「日本の旅をもっと面白く」
-MIMARU-
ホテルを起点に、日本の旅をもっと面白く解き放とう。多人数で泊まれる中長期滞在型アパートメントホテルが、日本の新市場を切り拓く。
業界の常識を疑え
2023年春、東京・日本橋の人形町。現代的な都市の風景と昔ながらの下町情緒が混在する街に、朝の活気が訪れていた。
アパートメントホテル「MIMARU SUITES 東京日本橋」のロビーにも、お客さまが次々とあらわれる。聞こえてくるのは英語や中国語、スペイン語などの外国語、ときどき日本語。家族連れや友人らしき多人数のグループだ。彼らは、ここ日本橋をはじめ、東京・京都にある「MIMARU SUITES(ミマルスイート)」、東京・京都・大阪の「MIMARU(ミマル)」をめざして世界中からやってくる。
主な情報源は口コミサイト。MIMARUは、世界最大級の旅行プラットフォームであるトリップアドバイザーで、「外国人に人気の日本のホテル ランキング 2019」TOP20に3つの施設が選ばれた。2018年に第1号のホテルを開業してから、わずか1年半後の快挙だった。以来、毎年ランキングに名を連ねる。
ホテル事業を展開するのは、大和ハウスグループのコスモスイニシアだ。運営は、新たに設立した子会社コスモスホテルマネジメントが担う。コスモスイニシアの主力事業は、不動産の販売・賃貸・流通事業である。畑違いの門外漢が立ち上げたホテルなのに、なぜこれほどまで評価を得られたのか。
理由は、日本のホテル業界の常識にNOを突きつけ、海外のゲストが求めていたホテルをつくりあげた点にある。「み」んなで泊「まる」、だから「ミマル」。多人数が1部屋に泊まれる中長期滞在向け「都市型アパートメントホテル」という新ジャンルを開拓したのだ。「アパートメントホテル」という造語も、自分たちで考えた。
和食器や雑貨を通じて日本の文化を伝える
(MIMARU SUITES 東京日本橋)
歴史や文化をテーマにした共用空間
(MIMARU大阪 心斎橋NORTH)
誰もやらないから価値がある
インバウンド市場が勢いを増していた2016年頃、ホテル事業への進出は2人の社員に託された。現在はコスモスホテルマネジメントに籍を移す田中と熊野である。彼らを中心にプロジェクトメンバーが集まった。
ターゲットは外国人観光客。中長期にわたって滞在し、ファミリーやグループでの来日も多い。それなのに日本ではツインルームが中心で、大勢が一緒に泊まれる客室は少ない。ここに勝機を見いだした。
コンセプトは決まった。広さは約40m2。1部屋の宿泊人数は4名から。全室リビング・ダイニング、キッチン付き。運営は外部に、と考えた。ところが、どのオペレーション会社も「やめたほうがいい」という。「40m2を1室より、13m2で3室にしては?」
建築の専門家でもある熊野は「無理だと言われるだろう」と予想していた。収益を上げるため、面積に対して客室数をより多く確保することを至上命題としてきた業界だ。むしろ「この人たちはプレーヤーとして参戦しない」と喜んだ。
田中もまた「チャンスだ」と思った。経験上、全員が「いいね」と賛同した企画は、逆に危ない。「本当にいけるの?」と議論を呼ぶものほどイノベーションとしての価値がある。
世界的な高級サービスアパートメント・プロバイダーに話を聞こうと海外にも足を運んだ。そこで「日本に必要なプロパティだから取り組むべきだ」と力強い言葉をもらい、自信を深めた。オペレーションは自分たちでやろう。そう決心し、子会社のコスモスホテルマネジメントを設立した。
ベッドは複数台やロフトタイプなどさまざま
キッチンには調理器具や食器などを用意
本質を際立たせる引き算
海外の中長期滞在用ホテルは、とてつもなく規模が大きい。レストランやバー、プールにジムもある。もし同じようなものを土地が限られる東京で建てたら……1泊10万円、15万円に跳ね上がるだろう。ラグジュアリーホテルをつくりたいわけじゃない。めざしているのは「合理的な価格で、みんなが快適に過ごせる広い部屋」だ。やるべきことは「引き算」だった。
「広いロビー、いる?長距離移動の後だし、子どもも一緒なら、すぐ部屋に入りたいよね」「レストランはなくそう。都心なら飲食店やコンビニが多いし、デパ地下もある」「内廊下じゃなくていい。屋外に面した外廊下にしたら、客室面積を広く取れる」「毎日、シーツ交換でスタッフが入るのって気にならない?中長期滞在なら荷物も広げる。タオル交換やゴミ捨ては毎日でも、フル清掃は数日に1回にしよう」
日本のホテルの常識に「こだわらないこと」にこだわった。宿泊料金も1名いくらではなく、1室単位のルームチャージでいくと決め、人数が増えても同料金とした。
2018年2月、第1号となる「MIMARU東京 上野NORTH」を開業した。続けて4月、東京・赤坂に第2号をオープン。4つのホテルの開業を同時に進めた。
初めて迎えたゲストを、熊野はよく覚えている。第1号の開業前日、海外のお客さまが「明日予約しているので、荷物を預かってもらえる?これから日光に行く」と立ち寄られたのだ。海外ゲストの自由な振る舞いに驚きながら、「旅の拠点」になり得るMIMARUの前途に、明るい光を見た。
走り続けた先に夜明けがある
MIMARUは1部屋4名から、施設によっては最大10名まで泊まれる。また、「暮らすように滞在してほしい」との思いから全室にLDKを設け、調理器具や食器も常備した。
第1号の東京・上野には「コンセプトルーム」もつくった。この企画を考えるのが、とにかく楽しい、面白い。建築担当者は「どうしても掘りごたつがほしい」と和室をつくり、床の間までしつらえた。
その後もホテルを建てるたび、アイデアを出し合い、遊び心あふれる客室をつくっていった。「MIMARU東京 上野御徒町」のプレミアムルームには寿司カウンター。寿司職人を呼べば、目の前で握ってもらえる。「MIMARU東京 池袋」には5人でプレイできるゲーミングルーム。他にもポケモンルームや忍者ルーム、浮世絵ルームなど、独創的な客室を次々と発表した。
コンセプトルームは日本人の方にも評判が良く、コロナ禍で国内マーケットにシフトする際の助けとなった。あの当時、インバウンドのマーケットが目の前から突如、消失した。すさまじい衝撃だった。2019年に約3,188万人いた訪日外国人旅行者は、2021年には約25万人※と99.5%減。それでも、いつか夜は明ける。
2021年7月、新シリーズとして、全室2ベッドルーム以上のスイートルームで構成した「MIMARU SUITES」を開業した。親と子で、友人グループなら男女で、部屋を分けられる。海外ではスタンダードな間取りで、実際、要望も多かった。バスルームも2つ。ただし、トイレはバスルームから独立した個室とし、世界基準の客室に日本の良さを取り入れた。
※訪日外国人旅行者統計(日本政府観光局)
客室内に寿司カウンターのある
プレミアムルーム
(MIMARU東京 上野御徒町)
eスポーツを楽しめるゲーミングルーム
「Quintet eSports Room」
(MIMARU東京 池袋)
日本で初めての景色を見にいこう
インバウンドが回復軌道に乗った今、ゲストの約9割が外国の方になった。迎えるスタッフも25の国と地域から集まり、フロントスタッフの84%が外国籍だ(2023年3月時点)。各ホテルのトップも、東京は全員、外国籍である。
立ち上げ当初、田中は採用を担当し、世界中から人を募った。ホテルに来たゲストが母国語で話せるように。「日本は初めて」「子どもが一緒」というゲストにも安心していただけるように。そのためにもスタッフは、できれば母国語、英語、日本語が話せるバイリンガルやトライリンガルが望ましい。
ホテルの勤務経験は問わなかった。最も重視したのはマインドだ。日本が好きか。人と話すのが好きか。ガイドブックに載っていない体験を求めるゲストを、楽しませたいと思うか。
掲げたタグラインは“Unlock Your Japan”。「あなたたちは、ゲストから信頼される友人のような人になり、ゲストと一緒に『日本の新しい旅』をつくってほしい」
外国籍スタッフは、日本人が気づかない日本の魅力を知っている。あるスタッフは、プラチナカードのゲストから「寿司が食べたい」と相談を受けた。「高級店を紹介するだろう」と田中が見守っていると、「回転寿司が面白いですよ」という。外出から戻ったゲストも「最高だった!」と笑っている。
これだ。この笑顔を見るために、私たちはホテルを起点に、日本をもっと面白く、日本の観光を変える存在になっていこう。2023年1月、訪日外国人旅行者の約50人に1人※がMIMARU・MIMARU SUITESに宿泊した。伸びしろは計り知れない。アパートメントホテル市場を切り拓いた者としてNo.1をめざしていこう。これからも逆風は吹く。でも、その風こそが最前線にいる証。私たちは、日本で初めての景色を見る挑戦者なのだから。
※日本政府観光局(JNTO)集計の「訪日外客数」とMIMARU・MIMARU SUITES宿泊者数から算出
日本が大好きなスタッフが一緒に旅をつくる
世界中の人々に最高の体験を届けるために
※掲載の情報は2023年3月時点のものです。