緑豊かな大阪近郊の街にたたずむ、個性あふれるモダンなお住まい。
子どもたちの元気な声とご夫妻の笑い声が絶えないSさま邸を、
設計を担当した大和ハウス工業の吉川慶(きっかわけい)が訪問しました。
夫の淳司さんと吉川は一つのプロジェクトを共に成し遂げた、
いわば「同志」の間柄。8年前のご新築時から今日までを振り返りつつ、
家づくりに込めた思いやこれからのご家族のことを語り合いました。
開放感と名品家具のあるLDKで
「お久しぶりです。羚央くん、大きくなりましたね」「ええ。2人目も生まれて、にぎやかになりました」。ご契約時はご夫妻お二人暮らしでしたが、ご入居後間もなく長男の羚央くんが生まれ、次男の望蒼くんも誕生。4人家族になりました。年月とともに成長していくご家族の姿と、味わいが深まっていくお住まいの姿に、吉川は感慨深い様子です。
名品家具のコレクションを美しく見せる家がつくりたい――。Sさま邸のコンセプトはとても明快でした。長きにわたるアメリカ生活でミッドセンチュリー家具の素晴らしさに魅せられ、イームズやマーク・ゲッツ、ジョージ・ネルソンなどの名だたる名品をコレクションしてきた淳司さん。帰国後、ご自宅を建築されることになった動機も「家具」だったのです。
左)名品家具のある空間を、温かみのある木の床と天井が優しく包み込みます
右)ラウンジチェアに身を預けて眺める、静かな街の表情。コーナーに吊るしたハンドメイドガラスのペンダントライトがアクセントに
「見晴らしのいい2階にLDKを設け、正面を大きな窓にしよう、階段を上がってきた時にパッと視界が開けるようにしようと、吉川さんと相談して決めましたね」と淳司さん。窓側にはイームズのラウンジチェアとオットマンが置かれ、ご家族全員が取り合いをするほど大好きな特等席になっています。
「街路樹の緑をうまく室内に取りこめるように考えましたね。当時より木が育って、さらにいい雰囲気になりましたね」と吉川。向かって右手に設けた光庭(インナーパティオ)にも青々と植物が茂り、まるで森の中に浮かんでいるような感覚を覚えます。
リビングの中心には、バッサムフェローズのタキシードソファ。脚の細さと長さが特徴的なデザインを、淳司さんお気に入りのウォルナットの床材が引き立てています。
「子どもたちはいつも走り回っていますよ。ぐるぐる回れるので追いかけっこがしやすい空間なんでしょうね。妻はキッチン側から外の景色が眺められるのを、とても気に入っています」。ここでご家族がにぎやかに過ごす姿を見るのが、淳司さんが何より安らぎを感じる時間だそうです。
ダイニングにはジョージ・ネルソンのスワッグレッグアームチェアをはじめ、それぞれにストーリーのあるチェアが並びます。キッチンの背面は白い扉で目隠ししてすっきりと
「リビングから見る外の景色もいいですが、外から帰ってきた時に、明かりのついたこの窓を見上げるのも好きなんです」と淳司さん。夜になるとラウンジチェアのシルエットが温かい光の中に浮かび上がり、美しい天井の木目が目に入ります。
「裏側の木目もきれいですから、ラウンジチェアを下から見上げるのも最高ですよね」(吉川)。クリスマスの時期には、ご家族で飾り付けた大きなもみの木が窓から姿を現して、道行く人の目を楽しませているのだとか。
左)夕闇に浮かび上がる窓の風景
右)T字路の突き当たりに位置し、採光や通風を遮るものがない恵まれた立地。街路樹と庭木の緑、ソリッドな外観とコンクリート打ち放しの門扉がバランスよくデザインされています
家具を引き立てる土間ギャラリー
光いっぱいの2階とは対照的に、1階の玄関土間ギャラリーはほの暗い空間に家具の存在感が際立っています。向かって左手にはジョージ・ネルソンのウォールシステムがしつらえられ、その手前にはミース・ファン・デル・ローエのバルセロナチェアが。右手奥に見えるのは建築前からお持ちだったビンテージのウォールシェルフ。吉川いわく、「家具のサイズにぴったり合わせて壁面を設計するよう、こだわったんですよ」。
玄関ドアを開けると広がる土間ギャラリー。掃き出し窓の向こうにあるテラスでは、妻の洋子さんが家庭菜園を楽しんでおられます
「コロナ禍でリモートワークをしていた時、この空間がちょうど良かったです」と淳司さん。最近ではキャンプなどのアクティビティを楽しむことが増え、ウォールシステムの裏側のバックヤードに道具類をしまっているのだそう。非常時用の水や食料を備蓄することもでき、とても重宝しています。
「生活される中では、見せるための場所だけでなく、散らかっていてもヨシとする余白の場所が必要なんですよね」(吉川)
左)淳司さんがアメリカ滞在時にオークションで落札し、帰国時に持ち帰ったというウォールシステム。裏側がバックヤードになっています
右)イームズハウスバードなどのオブジェがディスプレーされたウォールシェルフ
バイクも趣味とする淳司さんは、ここで道具を広げてメンテナンスをすることも。子どもたちが大きくなったら一緒にツーリングをしたいと夢が膨らんでいるようです。
淳司さんの愛車にまたがる望蒼くん。バイク好きに育つように英才教育中?
土間ギャラリーの隣の洋室は、壁の一部をガラスに置き換え、ゲッツソファの背を見せる工夫がされています
土間ギャラリーからは、隣接する部屋の様子がガラス越しに見えます。もちろん、こちらも計算されたもの。
「マーク・ゲッツがデザインしたゲッツソファは背面がカッコいいマスターピースですから、玄関を通るたびに目に入るようにしようと。洋書のコレクションと一緒にディスプレーしました」(吉川)
「自慢の家具をよく見せたくていろいろ無理をお願いしましたが、吉川さんは困るどころか、前のめりになって話を聞いてくれましたよね」と淳司さんも満足そう。遊び心あふれる土間ギャラリーは、さながらミッドセンチュリー家具の美術館のようです。
住まいとしての暮らしやすさを前提にしながら、家具コレクションをいかに美しく見せるか。その共通目標に向かってオーナーさまと設計士が議論を交わした時間は、さぞ心躍るものだったことでしょう。
「法規上や構造の問題で難しいことがあっても、どうすれば希望がかなえられるのか、情熱をもって考えてくださいましたね」(淳司さん)
「家具にインスパイアされて、アイデアをひらめいた部分も大いにありました。名品家具の歴史を改めて学べましたし、いい勉強になりました」(吉川)
家族の未来をこれからも
わんぱくなお子さまたちが走り回る様子は幸せそのものですが、第三者として少々気になるのは、大切な家具を傷めてしまわないかということ。
「高価な家具ですから、汚したり傷つけたりせずに価値を保ちたいという気持ちももちろんあります。心配なものはカバーを掛けたりしていますしね。でも、子どもたちが成長する過程で、この家具たちが原風景になっていくことを大切にしたい。毎日良いものに触れ、美的感覚を養ってほしいという思いもあります」(淳司さん)
ダイニングでくつろぐ洋子さんと子どもたち。優しい笑顔でキッチンから見守る淳司さん
「8年間生活されて、気づかれたことはありますか?」と吉川。「いいものは飽きがこないなと改めて思います。家具もそうですし、この家も」と淳司さん。愛してやまないウォルナットの床も、時間とともにさらに艶が生まれ、味わい深くなっていくことでしょう。子どもたちが大きくなって、ご家族はどんな歴史を紡いでいくのか。長い人生の中で、オーナーさまとダイワハウスの信頼関係はこれからもずっと続いていきます。
撮影:砺波周平
Profile
DATA
邸名 | Sさま邸 |
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所在地 | 大阪府 |
竣工 | 2015年 |
ご家族構成 | ご夫妻+子ども2人 |
敷地面積 | 206.16m2(62.36坪) |
床面積 |
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商品名 | xevoE |
構造 | 軽量鉄骨造 |