家づくりを考えるとき、建物を優先して、
エクステリアは後回し…という方は意外と多いかもしれません。
しかし、内(建物)と外(エクステリア)のつながりにこそ、
快適な住まいづくりのポイントが隠れているのです。
この連載では、ダイワハウスの設計士が「ここちよいエクステリアの作り方」を、
フロントガーデン、メインガーデン、植栽計画といったテーマ別にご紹介します。
連載の後半では、おうちでのキャンプやアウトドア気分でのテレワークを叶えるエクステリア、
非日常を感じさせるリゾート風ガーデンの作り方といった実例もたっぷりご紹介します。
第5回目のテーマは「照明計画」です。
エクステリアの夜のシーンを照明で彩ると、
昼間とはまた違ったわが家の表情を楽しむことができ、住まいへの愛着が高まります。
大和ハウス工業の設計士、菊池槙子がエクステリアの照明計画について解説します。
Profile
大和ハウス工業 本社 住宅事業本部 東日本住宅設計室一課
一級造園施工管理技士 一級エクステリアプランナー
菊池 槙子
お庭は時に人と人をつなぐコミュニケーションの場であり、自然を身近に感じられる場ともなり、私達の生活に潤いをもたらしてくれる空間です。それゆえ住まう方に寄り添い、街並みにも配慮した主張しすぎず、日々の生活と共存し、居心地がいい空間づくりを心がけてご提案いたします。
エクステリアにおける照明の役割とは?
照明計画といえば、室内の照明をメインに考える方は多いかもしれませんが、エクステリアの照明も室内の照明と同じくらい住まいにおいて大切なポイントです。エクステリアにおける照明の役割をいくつかご紹介しましょう。
1)美観の演出
照明には建物の魅力を引き立て、温かみのある住まいを演出する効果があります。特に、ファサードは第一印象を決める「顔」と言える部分。効果的にライトアップされた住まいは、帰宅時にホッとするような心理的な切り替わりを生むと同時に、訪問される方にとっても迎える印象をあたえます。夜の見栄えをしつらえることは、配慮の行き届いた景観のいい街並みを形成することにもつながるでしょう。
ファサードだけでなく、メインガーデンの植栽なども雰囲気良くライティングすれば、昼間とはひと味違う幻想的な景観が楽しめます。
2)夜の活動場所が広がる
リビングの外にウッドデッキやタイルテラスを設けて、屋外のリビングとして活用する方が増えています。家族でゆったりと屋外で夕食を楽しんだり、庭を眺めながらお酒を楽しんだり、お風呂上がりには夜風にあたって涼んだり…。明るさがあれば夜間の活動場所としてフル活用できます。
3)安全の確保
アプローチのような夜間の歩行に注意が必要な場所に照明を設置すると、段差や構造物、通路幅を認識することができます。
4)防犯
暗がりをつくらず、明るさを確保することで、不審者に対して侵入を思いとどまらせる効果が期待できます。人が近づくと点灯するセンサー付きライトなども効果的です。
上記を組み合わせることで、住宅としての付加価値が生まれ、街に配慮した美しい夜のまちなみを形成することができます。次から、エリアごとの照明手法のポイントをご紹介します。
ファサード照明で住まいの第一印象がアップ
一昔前の住宅のファサード照明といえば、表札部と玄関ポーチくらいで、必要最低限の明るさがあるだけでした。ファサードはそこに住む方や訪問される方、行き交う人の目につきやすく、照明で雰囲気良く演出すれば、住まいの印象を格段にアップさせることができます。
基本的な設置ポイントは「門灯や表札灯」「アプローチを誘導するガーデンライト」「シンボルツリーを照らすスポットライト」「玄関ポーチ軒天のダウンライト」。防犯を強化するなら、これらに加えて人感センサーのセキュリティーライトなども検討するといいでしょう。
シンボルツリーの特性をとらえて樹木を美しくライトアップ
雰囲気のいいファサードを演出するのに最も効果的なのが植栽のライトアップです。代表的なシンボルツリーのライトアップの手法をご紹介します。
ポイント1:樹木の影は極力消す
シンボルツリーが外壁に近い位置に植えられている場合、これを道路側から壁に向かってスポットライトで照射すると、樹木の影が不自然に壁に映し出されて「ノイズ」となってしまいます。
樹木と外壁の間にスポットライトを配置すると、外壁に影がほとんど映し出されず、樹木のシルエットが引き立ちますよ。
NG例:樹木を前から照らした場合。
外壁に樹木の影が映り、手前の樹木と重なってごちゃごちゃとした見え方に
OK例:樹木を裏から照らした場合。
往来からはすっきりとした樹木のシルエットが見える
シンボルツリーの影をあえてファサードに映し出す手法もありますが、樹木と外壁の間に照明を設置し、下から上に向かって照射することで、柔らかな光で外壁も美しく演出します。
また、背景となる外壁の色調が暗いと光を吸収するため樹木のシルエットがより引き立ちますが、昼間は明るい色調の外壁の方が、樹木が映えます。
ポイント2:落葉樹と常緑樹で照射の仕方を変える
落葉樹の場合
葉に透過性があり枝ぶりも繊細なので、上・下どちらから照らしても素敵です。ただ、ファサードの場合は照明器具を上部に取り付けると建物の美観を損ねたり、近隣に光がまわる心配もあるため、植え込みに器具を仕込んで下から上に当てることで、ダイナミックな演出ができます。落葉樹は枝ぶりが大きく広がったものが多いため、葉をやわらかく照射できる広角配光(全体的に光が広がるタイプ)のスポットが向いています。
冬は葉が落ちますが、繊細な枝ぶりをライトアップするのもまた趣があります。
常緑樹の場合
葉の表面にツヤがあるため上からスポットで照らすと樹木が引き立ちます。葉は肉厚で密集しており、枝ぶりもしっかりしているため、下から照らすと光が遮られがち。そのため、少し離れたところから照らすと効果的です。狭角配光(中心が明るくメリハリのある光になるタイプ)が適しています。
ポイント3:樹形や株立ちで照明器具の位置を調整する
根元から1本の幹が伸びている「幹立ち」は幹の影がくっきり出やすいので樹木から少し離れた位置から照明を当てるのがポイント。葉が密集している樹種の場合も、少し離れた位置から照らしましょう。一方、根元から複数の幹が立ち上がっている「株立ち」は近くから照らしても枝の面が狭いため光が分散され、濃い影がうまれにくいです。植栽には1本1本表情があるため、実際に植えてからスポットライトの照射角度を調整しましょう。狭角や広角を調整できる照明を選択しておくのも一つの手です。
アプローチ照明は足元の「安全確保」と迎える
「安心感」を演出
門から玄関へと続くアプローチは、足元の安全を確保するために低い位置に照明を配置します。その配置の仕方によって安堵感を演出することができます。
ポイント1:サバンナ効果
人の行動心理として、奥が明るいと安心して進みやすくなります。このサバンナ効果と呼ばれる行動心理を照明に取り入れましょう。アプローチの突き当たりを明るく照らして中間は明かりを抑えめに。その明暗の対比が大きいほど、安心感の先に印象的な景色が生まれます。4~5m間隔で照明を配置すると、適度な明暗が生まれます。
ポイント2:遠近法・不等辺三角形
アプローチに奥行が感じられるほど美しく、安心感を与えます。手前の照明器具を高く、奥に進むほど低い照明器具を配置すると、遠近法によって奥行感を演出できます。平面で見たときに不等辺三角形になるように照明を配置すると、単調になりません。アプローチがクランクしている場合は、クランク部分の突き当たりに照明を配置しましょう。
メインガーデンは月明かりを再現してリラックス感を演出
こだわって作り上げたメインガーデンを、夜に真っ暗な状態にしていてはもったいない。庭を照明で演出することで室内から心地よい夜の景色が楽しめるばかりでなく、ウッドデッキやタイルテラスで過ごす時間も楽しみになります。メインガーデンの照明は、ホッとできるような心地よさと、室内と明るさをつなげることが演出のポイントです。
ポイント1:高い位置から照らして月明かりを再現する
ファサードのシンボルツリーは下から上へスポットライトで照らしますが、メインガーデンの植栽は上から照らすことで、月明かりのような幻想的な雰囲気を演出できます。4.5〜6mくらいの高さから照らすと不自然な影ができず、月明かりのようなやわらかな光になります。2階の軒天の下や外壁などの適切な場所に照明を取り付けられるよう、建物の設計段階から計画しておきましょう。
月明かりのような理想的な照明
樹木全体と地面が同時に照らされるので効果的な明るさが得られ、室内に庭の景色を取り込める。
下から上への不自然な光
樹木を下からライトアップすると、樹木の影がうるさい印象になるばかりか、地面が暗くせっかくの庭が見えない。
ポイント2:デッキやテラスは軒天下のスポット照明で明るさを確保
ウッドデッキやタイルテラスといった内と外の「中間領域」は、室内と同等の明るさを確保するのがポイント。軒先に設置したスポットライト、または軒天の下に設置したダウンライトで照射します。デッキやテラスに置いた椅子やテーブル、コンテナグリーンなどを照らすと陰影が生まれて雰囲気が出ます。椅子に座った時にまぶしくない位置に照明を設置しましょう。
ポイント3:室内と屋外を明かりでつないで広く見せる
室内(近景)とウッドデッキやタイルテラス(中景)の光の質を合わせ、視線の先にある庭の植栽や壁など(遠景)をスポットライトで照らすと、室内から屋外まで、景色に連続性が生まれます。
「映り込みで窓の外が見えない」「思ったよりも暗い…」
ありがち失敗例は?
エクステリアの照明計画において、ありがちな失敗例と注意ポイントをご紹介します。
室内が映り込んでせっかくの庭が見えない
一般的な作業重視の室内の明るさだと窓ガラスは鏡となるため、室内の景色が映り込んで庭が見えません。庭より室内を暗くするか、同程度の明るさにすることで、ライトアップされた庭の景色が見えてきます。メインガーデンに面した居室には、照度をコントロールできる調光タイプの照明をおすすめします。
映り込みは室内の壁紙の色でも変わります。光の反射率は白80%、黒5%で、ダーク系の壁紙だと映り込みが軽減されます。白い壁紙の場合は、室内の照度をさらに落とす必要があります。
壁紙の色が白の場合は窓に映り込みやすくなる
壁紙の色がダーク系だと窓への映り込みが軽減され、庭がみえるようになる
さらに、室内の照明器具自体が窓に映り込んでノイズとならないよう設置位置を考慮し、光が拡散しないタイプの照明器具を選ぶといいでしょう。
思ったよりも足元が暗い・視界に入ってまぶしい
視認性は年齢とともに衰え、40代後半くらいから実感される方が多いようです。住む方の年齢によって、光の量を増やすなどの調整が必要です。特にアプローチの段差や階段などは安全性の確保が最優先です。また、明かりが視界に入って不快なまぶしさにならないよう配慮しましょう。
照明器具が丸見え・住宅設備が目立っている
見せたくない照明器具が丸見えになっていたり、美観を損ねる位置に設置されていたりしたらせっかくの雰囲気が台無しです。特にファサードは目立ちやすいのでご注意ください。建物の雰囲気とマッチした器具を選定するとともに目立たない位置に設置しましょう。外壁の雨樋、排水桝といった住宅設備が、照明を照らすことで目立っていないかどうかも確認しましょう。
設計士からのアドバイス
「いくつかの照明の回線をあらかじめまとめておき、1カ所のスイッチを操作するだけで一括制御することもできます。暗くなったら自動点灯する明るさセンサーを取り入れるのも便利です。エクステリアの照明計画を建物の計画と同時に行うことで、ご使用になりたい照明器具があれば、適切な場所に外部コンセントを設けることもできます。
LED照明の普及によってエクステリアを照明で演出することが一般的になりました。実用面だけでなく住まいの魅力を高める手法として、ぜひ検討してみてください」
画像提供:コイズミ照明(株)
大光電機(株)
※掲載されている実例写真の外観や仕様等につきましては、敷地、周辺環境等の諸条件や地域の条例、その他諸事情により、採用できない場合もございます。