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生活を考える

子どもが自分から
勉強したくなる家づくりとは?

新型コロナウイルス感染拡大の対策で長期の臨時休校を強いられた子どもたち。
家庭での長時間学習をはじめてみて、「集中力が続かない」「なかなかやる気を出してくれない」
といった課題を感じた親御さんは多いかもしれません。

今回は、「自宅でも子どもが自分から勉強に取り組みたくなるような学習空間」について考えてみます。
お話をお伺いするのは、23年間の教員のキャリアを持ち、
「子どもの将来は『親力』で決まる」をモットーにさまざまな媒体で教育論を発信されている
教育評論家の親野智可等(おやのちから)さん。

子どもにとって勉強しやすい空間の条件をはじめ、自発的に勉強したくなる部屋・家づくりの考え方や、
地頭の良い子を育てるちょっとした工夫など、興味深いお話が満載です。

Profile

親野智可等(おやのちから)さん

教育評論家。本名 杉山桂一。長年の教師経験を元にしたメールマガジン「『親力』で決まる子供の将来」ほか、ブログ、Twitter、YouTubeで教育情報を積極的に発信している。『「叱らない」しつけ』(PHP文庫)などベストセラーも多数。全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会や、先生・保育士の研修会でも活躍。

http://www.oyaryoku.jp

休校で子どもたちの「学び」に大きな変化。
自宅学習の大切さが見直されている

新型コロナウイルス対策の休校によって、子どもたちの「学び」にはどんな変化が起きたのでしょうか。親野先生は3つの問題点を指摘します。

親野先生:「一つ目は学習格差。分かりやすい例では私立と公立の差です。私立ではオンライン授業の対応が進んでいるところもありますが、公立ではプリント配布が中心。インタラクティブなオンライン授業と比べるとプリント学習はあまりはかどらず、両者の間で格差が生まれています。

二つ目は勉強のモチベーションの低下。学校に行けず、子どもの自主性に基づいた家庭学習ではやる気が出ないのも無理はありません。そんな我が子の様子を不安視した親から『やらなきゃダメでしょ』と注意されようものなら、さらに勉強が嫌いになってしまいます。

三つ目は自己肯定感の低下です。親に注意されることが増えれば『自分はダメだ』と自己肯定感は下がる一方。親に不信感や愛情不足を感じてしまうことにもつながります。」

家庭学習が進まないことで、子どもの学習面のみならず親子関係にも悪影響を与えてしまう可能性があるようです。それでは上記の問題点を解決するには、どのような家庭学習の空間が理想なのでしょうか?

リビングは子どもにとって理想的な勉強スペースの一つ

親野先生が考える理想的な学習環境は「子どもが安心できる場所」だと言います。子どもは基本的に怖がりなので、個室で勉強していると「窓の外を何かの影が通った…」などと不安になって、勉強に集中できないそう。『安心できる場所』の一つとして、親野先生はリビング学習を推奨します。

親野先生:「家族の存在が感じられるリビング(およびその周辺)は子どもにとって安心できる場所です。分からないところはすぐに聞くことができ、できた部分を褒めてもらえば、子どもはうれしくて勉強が楽しくなる。子どもが集中を切らしたときにも、親がさりげなく声をかければモチベーション維持と自己肯定感アップにつながります。

ただし注意したいのは、子どもの様子が見える分、親が口うるさくなってしまうこと。『鉛筆の持ち方が違う』『さっきも教えたでしょ』『何度言ったら分かるの』といったマイナスの言葉は、前章でも述べたとおり子どもの自己肯定感を低くしてしまうので気をつけましょう。」

上記の心得のほかに、リビング学習において必要な条件を親野先生に教えていただきました。

明るさ

親野先生:「生活空間の明るさと、勉強に必要な明るさは異なります。JISにおける住宅の照明基準では、リビングの団らんには150〜300ルクスが基準ですが、勉強には500〜1000ルクスが基準。暗いところで勉強を続けると、視力や集中力の低下を招くことも。天井照明だけでは不十分な場合は、手元を照らすスタンドライトなどがあるといいでしょう。」

例)団らん用から勉強用の明るさへと切り替え機能がついたリビング照明の設備や、天井照明とタスクごとの照明を分ける照明計画(タスク・アンビエント照明)を考えておくのも効果的。

体に合ったテーブルと椅子

親野先生:「リビングとダイニングがつながった空間の場合はダイニングテーブルで勉強するケースも多いと思いますが、子どもにとって机や椅子が高すぎると、足がぶらぶらして落ち着かず、疲れやすくなってしまいます。子どもの体に合ったテーブルと椅子を用意してあげるのは基本です。」

例)ダイニングとリビングのテーブル、どちらも子どもの学習に適した高さにできない場合は、リビングに専用のスタディコーナーを併設するという選択も。子どもがリビング学習を卒業した後は大人の書斎や作業スペースとして利用できる。

収納スペース

親野先生:「子どもが勉強する度に教科書、ノート、辞書、資料集、文房具などが出しっぱなしになっていると当然生活が不便ですし、親のイライラが増し、子どもへのあたりもキツくなって、子どもの自己肯定感が下がるという悪循環に。勉強→片付けは毎日のことですから、その場しのぎではない収納スペースをしっかりと確保しておきましょう。リビング学習を視野に入れて住宅の設計を考えるといいと思います。きちんとした収納場所があれば片づけの習慣が自然と身につき、一石二鳥です。」

例)リビングのテレビボードの後ろに設けた収納。ランドセルや教材などがリビングに散らからない。

多様な学習空間をつくってノマドワーカーのように
場所が変わっても集中できる力を養う

小学校高学年くらいまではリビング学習がおすすめですが、個人の資質や発達具合、学習内容によっては個室や、その他の空間でも良いのでは、と親野先生。

親野先生:「本人の好きな場所・落ち着く場所でいいと思います。個室で勉強をするならドアを開けて親の気配が感じられるようにするといいでしょう。また、リビングに隣接した和室など、ほどよい距離感がありつつ親の目も行き届く場所でもいいですね。」

さらに、子どもも、家の中でノマド的に学習できるスペースをいくつか持つのがいいと親野先生は考えます。ノマド(nomad)とは英語で「遊牧民」という意味。デバイスの発達とともに、場所に縛られない働き方をするノマドワーカーと呼ばれる人が注目され、会社員であってもカフェやコワーキングスペースなどを活用して隙間時間を有効活用する人は増えています。

親野先生:「一昔前は勉強部屋にこもってこそ集中できるという考えが根強かったですが、これからの時代はその日の気分や学習内容などで、柔軟に学習環境を使い分けられた方がいいと思います。どんな場所でも集中できるようになれば、試験本番で力を発揮できますし、大人になってからも効率良く働けるでしょう。階段の踊り場やベランダ、隠れ家的な狭い空間など、なるべく多様な場所があると子どもが自身の個性にあわせて選択できていいですね。」

階段の踊り場に設けたデスクコーナー。リビングにいる家族の気配を感じながら勉強に集中。

階段下を学習スペースに有効活用。こうした隠れ家的スペースを好む子どもは多いそう。

親野先生:「今はタブレットやスマホアプリを取り入れた学習も普及し、家中どこでも学習ができます。オンライン学習に不慣れな親世代は、自分たちがやったことがないという感覚から、心理的抵抗を感じるようですが、学習格差をなくすためにもオンライン学習はむしろどんどん取り入れていったほうがいい。ただし、電子機器を暗い場所で使うと目が疲れやすくなるので、必ず照明は準備し、ブルーライト対策もしましょう。」

子どもの「地頭」を良くするのは自由な発想を
はぐくむ習慣から

学習によって身につく能力だけでなく、地頭の良さも近年注目されます。生まれ持った部分があるにしても、地頭を良くする方法は気になるところです。親野先生のおすすめは以下の2点です。

子どもが自由にお絵かきできるホワイトボード

親野先生:「できるだけ大きなサイズのホワイトボードを、壁や開き戸の内側などに設置し、子どもが自由に絵や文字を描いてもいいスペースにします。『描く』『書く』ことは脳を鍛え、クリエイティブな能力を育てます。大事なことは子どもが没頭しているときに『すごいね、集中力があるね』と褒めること。『自分は集中力があるんだ』という自己イメージができると子どもの自信となり、ひいては学習に取り組む原動力にもつながります。」

例)壁一面にのびのびと文字や絵が描けるファミリーギャラリー。マグネットで子どもの作品や家族の思い出の写真などを貼ることもできる。生活感が出やすいため、来客から見えにくく家族はよく通る場所にするなど、家の間取りを考えるとき、設置する場所をあらかじめ考えておくとベター。ダイワハウスではボード用のペンで自由にお絵描きができる壁材を選ぶことも可能。

親野先生:「ホワイトボードは、お絵かきボードとしての役目が終わってからも、家族の伝言板や子どものスケジュール管理として活用することができます。スケジュールは紙に書いてしまうと変更するのが大変ですが、マグネットなら状況に応じて柔軟につくり変えできます。学校と違って時間的制約がない家庭学習において、子どもの時間管理能力を養ったり、自分で決めて自分で実行する自主性をはぐくむのは重要です。」

リビング本棚

親野先生:「子どもの好奇心を育むには、本や図鑑、学習漫画を子どもが取り出しやすい場所に設置することも大切。その観点からいうと、子ども部屋ではなくリビングに本棚を設置するのはおすすめです。読書タイムを設けるのもいいと思います。夕食後など毎日決めた時間帯に10分間、家族全員で読書をすると決めるのです。たった10分ですが、少しでも読むと続きが気になって読みたくなるものです。」

【番外編】子どもが進んで勉強したくなる親の声かけのコツ

環境を最大限に整えても、どうしても子どものやる気が出ないとき、親はどう接したらいいのでしょうか。親野先生から、子どものやる気を引き出す言葉やアイデアを教えていただきました。いずれも子どもの様子をみて反射的・感情的に言葉を発するのではなく、一度子どもの目線に立って、寄り添いながら声かけをしてあげると効果的なようです。

共感が大事

親野先生:「『宿題が多くてやりたくない~』と子どもが言ったときに『何言ってるの。やらなくちゃダメでしょ!』と叱ってしまいがちですが、『そうだよね。プリントが多くて大変だよね~』とまずは共感してあげましょう。親に共感してもらえたことで心が満たされ気持ちが安らぐと、『仕方ない。始めるか』となるものです。それでもダメなら『プリントの半分でいいからやってみよう』『手伝ってあげるから一緒にやってみようか』などとハードルを下げます。『自分の気持ちを分かってくれる人が言うなら、やってみようかな』となるはずです。共感してもらえた子どもは親に信頼感を持つようになります。共感こそがいい親子関係を築く絶対条件だと私は考えています。」

褒められる部分を見つけて褒める

親野先生:「子どもが取り組んだ学習は必ず褒めてあげてください。全体を見ると褒められない場合でも、部分的に見れば褒められるポイントがあるはずです。子どもが漢字の書き取りノートを見せてくれたとします。全体的に字が雑で間違っている文字があっても、それを指摘する前に必ず「この漢字のココのはらいが上手!」「この字は太く書けていて力強いね」などと褒めてください。そのうえで、「この字だけ直してみようか」と修正点を伝えます。先に褒めることがポイントです。」

まとめ

子どもが勉強を好きになるためには、適切な環境と親の肯定的かつ共感的な言葉が大事だと親野先生は話します。この二つに気をつけていれば、強制しなくても勉強するようになります。

あくまで子どもが自分から机に向かうように、なるべくストレスの少ない学習環境を整えつつ、ノマド的感覚を養うゆたかな空間、地頭をよくする習慣を促す仕組みなど、今後子どもが生き抜くために必要な知識を身につけやすくなるよう、家づくりの際には工夫してみてくださいね。

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