a slowly dish
米が穫れなかった地域にはソバ粉や小麦粉で作る「はっと」が伝わっていますが、岩手県葛巻町の「ひぼがはっとう」は名前も見た目も個性的。独特のコシの強さが自慢です。
稲作に不適な地域では、昔から畑にソバや小麦を植え、粉にしてこねては様々な料理を作り、ご飯代わりに食べていました。例えば、生地を引きちぎった「ひっつみ」、三角形に切った「かっけ」、細長く切った「はっと」等々。そのうち包丁で麺状に切るはっとは、手間も時間もかかるため、贅沢品として藩が「御法度」にしたことから名付けられた、あるいは山梨県の伝統料理「ほうとう」から転化したと言われています。
岩手県内陸北部に位置する葛巻町の郷土料理「ひぼがはっとう」も小麦粉生地を麺状に切ったはっとの一種。ユニークな名前は、きしめんのような平打ち麺が「ひぼが(ひもかわの意)」に似ることに由来します。
「同じはっとでも、ソバ生地はすぐにのして食べられるけど、小麦粉生地は足で20分くらい踏んだ後に一晩寝かせてからのすので、手間も時間もかかったんです。だから子どもの頃はそばを食べる機会の方が多かったですね」と坂本ゆき子さん。町内で唯一「ひぼがはっとう」(雑穀ご飯・小鉢・漬物付きで630円)を提供する産直・農村レストラン「みち草の驛」で、10年前の開店時からはっと作りを担当しています。
平打ち小麦粉麺は
昔も今も、贅沢な美味しさ
茹でたはっとに熱いかけ汁を注ぎ、油揚げと長ネギをのせただけのシンプルな料理ですが、それだけに手打ちうどんならではのコシの強さと小麦の風味が堪能できる一品。坂本さんの記憶では、農作業が忙しい夏に食べたことはほとんどなかったそうですが、町内の一部には夏に食べる風習が残っているよう。「『今日ははっとを食べる日だから』と生麺を買いに来る年輩の方がいらっしゃるんですよ」とは、同店のスタッフの山本良子さん。子どもの頃は独特のコシの強さになじめなかったそうですが、「店で働くようになってからは好きになりました」と笑顔でアピールしていました。
文/赤坂 環
写真/奥山 淳志
rakra2007年6月号掲載
2007年5月撮影
みち草の驛
岩手県葛巻町江刈2-44-7
TEL 0195-66-2270
10:00~18:00
無休
ロイヤルシティ八幡平リゾートより約65km
10年のキャリアを誇るだけに、坂本由紀子さんの手際は鮮やか。
生地をしっかり踏んでひと晩ねかせているので、しこしこした歯ごたえの「ひぼがはっとう」。
店内では食事のほか、スタッフ手作りの餅・団子類、地場産の農産物などの買い物ができます。
左からスタッフの山本良子さん、坂本ゆき子さん、今村和子さん。同店では約20人のスタッフが交替で、調理・接客・販売を担当しています。