「再エネで故郷を次世代へ」

福島県浪江町に県内最大級のメガソーラー発電所が完成した。
避難して離れ離れになった住民の方々の心をつなぎ、故郷の地を後世へ残すために。
大和エネルギー株式会社 東京支店 支店長 足立 義輝 大和エネルギー株式会社 東京支店 支店長 足立 義輝

大和エネルギー株式会社 東京支店 支店長

足立 義輝 【YOSHITERU ADACHI】

2005年10月:大和エネルギーに入社

2012年7月:新エネルギープロジェクト発足、リーダーに就任

2014年4月:発電事業部 事業開発グループ グループ長に就任

2020年4月:東京支店支店長 兼 PPA事業推進室室長に就任

福島県浪江町谷津田行政区 区長 原田 榮さま 福島県浪江町谷津田行政区 区長 原田 榮さま

株式会社三菱総合研究所 主席研究員 馬場 史朗さま 株式会社三菱総合研究所 主席研究員 馬場 史朗さま

左から

福島県浪江町谷津田行政区 区長 原田 榮さま

株式会社三菱総合研究所 主席研究員 馬場 史朗さま

浪江町谷津田地区の復興にご尽力された原田様は、2023年8月9日にご逝去されました。謹んで哀悼の意を表します。

浪江町谷津田地区の復興にご尽力された原田様は、2023年8月9日にご逝去されました。謹んで哀悼の意を表します。

浪江町谷津田地区メガソーラー発電所の全景浪江町谷津田地区メガソーラー発電所の全景
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浪江町再生の柱になる

Spirit of Hearts

ひとりの男性が犬を連れて歩いていた。すれ違った後は誰とも出会わない。時折、トラックやライトバンが走り去る。時間が止まったような風景の中、現場事務所にたどり着く。人がいる。明かりがともっている。その安堵感たるや。

ここは福島県双葉郡にある「浪江町谷津田地区メガソーラー発電所」。元は水田だった約88万m2の土地に20万枚のパネルが並ぶ県内最大級の太陽光発電所だ。三菱総合研究所(以下MRI)と三菱UFJリース、地元の福島発電が出資した合同会社が事業主体となり、大和エネルギーが開発・設計・施工・維持管理までを請け負った。

福島県浪江町は2011年3月11日、東日本大震災による原発事故で町の約8割が帰還困難区域になった。それから6年。2017年3月、一部で避難指示が解除。町が策定した浪江町復興計画にメガソーラー発電所の建設が盛り込まれた。三菱UFJ銀行から参画を打診されたMRIの馬場さんら事業者は「地球環境に優しい再生可能エネルギーの拠点にすることで、地域のイメージを回復できる。メガソーラー発電所として土地を利用すれば、地域に寄与もできる」と考えた。

事業用地として浪江町谷津田地区が候補に挙がった。馬場さんたちは、住民の方々から信望の厚い区長の原田さんを訪ねた。

メガソーラー発電所完成までの道のりを振り返る

メガソーラー発電所完成までの
道のりを振り返る

工事開始時点の谷津田地区の全景工事開始時点の谷津田地区の全景
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復興格差はつくらせない

Spirit of Hearts

浪江町の中心部は生活施設が再開し、日常を取り戻そうとしていた。だが、谷津田地区は避難指示こそ解除されたものの、東西南の3方を帰還困難区域に囲まれ、北は川で区切られた陸の孤島。76世帯370名余りいた住民は、県内を中心に全国へ散った。黄金色の稲穂が揺れる田は、荒れ地に変わり果てた。

米づくりの希望も消えかけていた。地区住民は避難先で再就職し、アンケートで「戻る」と答えた人は1割強。農業用ダムの水は使っても安全とわかったが、汚染の心配が尽きない。

稲作が難しい土地を抱えた住民のもとに、小規模な太陽光発電をつくる話が次々と持ち込まれた。しかし、区長の原田さんは首を縦に振らなかった。「一部だけつくっても復興格差が生まれる。やるなら全部だ」。谷津田をどうやって守るか。それしか考えていなかった。メガソーラーなら皆の土地を生かせる。発電所内の草刈りなどを地元で管理できれば、地区全般の環境整備もできる。年に数回、避難先から地元へ戻る機会があれば、故郷を忘れないだろう。原田さんは苦渋の決断を下した。

国の認定を得るには、まず地権者の仮同意が必要になる。MRIからの資料と同意書を入れた封筒に、原田さんとご家族が一通一通、宛先を筆でしたためた。本心を知るため、「反対なら反対と書いてくれ」と手紙を添えて。

戻ってきた返事は、全て「同意」だった。どうしようもない悔しさを飲み込み、前へ進もうとする皆の気持ちがひとつに重なった。

谷津田地区の区長 原田さま

谷津田地区の区長 原田さま

三菱総合研究所の馬場さま

三菱総合研究所の馬場さま

現場事務所で地権者の方々と会合現場事務所で地権者の方々と会合
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地権者と事業者の想いを具現化する

Spirit of Hearts

いよいよ計画が本格的に動き出す。設計・調達・施工を請け負うプロポーザルで大和エネルギーが選ばれた。その後、大和エネルギー社内で最良のメンバーを招集し、経営層直轄チームを立ち上げた。プロジェクトマネージャーは足立だ。

足立は東日本大震災後、大和ハウスグループの太陽光発電事業「DREAM Solar(ドリームソーラー)」の発起メンバーとして経験を積んできた。今や大和エネルギーの太陽光発電所は132カ所(2020年12月1日現在)、発電所数は国内トップクラスの規模に。

だが、百戦錬磨の足立でさえ除染地域での事業は初めてだった。しかも設計途中で太陽光発電所から発生する電気の送電先が変更され、帰還困難区域での作業が発生した。どこが安全なのか、なにが危険なのか。社員や協力会社の方々の不安を払拭するため、事業用地はもちろん、周辺地域でも線量調査を実施し、協力会社と意見交換を行いながら設計を進めた。

「私たちの仕事は、地権者と事業者、両者の考えや想いを具現化すること」だと足立は考える。後方支援役として、即断即決を自分に課した。「本当にお困りになっている方を前に『いったん、持ち帰ります』とは言えませんから」。区長の原田さんは「足立さんは現場に精通され、我々の話を理解した上での状況判断や対処が早い。車に例えたら4WDの印象です」と、荒れた路面を走破し続けた足立の奮闘を思い返す。

現場を率いた大和エネルギーの足立

現場を率いた大和エネルギーの足立

人々の交流の場となる現場事務所人々の交流の場となる現場事務所
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コミュニティを後世に残す

Spirit of Hearts

地元の方々から「発電所内の除草や水路の維持管理は自分たちで」とご提案を受け、馬場さんたち事業者は「経済が循環し、復興のお役に立てるのでは」と委託を決めた。草刈りなどを自ら行うことは、地区にとっても意味があった。谷津田には農作業などを助け合う「結返し」の風習がある。その伝統を守り、避難先から帰る機会をつくることで「コミュニティを後世に残していきたい」と原田さんは願う。

維持管理の期間は、土地を賃貸借する20年間。問題は、集まる場所がないことだった。地区の集会所は閉鎖され、無人の家々は荒廃。だったら「現場事務所」を地権者の方々や関係者がコミュニケーションを取れる場所にして、町の明かりにすればいい。足立たちは町を歩き回り、広い建物を探した。20年間借りたいと長期契約を申し込み、土地建物オーナーの方より「浪江町のためになるなら」と承諾をいただいた。

安全祈願祭の日、現場事務所には離れ離れになった地権者の方々が笑顔で話す姿があった。除草を試す草刈り検討会では、かつて畔(あぜ)の草を刈っていた頃の生き生きとした姿がよみがえった。

また、今までの「DREAM Solar」で培ったノウハウを生かしながら、地権者の方々の高齢化も考え、さまざまな策を設計に落とし込んだ。ソーラーパネルの下や草刈りが困難な箇所には防草シート。太陽電池モジュールなどの最低地上高は設置環境を考慮して導き出した。

工事がまだ道半ばの2019年秋、令和元年東日本台風が列島を襲った。周辺は記録的な豪雨に見舞われたが、谷津田の現場は最小限の被害で済んだ。被害翌日から土地が冠水した原因を探り、水の道を知る区長の原田さんと共に対策を講じた。その2週間後、再び激甚災害の大雨に襲われるも無事に対応でき、お引き渡し後も安心していただけるという確信を得た。

2020年9月30日、「浪江町谷津田地区メガソーラー発電所」が完成。商業運転を開始し、太陽電池出力約60MW、年間予想発電量は約7,100万kWh/年、一般家庭約14,500世帯分※の年間電力消費量に相当する発電を行う。

※1世帯当たり4,892kWh/年で算出。太陽光発電協会 表示ガイドライン(2020年度)より

地権者の方々による草刈り検討会

地権者の方々による草刈り検討会

除草や水路の維持管理を担っていただく地権者の方々と試行

除草や水路の維持管理を担っていただく
地権者の方々と試行

故郷の山々を背に広がるメガソーラー発電所故郷の山々を背に広がるメガソーラー発電所
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生まれた地、育った所、生きてきた場所

Spirit of Hearts

設計をご提案してから約4年。足立にとっては、あっという間の日々だった。大変だと思ったことは一度もない。「DREAM Solar」事業を立ち上げた日から、いつか経験を生かして被災地で貢献する自分を思い描いていた。大和エネルギーの現場スタッフや協力会社の人たちは、難しい現場で最善を尽くしてくれた。馬場さんたち事業者は、浪江町の農業振興も支援していた。全員が町や地権者の方々のために何かを成し遂げたいと思っていた。

区長の原田さんは「メガソーラー発電所を建てたことで、負の財産から生産性のある財産に変えることができました」と語る。「谷津田は生まれた地、育った所、生きてきた場所、故郷です。私たちはいつか人生を終えて旅立ちます。その時は故郷に帰ります。そんな浪江町であってほしいと願っています」。

原発事故の被災地に立ち、足立は脱炭素社会の在り方にも目を向ける。これからは再生可能エネルギーの発電所を単に増やすのではなく、その電力をどこで、どのようにつくり、誰が使うかまで意識したエシカルな視点を持たなくては。原田さんたちの子ども、孫、未来の世代に胸を張って会える大和ハウスグループであるために。

浪江町谷津田地区メガソーラー発電所 
2020年12月8日撮影

※掲載の情報は2021年1月時点のものです。

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