふるまった時、『生臭い』と言われてね。それに、そのままの作り方だとカニの旬の時期しか食べられなかったから、なんとか一年中食べられるようにしたかったんです」。
以来千葉さんは、生臭さが出ないだしのとり方や、カニミソなどの冷凍保存技術を研究。こうして作り方を確立し、平成11年に同店をオープンしたのです。
ちなみに材料のモクズガニは、ご主人の庄平さんが自宅近くの北上川で捕獲するもの。庄平さんは時には、解体したカニを石臼でついて「だしの素」を作ることもあります。
ご主人のサポートを受けながら作り上げたふるさとの味。これを次世代に伝承することが、千葉さんの願いです。
文/赤坂環
撮影/奥山淳志
rakra2007年11月号掲載
2007年10月頃撮影
カニばっとの主役、モクズガニ。ハサミに生えている藻のようなやわらかい毛が、名前の由来です。
「はっと」はあらかじめ湯で茹でておき、食べる直前に汁に入れて煮ます。
同店ではカニばっとを、ご飯と季節の惣菜3品、漬け物を添えた定食スタイルで提供。これで1000円とはお得!
千葉秀子さんと庄平さん。仲の良いご夫婦です。