「生涯現役で働く」
-シニアが活躍する職場-
大和ハウスグループの大和ライフネクストでは、マンションのフロントマネージャー(管理員)として多くのシニア層が活躍している。
志は高く、目指すは生涯現役だ。
プラスアルファの“気持ち”を乗せて
鹿児島市西千石町。かつては武家屋敷が建ち並び、西郷隆盛や大久保利通らも闊歩したであろう地は、ビルが林立する街へと姿を変えている。その街角にある15階建のマンションが、大和ライフネクストのフロントマネージャー、いわゆる管理員を務める得地の仕事場だ。
得地の朝は早い。街が動き始める朝7時、得地は機械式立体駐車場の前にいる。出勤のため、車を出そうと歩いてくるご入居者が目に入るや否や、清掃の手を止め、駐車場の操作盤にその人のパレット番号を入力するのだ。この時間帯のご利用者であれば、ほぼ全員の顔と番号を暗記している。前任者から引き継いだ習慣だが、決められた業務ではない。だが、この時間はご入居者と言葉を交わし、コミュニケーションを取るかけがえのないひとときだ。
そうするうちに、学校へ向かう子どもたちが次々とマンションから出てくる。「おはよう」と声をかけながら一人ひとりとハイタッチ。このマンションに来てから10年。幼かった子もいつしか成長し、思春期を迎えた中学生は恥ずかしそうに駆け抜けていく。ぶっきらぼうな後ろ姿でさえも可愛らしい。子どもたちは、いつでも得地を励ましてくれる存在だ。
機械式立体駐車場の操作
子どもたちの笑顔が原動力
得地の前職は、都市開発や街づくりの企画・設計だ。定年まで会社や取引先以外の人とはほとんど接することなく働いてきた。これからは、もっと多くの人と関わりたい。
「一生に一度は、人と触れ合う管理員の仕事をしてみよう」
他社の求人もあったが、「この会社で働きたい!」と即決。「運命ですね」と得地は笑う。そうして配属されたのが今のマンションだ。初出勤の日、建物を見上げて「今日からここで働くんだ」と高揚感に包まれた。
管理員の仕事は多岐にわたる。勤務時間は7時から15時まで。清掃員と分担して共用部分の清掃。敷地内の点検・巡回。コンシェルジュが出勤する午後までは受付もこなす。
鹿児島ならではの苦労もある。桜島の火山灰だ。最上階から清掃を始め、数日かけて1階までたどり着いた頃には、最上階はすでに真っ白。勤務2、3年目の頃、掃除が行き届いていないとご入居者からお叱りを受けた。懸命に努めてはいるが、伝わらないことに気落ちし、仕事を辞めたいと思い詰めた。だが、得地は辞めなかった。続けられた原動力は、子どもたちだった。笑顔で呼びかけてくれる言葉だった。
「おはよう」「管理員さん、いってきます!」「ただいま、得地さん!」
この子どもたちをもっと喜ばせたい。得地は管理員の枠を超えて新しい取り組みに乗り出した。
マンション管理のスタッフが集合
誠心誠意、取り組む
ある日、管理員をマネジメントするリビングコーディネーターの川上は、得地から相談を受ける。師走に餅つき大会をやりたい、と言うのだ。
これまで、マンションの催しは管理組合の理事会が検討・運営してきた。川上は早速、社内で検討を進めたが、食品を扱うことが難しく断念。代わりにクリスマスツリーの展示を管理組合に提案した。エントランスロビーの天井まで届くほど大きなツリーを、子どもたちと一緒に飾り付けるイベントは大盛況だった。
マンション竣工10年を前に、得地は再び川上に相談を持ちかける。「1年間を通じて、子どもや大人が楽しく遊べる企画を練り、思い出をつくってあげたい」と。川上も賛同し、理事会に「竣工10周年イベント」の年間企画を提案して、実施することが決まった。手始めに、10周年イベントの告知ポスターを「描いてみませんか?」とご入居者に呼びかけて募集し、集まった作品を展示・審査。それから1年間、七夕飾り、絵や書などの自作品展、クリスマス飾りをご入居者と共に楽しんだ。七夕の笹飾りなども手作りし、大変ではないかと尋ねられても、「好きなんですよ」と照れる。
ご入居者の鯵坂さんは、そんな得地を「誠心誠意、仕事に取り組まれている。その一言に尽きます。みんな得地さんのことが大好き」と高く評価。また、「入居者だけに親切というわけではない」とも教えてくれた。鯵坂さんは外国からの観光客と知り合って、よく自宅に招くのだが、いつもエントランスで得地に紹介する。「フレンドリーに接してくれるので、お客さまの顔がパーッと明るくなるの」とニッコリ。得地の人柄や管理の質が、このマンションの居心地の良さをつくっている、と実感されていた。
マンションご入居者
一人では成し遂げられない
リビングコーディネーターの川上にとって、得地は「優しい、とにかく優しい」人物だ。「人が好きというオーラが出ているので、ご入居者とのコミュニケーションが円滑になる」とみる。
大和ライフネクストには、同社の基本精神として掲げる「DLN SPIRIT」を体現する事例・社員を表彰する制度があるのだが、川上は得地を推した。推薦された約400名のうち、受賞は14組。うれしいことに得地がその一人に選ばれた。得地は「私でいいんですか?」と驚き、川上と「社内報に載るかも」と喜んだ。ところが、それでは終わらない。
得地は東京・赤坂の本社に招待された。そこで華々しく開催された授賞式には、会長を筆頭に社長や役員がずらりと並んだ。得地にとって、受賞は人生初の経験だ。壇上は心地いい緊張感に満ちていたが、その時の記憶はほとんどない。式が終わると一目散に鹿児島へ。「翌日から仕事がありますから」と、どこまでも真面目だ。とはいえ、この受賞は本当にうれしい出来事だった。東京への出発前、マンションで会う人、会う人に喜びを伝えた。
「おかげさまで賞をいただくことになりました。皆さまのおかげです」
管理のスタイルはご入居者と共につくりあげた。さまざまな提案を快く受け入れてくれた。だから私一人だけの賞じゃない、ご入居者と一緒にもらった賞だ。「良かったね、良かったね」と喜んでいただくたび、その思いが強まった。
管理員を支えるリビングコーディネーター
志ある人は進み続ける
初めてマンションに来た日から、得地はさまざまな記録を残している。書類、写真、手描きの案内ポスターなど。いつか一冊の本にまとめられたら…。タイトルは、もう決まっている。「たかが管理。されど管理」だ。管理員の仕事は一見地味だが、やればやるほど面白く、今や生きがいでもある。
御守印と記した手帳には、守るべき哲学として「管理員はこうあるべきだ10カ条!」を記し、繰り返し見直す。10番目は「心からサービスに徹する」こと。心を込めて接していれば、自分も楽しくなる、ご入居者も楽しく生活できる。好循環が生まれ、無形の信頼が築かれていくのだ。
辞めたいと思った2年目、3年目。あれが正念場だった。川上という頼りになるバックアップを得て、あきらめず、ご入居者と心を込めて向かい合ったからこそ今がある。若い時にはなかった精神的な余裕が、新しい仕事の楽しみ方にもつながった。
現在68歳。75歳まで働き続けることを目指し、逆算して目標も立てている。「志在千里」、志のある人は年をとっても逸る心は抑えられない。毎日が楽しくて仕方ない。
社内表彰制度のトロフィー
守るべき哲学を記した手帳
※掲載の情報は2019年7月時点のものです。