共働き世帯の増加などにより、
日々の洗濯をもっと効率的に行いたいと考える方が増えています。
そのニーズを反映してか、洗濯に関わる作業を1箇所で完結できる
「ランドリールーム」を計画する方も増加傾向にあるようです。
そこで、30年以上暮らしの悩みを解決してきた、
住まい方アドバイザーの近藤典子さんに、
使いやすい洗濯スペースを作る方法についてインタビュー。
毎日何気なく行っている洗濯という作業を可視化したうえでの、
目からウロコのアドバイスは必見です。
Profile
株式会社 近藤典子 Home&Life研究所 取締役
「近藤典子の暮らしアカデミー」校長
一般社団法人日本住まい方アドバイザー協会 代表理事
近藤 典子
30年以上の住まいの悩みを解決してきた経験から生み出された収納や家事動線、掃除術など近藤流のわかりやすい暮らし提案が好評。分譲住宅・マンションやショールーム、展示場の空間プロデュースも多数。海外でも「中国カスタマイズ住宅設計貢献賞」、韓国の「グッドデザイン賞」受賞。企業との商品開発のコラボレーションも多く、ダイワハウスとは「しまいごこちイージークローク」という近藤典子さんの考えをダイワハウスがカタチにした収納商品を展開している。その他資格取得ができる『住まい方アドバイザー養成講座』を現在オンラインにて開催中。
・問合せ先
E-mail: n.academy@hli.jp
TEL: 03-3267-0537
そもそも洗濯はどこで行うべきか?
洗濯を行う場所は、家の中のどこに作るのが最も効率的でしょうか?その答えは、家事の三大要素である「炊事」「掃除」「洗濯」を行う場所を考えると明らかです。
家事の中で最も多くの時間を費やす「炊事」はキッチンで行います。「掃除」は家のあちこちで行うので、場所は定まっていません。そう考えると、「洗濯」はキッチンのそばで行うと、家事動線に無駄がないことが分かります。
キッチンと洗濯スペースを隣接させることができなくても、キッチンからの動線がいい場所に作ることを意識しましょう。
洗濯の基本の流れを「言語化」して洗濯動線を考える
次に、洗濯の流れをおさらいしてみましょう。 日々なんとなく行っている洗濯という行為を、改めて「言語化」してみることが大切です。
① 洗濯物の仕分け(柄物・白物・クリーニングするものなどを仕分ける)
② 洗う(洗濯機)
③ 干す
④ 取り込む
⑤ たたむ
⑥ しまう
これが基本的な流れですが、①〜⑥の間には細々とした作業が発生します。
たとえば…
下処理
①と②の間に発生するのが、つけ置き、シミ取りといった汚れの下処理です。洗面台で行うことが多いかもしれませんが、水跳ねして汚れやすく、つけ置きしようにも家族が洗面台を使うときに邪魔になり、いちいち作業が中断されてしまいます。洗面台とは別に、洗濯スペースに小さめのサブシンクがあると作業効率がアップ。洗濯だけでなく雑巾などの掃除用具を洗ったり、泥付き野菜を洗ったりするときにも重宝するので、サブシンクの設置はおすすめです。
雨の日干し
③と④の間に発生するのが雨の日の対応です。突然の雨や、雨天続きで洗濯物がなかなか乾かないときに室内干しができる場所があると効率的です。共働きなどで日中に外干しができない方や、黄砂やPM2.5、花粉が気になる季節にも必要な機能です。
アイロン掛けや繕い物
⑤と⑥の間に発生するのが、アイロン掛けや外れたボタン付けなどの作業。洗濯スペースに作業台があると、洗濯物を取り込んだ後にサッと作業に取りかかれます。洗濯物をたたむスペースとしても兼用できます。
書き出してみると、洗濯には実にさまざまな作業があり、各作業に応じたスペースや設備が必要になってくることがわかります。
こうした一連の作業を1箇所に集約して行える間取りが最も効率的ですので、いわゆる「ランドリールーム」があれば大変便利でしょう。ただし、「洗濯物をたたんだり、アイロン掛けをしたりする作業はリビングやダイニングで行いたい」「作業台は削ってもいいから室内用物干しスペースがたっぷり欲しい」など、その人によって求める機能が異なるはず。
毎日自分が行っている洗濯の流れを書き出したら、自分が重視したい機能に優先順位をつけましょう。そして、それぞれの作業に必要な設備や道具を考えてみます。それらが家のどこかにしっかりおさまり、使いやすい距離や動線になっているのなら、必ずしも「ランドリールーム」にこだわる必要はありません。
洗濯に必要な設備のサイズや位置関係とは?
作業台の奥行・高さは?
洗濯物の仕分けやアイロン掛け、繕い物に便利な作業台は、40cmほどの奥行があれば十分。高さは立って作業するときに力を入れやすい70cm(ダイニングテーブルとほぼ同じ高さ)が最適ですが、ご夫妻の身長差が大きい場合はメインに使う人が無理のない高さに設定しましょう。
室内用物干しスペースは?
室内用物干しスペースは、洗濯物の量に合わせて計画することが大切。天井だけでは足りない場合、側面から引き出せるものや床置きの物干し台も併用すればたっぷり干せます。物干し台の収納場所も考えておきましょう。湿気が溜まりやすいので換気扇は必要ですが、窓はなくても構いません。換気扇と除湿機を併用すれば8時間ほどでしっかり乾きます。
外干しスペースへの動線は?
洗濯スペースから近い場所に外干しスペースを作ると動線がスムーズです。お住まいの地域の気候等の条件で、室内干しをする日が多そうなら、外干しスペースを削ってその分室内用物干しスペースを広げるなど、調整しましょう。
限られたスペースでも効率的な洗濯動線を生み出す工夫
限られたスペースでも効率的な洗濯動線を確保する方法はあります。下の間取り図は、キッチンの隣にユーティリティー(多目的空間)を設け、そこに洗濯動線を集約させた間取りの一例です。
近藤典子さんとのコラボレーションにより設計されたダイワハウスの展示場「ケーススタディハウス神戸」(現在は閉鎖)。
洗濯スペースと洗濯物が発生する場所(=脱衣所)が隣接していると動線がスムーズですが、必須条件ではありません。こちらの間取りでは、洗濯は1階で行いますが、浴室と脱衣所は2階にあり、開口部からダストシュートのように1階のユーティリティに洗濯物を落とす仕組みになっています。
室内用の物干しは、ユーティリティの奥の廊下の天井に取り付けています。ここに洗濯物を干すとリビングから洗濯物が丸見えになりますが、室内干しをするときは手前にある収納の引き戸をスライドさせれば目隠しができます。1枚の扉を二通りに使うことができます。
また、作業台が手狭な分、使うときだけ引っ張り出す格納式アイロン台をセット。ここで洗濯物をたたむこともできます。ユーティリティの廊下は家事動線として独立しているので、洗濯物を広げたままにしても邪魔にならないのがポイントです。
このように、限られた空間内でも設計の工夫次第で洗濯の利便性を高めることは可能です。
ランドリールームが作れなくても
1坪で実現する機能的な洗面室
洗濯専用のスペースが作れない場合は、洗面室と兼ねる場合が多いと思います。洗面化粧台と洗濯機置き場、浴室が隣接した一般的な洗面室の場合、次の5つの機能が備わっていると使いやすい洗面所になります。
洗面室の5つの機能
① グルーミング(洗顔、手洗い、ヘアセットなど)
② 脱衣
③ 洗濯
④ 掃除道具置き場(洗剤や掃除道具、バケツなどを収めるスペース)
⑤ 健康チェック(体重を測る、姿見で全身をチェックするスペース)
洗面室は朝出かける前には身支度を整えて準備をし、外から帰ってきたら手を洗ってメイクを落とすなど、オンとオフを切り替える場所。また、家族の衛生観念を身につける場所でもあります。洗面室が使いやすく整っている家は、家の他の場所も整頓されている、というのが私の考えです。ですから洗濯スペースとして併用する際も、洗面のための機能を邪魔しないように配置することが重要です。
住まい方アドバイザー公式テキスト『暮らしを整える住まい方ハンドブック2』(東京書籍)P142より
こちらの図面は、一般的な1坪タイプの洗面室に、上記5つの機能を盛り込んだ一例です。限られたスペースにコンパクトにまとまっていますが、洗面室での主な動作に必要な空間は確保されており、実際にこの空間に立つと意外と広いと感じます。
洗面室の5つの機能に優先順位をつけ、優先度の低いものを他の場所に移してもいいでしょう(例:掃除道具置き場は他の場所に移すなど)。洗濯機の上には造作棚や市販のラックを設置して、縦の空間も有効活用しましょう。
ファミリークローゼットの運用方法
洗濯の一連の作業の中でも「衣類をしまうのがストレス」という声は少なくありません。たたんだ洗濯物がリビングのソファの上に放置されたまま…という光景は多くの家庭で見られるようです。
洗濯スペース内に収納棚があれば、洗濯物を「しまう」作業まで1箇所で完結できてベストなのですが、実際にはそこまでの空間がとれないことも。その場合、隣接した場所にファミリークローゼットを作るといいでしょう。
お子さんがいるご家庭の場合、お子さんが小さいうちはファミリークローゼットですべての衣類を収納できますが、成長してそれぞれの好みが出てくると衣類が溢れてしまうことも。子ども部屋にもクローゼットを作っておくことをおすすめします。
子どもが成長したら、ファミリークローゼットにはパジャマや部屋着をしまい、それ以外の洋服は各自のクローゼットに、などとしまうものを明確にしておくことが散らからないポイントです。
子どもが成長したら、個人別に用意したカゴに洗濯物を入れて階段の途中にセット。自分で洋服をしまってもらいましょう。折りたたみのカゴにすれば、ランドリースペースにもすっきり収納できます。
収納ワンポイントアドバイス
・洋服は吊るして収納
洋服は立体的な構造のため、たたむよりも吊るして収納するのが理にかなっています(ニットと下着は例外)。洗濯物が乾いたらそのまま吊るしてしまえば時短に。クローゼットにはハンガーポールを多めに用意しましょう。
・トップスとボトムスは別々の場所に掛ける
トップスとボトムスを同じハンガーポールに掛けるとボトムスが埋もれて探しにくくなります。別々の場所に掛けるとハンガーの肩先が揃うので探しやすいです。
・引き出し収納は肩の高さまで
引き出しは肩より高くなると中の物が見えないので、家族で一番背が高い人の肩の高さまで(目安は身長×0.8)が目安。
家族でたたむ・しまう体験を共有し、
洗濯のやり方を五感で伝える
よく「子どもが洗濯物を自分でしまってくれない」と嘆く親御さんの声を聞きます。でも子どもにしてみれば、いままで親が見えないところでやってくれていたからどうすればいいのかがわからない、という状態であることが多いです。
さらにいうと、子どもは言葉だけでは伝わらない面もあります。衣服がきちんと収納されたファミリークローゼットを見せる、干したての石鹸の香りを嗅ぐ…。「洗濯とは快適で心地よいものなんだ」と小さい頃から五感で感じさせることで、その重要性に気づかせることができます。
言葉以外でもアプローチしつつ、「こうやってたたんで、こんな感じでしまってくれると助かる!」とやり方を繰り返し説明すれば、徐々に子どももできるようになり、家事分担ひいては自立を促すことにつながります。自分の大事なぬいぐるみを洗ってみるとか、自分には届かない高さでもお父さんなら干せるとか、子どもにとって洗濯を身近に感じられる機会をつくることで、家族の思い出も増えることでしょう。
まとめ
効率的な洗濯スペースと動線によって日々の作業をラクにしつつ、「家族みんなで参加する洗濯」を大いに楽しんでみてください。