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エンパワーメントとは? 企業に学ぶ一人ひとりが輝く社会のつくり方

2019.07.25

政府が「一億総活躍社会」を掲げた働き方改革を推進するなど、社会を構成する一人ひとりの力が重視される今日。これまで十分な選択肢を与えられてこなかった人々の活躍の場を広げる「エンパワーメント」に注目が集まっています。

「エンパワーメントとは、人が持っている能力を100%発揮できるようにすること」と話すのは、株式会社Waris共同代表の田中美和さんです。Warisでは、多様な生き方・働き方を望む女性たちに、フリーランスとして活躍する機会を提供する「Warisプロフェッショナル」などのサービスを運営しています。

一方、大和ハウスグループのマンション管理会社・大和ライフネクスト株式会社では、女性が社長を務めるほか、支店長クラスの役職でも女性が活躍。2011年2月には障がい者雇用特例子会社 大和ライフプラス株式会社を設立し、55名の障がい者を雇用しています。

エンパワーメントの現場で働く3人に、エンパワーメントの今と未来についてお話を伺い、実践のヒントを探りました。

エンパワーメントとは、人が持っている能力を100%発揮できるようにすること

お話を伺った方

田中美和 さん

株式会社Waris代表取締役/共同創業者
米国CCE,Inc.認定GCDF-Japan キャリアカウンセラー。国家資格キャリアコンサルタント。日経ホーム出版社(現日経BP社)で編集記者として「日経ウーマン」を担当。女性が自分らしく前向きに働き続けるためのサポートを行うべく退職し、フリーランスのライター・キャリアカウンセラーとしての活動を経て、2013年に株式会社Warisを設立。取材・調査を通じて接してきた働く女性はのべ3万人以上にのぼる。
「Waris公式サイト」

エンパワーメントが注目される背景には、何らかの阻害要因によって力を眠らせている人々の存在があります。阻害要因を取り除くことは、サステナブルな社会づくりにとってとても重要。その証拠に、SDGsの関連項目は3つにわたっています。

  • ゴール5. ジェンダー平等を実現しよう
  • ゴール8. 働きがいも経済成長も
  • ゴール10. 人や国の不平等をなくそう
5 ジェンダー平等を実現しよう 8 働きがいも経済成長も 10 人や国の不平等をなくそう

「ジェンダー平等のテーマでいえば、『性別役割分担意識』や『長時間労働と働く場所の固定』『産休・育休からの復帰後のキャリアダウン』などが阻害要因に該当すると考えています」(田中さん)

ジェンダーギャップ指数149か国中110位 (2018、世界経済フォーラム調べ、経済、教育、政治、保健の4分野のデータから作成) 女性管理職比率14.3% (2018、厚労省発表資料より) 第1子出産前後の女性の継続就業率 53.1% (2018、内閣府資料より) 提供:株式会社Waris

田中さんはこれらの指標から、日本は女性が生き生きと働き続けることが困難な社会環境にあることがわかると考えています

「上記の指標で示す複合的な要因によって、女性が日本企業の中で中核人材になりにくく、女性管理職比率は14.3%。平均年収も男性と比べて低いという現状があります。また、第一子出産前後の女性の継続就業率は53.1%にとどまっています。半数近くの女性が出産を機に離職し、子育てが落ち着いたときには離職期間が長くなり年齢も重ねている。そうなると復職の機会が少なく、離職前にキャリアを積んだ女性でも力を発揮できずにいます。」

田中さんは、こうした女性たちの現状を見定め、話を聞き、機会を提供して背中を押すことがエンパワーメントだと考えています。エンパワーメントを実現するべく2つのサービスが立ち上がりました。「Warisプロフェッショナル」は、長時間労働や働く場所の固定によりフルタイムで働き続けることが難しい女性と、フルタイム雇用が必要なほどではないがプロフェッショナル人材を求めている企業をつなげるマッチングプラットフォーム。「Warisワークアゲイン」は、ブランクのある女性に復職のための研修などを提供した上で、インターンとして”おためし就業”できるしくみです。

受け入れ体制を構築した結果、8,000人がフリーランスとしての就業を求めて登録。登録者数は毎月150人ずつ増えており、実務経験10年以上、30代〜40代前半のリーダー職以上の実務経験を持つ女性が中心です。求人企業も1,700社にのぼります。また、「Warisワークアゲイン」では、10年前後の離職期間を経た女性が4,000人登録し、インターンをしたうちの90%以上が正社員等で採用されました。

「離職経験有、現在無職で就職希望のある25歳〜44歳の大卒・院卒の主婦の方は45万人いて、2018年4月入社の新卒人材42万人を上回ります。これだけの力が100%発揮される余地を残しているのですから、エンパワーメントは大変やりがいのある仕事です。」(田中さん)

女性支店長のエンパワーメントが人材育成・営業成果に結実

男性4名、女性5名のチームのリーダーを務める坪根和枝は、大和ライフネクスト株式会社の奈良支店長です。不動産関連サービスを提供する業界は男性社会のイメージが強い中、中途入社し、総合職ではない職種から50代での支店長昇格という、いわゆる王道ではない道を歩いてきました。

お話を伺った方

坪根和枝

大和ライフネクスト株式会社
西日本マンション事業部 中部・近畿支社 奈良支店 支店長
2002年、アメニティコーディネーター(マンションプランナー)として入社。その後グループリーダーを経て現職。マンション管理士・管理業務主任者。宅地建物取引士。

「今年で勤続17年です。働き始めたときは、一番下の子どもがまだ2歳で、子育て真っ最中。フレックス制度が使え、ノートパソコンが与えられたので、自宅でも仕事ができる環境に助けられました。女性だから、総合職ではないから損をしたと思うことはありません。誰でも参加できる社内公募で、プロジェクトに参加するチャンスや、当社にいくつもあるメンバーを褒める表彰や仕組みで自信をつけさせてもらいましたし、自由にのびのび働かせてもらってここまできました。」

坪根がエンパワーメントされた経験は、部下へ受け継がれ好影響を与えています。

「それぞれが、自分で考えて自分で動く主体性を持つことで能力を発揮できると思うので、画一的な指示をするのではなく『どうしたい?』『どう思う?』と聞きます。また、うちの職場はバックグラウンドがみんなバラバラ。だからこそ、それぞれがそれぞれの人生で培ってきた知識や経験、持っている情報を共有しやすい雰囲気づくりに気を配っています。赴任したときにはデスクの島が男女でわかれていたので、最近席替えして混ぜてみました。すると会話が生まれ、キャリアの長い男性の経験談がみんなに役立つことも。メンバーには共感力の高い人、決断力のある人、伝えるのが上手な人など、得意分野がバラバラ。そのような(性差を越えた)個性の違いをコミュニケーションによってお互いの学びに変えていっています。」

男性マネジャーとともに、チームを率いる坪根。メンバー構成は、40-50代の女性4人、30代、40代、50代の各世代に1人ずつ男性が、7月には20代の女性も入社し多様

マンション管理の仕事は1人の担当者が10棟ほどを担当。一人ひとりが裁量を持って働ける反面、メンバー間での知見の共有がされにくく、何かあったときに孤立してしまうリスクもあります。

「裁量を与えながらも見守り、何かあったときに孤立しないよう、週に1度のメール報告をルールにしています。それ以外にも、こまめに声をかけるようにしています。」

メンバー一人ひとりを見る坪根が赴任してから、3人が合格率20%程の国家資格「管理業務主任者」を取得。また、ある商品の販売実績で支店として関西トップになり表彰もされました。まさにSDGsのゴール8「働きがいも経済成長も」を達成した姿を体現しています。達成感の共有と、成功体験の積み重ねで生まれる次の一歩が、エンパワーメントに繋がっていきます。

エンパワーメントは自信・強みを獲得し、パフォーマンスを発揮する土台づくり

大和ライフネクスト株式会社に障がい者雇用枠で入社し、5年目に障がい者雇用特例子会社 大和ライフプラス株式会社に転職。そこから2年で課長に昇進した福中海人は、障がい者のエンパワーメントについて次のように話します。

お話を伺った方

福中海人

大和ライフプラス株式会社
ビジネスソリューション部
データサービス課課長
2009年、大和ライフネクスト株式会社に障がい者雇用枠で入社し工事部門に配属。2012年、自らの希望により特例子会社 大和ライフプラス株式会社に転籍し、2014年より現職。障がい者職業生活相談員。二級建築士。文書情報管理士2級。
大和ライフプラスは2018/9/12『障害者雇用エクセレントカンパニー賞』を受賞しました。

「僕は12歳から車椅子ユーザーです。障がい者として、『障害=選択肢が少ないこと』だと感じ、社会に対する不満を抱えながら生活をしてきました。私は性格上それらをポジティブに捉えなおすことはできますが、依然として社会全体にも職場にも選択肢が少ないことによる問題はあり、阻害要因となっています。それを取り除くための土台や環境づくりが必要。それが、エンパワーメントだと思います。」

障害上(聴覚、視覚など)、情報を得る機会が少なかったり、障がい者を受け入れる教育機関が少ないためコミュニティが狭くなりがちで、いざ社会に出て働いた際に、コミュニケーション上の問題などで挫折したり、自信をなくすことも多いといいます。

福中は、働く現場の中で「障がい者だからといって、自分をおさえなくていい。自分を表現していい」という意識を獲得してきました

大和ライフプラスで働く方々が持つ障がいは、視覚、聴覚、知的、精神とさまざま。そこで、一つの業務を工程ごとに切り分けて、障がいの特性を生かして分担しています。そうすることで、「自分はここまでできる」「ここは苦手」と知り、自信をつけることによりパフォーマンスを発揮してもらうことが、福中が考える土台・環境づくりです。

タイピングが速い、集中力が高い、几帳面である、といった特性に合わせて役割分担を調整しています

「そのような土台・環境づくりの必要性に対する職場の人の理解度によって、成長度合いは明確に違います。ですので、まわりの人が障がいを持つ人の目線に立つことがエンパワーメントの始まりです。そのために、当たり前のことのようですが、一人ひとりに声をかけることを大事にしています。例えば、精神障がいを持つメンバーが、どうしても朝時間通りに来られず、出社後に罪悪感で気落ちしている期間がありました。僕はそんな彼に声をかけ続け、彼は1年半かけて、時間通りに出社できるようになりました。障がい者だから特別なことではなく、個人の課題に対して時間をかけて乗り越えていくことが大切。自分のものさしで測るとだめですね。」

視覚に障がいがあっても、サインの工夫で働きやすいオフィス。メンバー同士の対話から生まれた創意工夫です
【左】黄色いテープで強調し、歩きやすい床
【右】取っ手が強調され開閉しやすいキャビネット、判別しやすいラベリングが実装されています

福中の部下は現在14名。当初は福中が担当していた依頼主との調整や現場での指示などを、徐々にメンバーに権限移譲しながらチームとして成長してきました。

「受託している業務をチームで協力し、工夫しながら完遂することができるようになってきたので、次は自分たちで業務やプロジェクトを組み立てられるレベルに成長してほしい。そのために、外部から求められていることを見定め、自分が役立てる強みはどの部分かを考えて行動する力をつけてもらうことが今の目標です」と、福中の目はあくまでも未来を見つめています。

全員で協力し、工夫しながら、チームとして日々成長しています

「特例子会社に転籍するとき、世の中の特例子会社の職種を全部調べました。まだ数十種類ぐらいしかない。健常者の職種がどれだけあるかを考えたら、まだまだ少ない。僕がこうして話し伝えることによって、障がいへの理解とエンパワーメントの実践を進め、1つでも多くの選択肢を増やしたいと思っています。」


御三方のお話から浮き彫りになった、エンパワーメント実践のポイントをまとめました。

明日からできるエンパワーメント

  • 人を安易にカテゴライズせず、先入観や固定概念で見ない
  • 個性の違いを、互いの学びにする
  • 孤立しないように声をかける
  • 権限を与え、主体性や能力を引き出す

エンパワーメントが広がっていった先にある世界では、より多くの人が能力を100%発揮して輝いているはずです。そこに近づくための鍵は、わたしたちが日々、人と関わるシーンにも、数多く隠されているのかもしれません。

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