コロナ禍をきっかけにオンライン化が進み、
仕事や趣味、学びなどあらゆる営みが自宅で行えるようになりました。
それにともない、家族がそれぞれの時間を快適に過ごせる
プライベートスペースのニーズが急速に高まっています。
個室を増やさなくても、「間仕切り」を効果的にプランニングすることで、
さまざまな用途に応じたプライベート空間を生み出すことができます。
そこで今回は、エクセレントインテリアコーディネーター(社内認定)、
中野裕乃が、さまざまな間仕切りの事例をご紹介します。
Profile
大和ハウス工業株式会社
中部支社 住宅設計部 静岡設計課
中野 裕乃
インテリアコーディネーター、福祉住環境コーディネーター2級、健康住宅アドバイザー、
エクセレントインテリアコーディネーター(社内認定)、エコピープル(eco検定合格者)
家は建物完成がゴールではなく、そこに住み始めてからの長い年月をいかに心地よく豊かに暮らせるかが大切です。お客さまの今までの暮らし方と「これからはこうしたい」という想いを丁寧にお伺いし、暮らしやすさと居心地の良さが共存する空間をご提案いたします。お客さまの目線に立ち、何が必要かを考え、プロだからこそのアドバイスを心掛けています。
やんわり分ける?しっかり分ける?
目的に合わせて間仕切りの手法を考える
空間を効果的に領域分けするには、まず目的を明確にすることをおすすめします。
例えば、一人でくつろげるプライベート空間を作りたい、来客時に間仕切りドアを閉めることで生活感を隠したい、テレワークに適した集中空間を作りたい…など。空間を仕切ることで冷暖房効率も高まり、光熱費の節約につながる側面も期待できるかもしれません。
間仕切りは大きく分けて2タイプあります。家族が同じ空間にいながらも程よい距離感が保てる「やんわり」とした間仕切り、もうひとつは閉め切れば個室にもなり、さまざまな生活シーンにフレキシブルに対応できる「しっかり」とした間仕切り。それぞれのアイデアをご紹介します。
手法1:心理的な境界を生み出す「やんわり間仕切り」
空間としてのつながりを保ったままやんわりと仕切ることで、心理的な境界線を引き、用途に応じた落ち着き感を生み出します。音やニオイは遮断できませんが、圧迫感を感じにくいのがメリットです。
格子で仕切る
採光や空調を妨げることなく、ゆるやかに領域を区切る格子状の間仕切りは、お客さまの間でも取り入れる方が多い人気のタイプです。互いの存在は感じられながらも、格子が適度な目隠しとなって程よい距離感が保てます。最近はタブレットやスマートフォン、ゲーム機などのデバイスを各自が所有するようになり、家族が同じ空間でつながりながらも、それぞれが思い思いにくつろぐスタイルが増えていることでしょう。程よい距離感のおこもりスペースは、そんな暮らし方にもフィットしそうです。
壁で仕切る
LDKのような広い空間は、間仕切り壁でリビングとダイニングをやんわりと区切るのも一つのアイデアです。壁の上部を開けることでLDKとしての一体感が保たれ、左右から回遊できれば動線もスムーズです。来客時でも他の家族は気兼ねなくダイニングで食事ができますし、後から帰宅した家族の食事中に他の家族がソファでくつろいでいる…といったシチュエーションでも、互いの領域を邪魔しません。間仕切り壁をタイル仕上げにしてインテリアのアクセントにしたり、壁掛けテレビを配置したりするのもおすすめです。
収納家具で仕切る
造作棚や置き家具の間仕切りなら、収納スペースとしても活用できます。写真のようにベッドスペースとくつろぎスペースを飾り棚で分けると、それぞれの空間に落ち着きが生まれます。就寝前にパーソナルチェアに座って瞑想をしたり、ヨガマットを敷いて体をほぐしたりと、寝る前のひとときが楽しみになりそうです。
観葉植物で仕切る
空気清浄作用やリラックス効果なども期待できる観葉植物で室内をやんわりと区切るのも、今すぐに取り入れられるテクニックの一つ。写真のような造作の植栽スペースを作らなくても、背の高い観葉植物を配置するだけでもさりげなく空間を仕切ることができます。どの程度仕切りたいかに合わせて、最適な背丈・葉ぶりの植物を選び、手入れのしやすさも考慮しましょう。
段差で仕切る
フロアを一段低く掘り下げたダイワハウスの「ロースタイルリビング」も、空間をゆるやかに区切っておこもり感を演出する手法の一つです。段差に加えて、写真のような飾り棚や、壁などと組み合わせれば、ロースタイル特有の居心地の良さが生まれます。ソファの位置や出入りする動線などをお客さまにヒアリングしながら、設計士とインテリアコーディネーターが最適な場所に間仕切り壁や収納棚、これまでにご紹介した格子や観葉植物なども組み合わせながらご提案します。
カーテンで仕切る
比較的リーズナブルな方法として、カーテンやロールスクリーンで間仕切りをする方法もあります。カーテンは色やデザインの種類も豊富です。柔らかく透過性のあるレースで圧迫感なく空間を仕切ったり、また、寝室を素材感のあるドレープで仕切り温かみを感じさせたりと、インテリアやお部屋の用途に合わせてセレクトできます。
リビングとタタミコーナーも、ロールスクリーンで仕切れば、巻き上げるだけで全開にできるため手軽で場所も取りません。
これらは後付けが可能ですが、天井や壁に下地の補強が必要になるケースもあるので、あらかじめ想定しておくことをおすすめします。「ロールスクリーンで仕切ったら、照明が届かず暗くなってしまった」ということが起こらないよう、照明計画も考えておくと良いでしょう。
手法2:閉めれば個室、開ければ大空間。可変性のある「しっかり間仕切り」
閉めれば個室感覚で使うことができ、開け放てば大空間にもなる。可動式の間仕切りは生活シーンに合わせて空間の使い方を自在に変えられるのがメリットです。
障子で仕切る
昔の日本家屋は「田の字」の間取りが多く、普段は大空間を襖や障子で区切って個室として使い、冠婚葬祭などで人が集まるときには仕切りを取り払って大空間にしていました。さらに遡れば、平安時代の寝殿造りも、大空間を御簾や屏風などで仕切る、可変性の高い造りといえるでしょう。
こちらの写真も、障子を閉めれば個室空間に、開け放てば大空間となる可変性のある造りです。障子の上の部分が開いているので、閉め切ってもリビングとのつながりが感じられます。このように背の高い建具を入れても圧迫感を感じないのは、天井高2m72cmを実現できるxevoΣ(ジーヴォシグマ)の特長といえます。
スクリーンで仕切る
こちらは天井に抜けがない分、独立した個室としての趣が強めです。誰かが泊まりに来たときには、ゲストルームとしても活用できそうです。また、建具を閉めれば電気代高騰で気になる冷暖房効率を高めることもできるでしょう。
間仕切りだけで快適なワークスペースを作るポイント
コロナ禍を機に需要が増えたのが、テレワークスペースです。書斎を作るほどではないけれど、ダイニングテーブルで仕事をするのはちょっと…という方には、間仕切りを使ったワークスペースをご提案します。
こちらの写真はリビングの一角に間仕切り壁と造作のカウンターテーブルを設けた事例です。壁の高さがあるので、リビングにいる人が視界に入らず、集中を妨げません。作業しやすいデスクの向きや、PC周辺機器の設置スペースも考慮して計画するといいでしょう。また、仕事に限らず、壁で仕切られたスペースでヨガや筋トレを楽しみたいという方も多いです。広いLDKの一角にマットを敷いて、家族の目の前で行うのはなんだか気が引ける…という場合も、このように家族の視線の死角になるスペースがあれば集中できそうです。
小さなお子様など、リビングで過ごす家族の様子に目を配りながら仕事をする方は、ガラスの間仕切りを使ったワークスペースがおすすめです。ロールスクリーンを併用すれば、オンライン会議など集中したいときにはロールスクリーンを下ろして集中空間が作れます。
また、リビングよりも雑音が少ない寝室は、周囲の音が気になる方のワークスペースとして最適です。チェアに座ると頭が隠れるくらいの高さの収納棚を間仕切りとすることで、ベッドスペースとワークスペースをゆるやかに区切ることができます。
開放感やつながりはそのままに。
「音」を区切って一人時間をより充実させる
ここまでご紹介した間仕切りは、視線を遮ることでおこもり感を演出する手法でしたが、音を区切りたいというご要望にはダイワハウスがご提案する快適静音室「やすらぐ家」をおすすめしています。静音室と隣室を独自の静音ガラス引き戸「静音スクリーン」で仕切ることで、隣室にいる家族とのつながり感や開放感はそのままに、気になる音だけを減音できます。
仕事や勉強に集中したいとき、物音に敏感な赤ちゃんがお昼寝をするとき、静音室内で音楽をかけて思いきりエクササイズをするときなど、それぞれの音だけを区切るので、家族の時間も一人の時間も大切にすることができます。
まとめ
間仕切りのプランニングは、まず設計士がお客さまのご要望や家族構成などをヒアリングしながら間取りプランの段階で計画します。そして間仕切りしたスペースでどんな過ごし方をするのか、どの程度のおこもり感を出したいのかといったご要望に合わせて、インテリアコーディネーターが具体的なアイテムをご提案して作り上げていきます。このコラムで間仕切りのイメージを膨らませて、家づくりの際の参考にしてください。
画像提供:(株)フジエテキスタイル、立川ブラインド工業(株)