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暮らしのEconomy シニアが働くときの年金はどうなる?

近年、日本では定年退職後も働き続けるシニアが増えています。
長寿化が進む中、経済的な理由だけでなく、
社会参加や自己実現を求めるシニアも多くいます。
しかし、働いて給与を受け取りながら老齢厚生年金を受け取る場合、
「在職老齢年金」という制度によって年金額が減額されたり、
支給が停止されたりすることがあります。
この制度はシニアの働く意欲を低下させる要因の一つとされていましたが、
2022年度に大幅に見直され、シニアもより自由に働けるようになりました。

2022年度で大きく変わった在職老齢年金制度

2021年度までの在職老齢年金制度では、60歳以上65歳未満の場合は、総報酬月額相当額基本月額の合計が28万円を超えると、その金額に応じて年金額が減額や支給停止に。65歳以上の場合は、総報酬月額相当額と基本月額の合計が47万円を超えると、超えた額の2分の1の年金額が支給停止となっていました。この在職老齢年金制度により、多くのシニアが働く意欲をそがれているということから、2022年度に大きく制度が変わりました。
2024年度からは、年齢にかかわらず、総報酬月額相当額と基本月額の合計が50万円以下の場合は年金が満額支給となり、50万円を超えた場合に年金額が調整されます。なお支給が調整されるのは厚生年金の部分のみで、基礎年金は調整されません。

総報酬月額相当額

1カ月あたりの給与(賞与も月額換算して加算)
毎月の賃金(標準報酬月額)+1年間の賞与(標準賞与額)を12で割った額。

基本月額

1カ月あたりの老齢厚生年金額のこと。
老齢厚生年金額(年額)を12で割った額。加給年金は除く。

では、具体的な例を見てみましょう。

Aさんの場合

収入

総報酬月額(1カ月あたりの給与+月額換算賞与) 27.5万円
老齢厚生年金(月額) 10万円
老齢基礎年金(月額) 6万円

総報酬月額と老齢厚生年金(基本月額)の合計が37.5万円で支給停止調整額の50万円以下にあたるため、老齢厚生年金は全額支給されます。老齢基礎年金は在職老齢年金の対象外のため、給与等にかかわらず、全額支給となります。

月額収入の合計は、
給与27.5万円 + 老齢厚生年金10万円 + 老齢基礎年金6万円 = 43.5万円

Bさんの場合

収入

総報酬月額(1カ月あたりの給与+月額換算賞与) 50万円
老齢厚生年金(月額) 14万円
老齢基礎年金(月額) 6万円

総報酬月額と老齢厚生年金(基本月額)の合計が64万円で50万円を超えているため、老齢厚生年金は一部支給停止されます。

【調整額の計算式】
基本月額 -(基本月額 + 総報酬月額相当額 - 50万円)÷ 2
老齢厚生年金の調整額は、
14万円 - (14万円 + 50万円 - 50万円)÷ 2 = 7万円

月額収入合計は、
給与50万円 + 老齢厚生年金 7万円 + 老齢基礎年金6万円=63万円

働きながら年金も毎年アップ

厚生年金は70歳まで加入することができます。老齢年金を受け取りながら働く70歳までのシニアは、同時に厚生年金に加入することになります。つまり、老齢厚生年金を受給しながら、受け取れる年金額を増やしていることになります。この増加分ですが、2021年度までは退職または70歳到達時にしか反映されませんでした。つまり、年金額を増やしているのに、その恩恵をすぐに受けることができなかったのです。
2022年度からは、毎年10月に前年9月から当年8月までの期間の加入分が年金額に反映されるようになりました。働きながら年金を増やすことができるので、いわゆる「働き損」を解消することができました。

自営業の収入は受け取る年金に関係しない

この在職老齢年金制度は、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受給するときの給付制限の制度です。フリーランスや自営業として働く場合、厚生年金に加入できません。したがって、フリーランスや自営業での収入が高額になっても、受け取る年金額は一切減額されることはありません。例えば、会社員として働いていた人が退職し、業務委託などで仕事を請け負うなど、働き方を変えることで年金を満額受給することが可能です。

確定申告が必要になる場合も

年金を受給しながら働く場合には確定申告が必要な場合がありますが、年金受給者には確定申告不要制度があります。この制度の対象者は、

  1. 公的年金等※1の合計金額が400万円以下
  2. 年金以外の所得金額※2が20万円以下

の2つの条件を満たす人です。
働いて給与をもらっている人で、年金の合計額が年間400万円以下で給与以外の所得がない場合、給与所得が20万円以下であれば確定申告をする必要がないということです。給与所得20万円というのは、給与収入でいうと75万円になります※3。つまり、給与の年収が75万円までであれば、確定申告は不要です。給与年収が75万円を超える場合、確定申告が必要になります。

※1…公的年金等とは
国民年金や厚生年金、共済組合から支給を受ける老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金、老齢共済年金)、恩給(普通恩給)や過去の勤務に基づき使用者であった者から支給される年金、確定給付企業年金契約に基づいて支給を受ける年金 など
※2…公的年金等に係る雑所得以外の所得とは
生命保険や共済などの契約に基づいて支給される個人年金、給与所得、生命保険の満期返戻金 など
※3…給与所得と収入
所得は収入から経費を引いたもの。給与の場合は、経費として給与所得控除額が定められており、給与収入が162.5万円以下の場合は給与所得控除額が55万円となります。給与収入75万円であれば、給与所得控除額55万円を引いて、給与所得20万円となります。

参考:
日本年金機構 「働きながら年金を受給する方へ」 在職老齢年金の計算方法
日本年金機構 「令和4年4月から在職定時改定制度が導入されました」
政府広報オンライン 「ご存じですか?年金受給者の確定申告不要制度」

執筆者

福一由紀

ファイナンシャルプランナー

マネーラボ関西代表。「生活に密着したマネー情報を、わかりやすく伝える」をモットーに、雑誌等のコラム執筆、各種セミナーで講師として活動中。武庫川女子大学、甲南大学 非常勤講師。

※掲載の情報は2024年7月時点のものです。内容が変わる場合がございますので、ご了承ください。

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