水中をゆったりと泳ぐ魚を見ると心が安らぐ経験は、誰もが持っているのではないでしょうか。
水槽で魚や水草を育てる「アクアリウム」は昔から好まれてきた趣味の一つですが、種類や楽しみ方の広がりから、近年特に人気が高まっています。
住まいに自然の風景を取り入れることで、癒やしを感じたり、子どもが生き物に触れるきっかけになったり。インテリアとして楽しむ、自分だけの世界観を追求するなど、その魅力はさまざまです。
今回は、観賞魚の情報誌「月刊アクアライフ」編集長の山口正吾さんに、アクアリウムの楽しみ方や基礎知識、始めるにあたってのアドバイスを伺いました。
“自分だけの世界”をつくる面白さ
水を見ると不思議と気持ちが落ち着き、心地よさを感じる人は多いと思います。日本では昔から、庭に池や川をつくり、暮らしの中に水のある風景が求められてきました。金魚は室町時代から、メダカは江戸時代から飼育されていたことを考えても、水や魚を鑑賞するのが好きな国民性だと言えるのではないでしょうか。現在では水族館も人気を集めていますが、家庭で楽しむ「小さな水族館」がアクアリウムです。
アクアリウムの魅力は、水槽の中に「自分だけの世界」をつくり出せる点にあります。自分が思い描く景色を、小さな水槽の中に表現していく過程はとても楽しいもの。単に見た目の美しさを追求するだけでなく、水を浄化するバクテリアの力も借りて、自然の生態系を再現していくところに面白さがあります。
また、ステップアップしていく楽しさも醍醐味の一つです。魚や水草には数多くの種類があり、それぞれに応じた水槽環境を整えるにはそれなりの知識や技術が必要になります。飼育技術が上がっていくにつれ、難しい魚にチャレンジしたり、大きな水槽に変えてみたり。試行錯誤しながら上達していく感覚がくせになる人も多いようです。
種類によって、楽しみ方もさまざま
一口にアクアリウムと言っても、何をどんな水槽で飼うかは人によって多種多様です。「アクアリウムを始めてみたい」と考える方は、まずは基本的な種類を知り、どんな水槽をつくりたいかをイメージするところから始めましょう。
水質
大きく分けて熱帯魚は淡水に棲むものと、海水に棲むものに分けられます。一般の方がイメージするクマノミやサンゴは海に棲むものですね。淡水に棲む熱帯魚の場合、市販の薬品を使って塩素を抜いた水道水で飼育することができます。一方、海水の場合は人工海水の素を使って、生体に適した海水をつくる必要があります。また、淡水と比べて温度管理もシビアな面があり、ビギナーの方にはややハードルが高いかもしれません。今回は、淡水の場合の飼育方法についてご紹介します。
淡水水槽(テトラ)
海水水槽(カクレクマノミ・イソギンチャク)
飼育・栽培対象
淡水に棲んでいて世界各国から輸入される魚をまとめて熱帯魚と呼びます。熱帯魚はその名の通り熱帯産のものが多く、低温に弱いため、秋~春にかけては水槽用のヒーターを使って水温25℃程度に保つ必要があります。また、もともと温帯に棲んでいた魚、例えば金魚やメダカなども観賞魚として流通しますが、それらには冬場の保温は必須ではありません。その他、現在は水草栽培が一つのジャンルとして定着し、一枚の絵画のように技巧的なレイアウトを追求する人も増えています。
金魚(琉金)
凝った水草レイアウト
魚・水槽のサイズ
グッピーのような小型からアロワナのような大型まで、魚の大きさはさまざまです。水槽は家庭に設置しやすい小型が主流ですが、注文すれば幅2m程の大きな水槽もつくることができます。さらに、水槽ではなく小さなグラスやボトルでアクアリウムを楽しむ方法もあります。砂と水草、小さい魚やエビを入れるだけで手軽に始められるため、初めての方や子どもたちにも人気です。
大型水槽
グラスを使ったアクアリウム
大切なのは、好きな魚から始めること
実際に魚や水槽を選ぶ際は、まず熱帯魚やアクアリウム用品を販売しているショップに行くことをお勧めします。魚のサイズ感や動きは写真では分かりづらいため、実際に自分の目で確かめた方が良いでしょう。値段が手頃でセッティングの手間もかからない初心者用の水槽セットなどもあるため、店員さんに相談してみてください。
「どんな魚から始めればいいか」はよく聞かれる質問ですが、最近は流通・販売の過程で適切に管理されているため個体の状態が良く、比較的どの魚も飼育しやすくなっています。お勧めは、好きな魚から始めること。いくら「これが飼いやすい」と言われても、気に入った魚でなければ前向きに続けていくことは難しいものです。
品種改良された美しいめだか
あえて一つ挙げるならば、熱帯魚ではありませんが、最近のトレンドでもあるメダカでしょうか。近年は品種改良された美しいメダカがたくさん登場し、一大ブームになっています。普通のメダカであれば入手も飼育もしやすいため、初心者の方には最適だと思います。
品種改良された美しいめだか
メンテナンスの目安は“週1回”
どれくらいの頻度で手入れをすればいいのか、メンテナンスの手間が気になる方は多いと思います。確かに水槽環境が安定するまでの最初の1か月は、こまめにケアをする必要があります。しかしそれ以降は、バクテリアが増えて水槽内の浄化システムが整い、汚れにくくなるため、週1回水替えや苔の掃除をすれば十分です。月に1回全ての水を替えるより、週1回、3分の1から4分の1ずつ替える方が、手間がかからない上に魚にも負担を与えにくいのです。
さらに、旅行などで家を空ける場合もあると思いますが、どれくらいの期間世話をしなくても問題ないかは、季節や魚の種類、水槽内の密度によって異なります。熱帯魚の場合、水槽内の密度が高くなければ2・3日はえさを与えなくても平気なことがほとんどですが、普段からよく観察して、どのような生き物で、どれくらい餌を与えなくても大丈夫か?などを確認しておくと良いでしょう。
住まいに水槽を設置する際の注意点として、大型の水槽であればかなりの重さになるため、床の補強が必要になる場合があります。また、基本的なことではありますが、安全の面からも、水槽は平らな床や棚の上に置くようにしてください。水が蒸発して室内に湿気がこもるのを防ぐため、水槽のフタは普段から閉めておいた方が良いでしょう。
CHECK
中・上級者は、魚の産地や個性を知った上で水槽づくりを
飼育に一通り慣れてきた方は、魚が本来どんな自然環境で生息しているか、どんな特徴・性格を持っているかを調べて水槽づくりに反映するのも一つの楽しみ方です。熱帯魚の場合、原産地は南米、熱帯アジア、アフリカの3つに大別され、それぞれ水質や魚の個性は異なります。上級者になると、魚の産地ごとに水槽をつくる方や、実際に現地を訪れる方もいるほどです。知識が増えると、それだけ楽しみ方や興味の幅も広がっていくでしょう。
まとめ
手軽に始められて、実は奥が深いアクアリウムの世界。きれいな水槽に癒やされるだけでなく、飼育技術を高めてステップアップする面白さもあり、一生を通して楽しめる趣味の一つです。水と魚で彩る美しい自分だけの世界を、住まいに取り入れてみてはいかがでしょうか。「アクアリウムのある暮らし」第2回では、アクアリウムを効果的に用いたインテリアや空間づくりのコツをご紹介します。
写真提供:「月刊アクアライフ」編集部
アドバイス
「月刊アクアライフ」編集長 山口正吾さん
1996年「月刊アクアライフ」編集部配属、2000年より編集長を務める。他に「シュリンプクラブ」「アロワナライブ」「ギガス」などの情報誌も担当。雑誌をつくる上では「どんな魚にも良いところがある」ことを忘れないように心掛けている。
アクアリウムのある暮らし