学校の勉強には正解や模範解答がありますが、ひとたび学校の外に出ると、正解は用意されていません。就職活動においても社会人としても『正解のない問い』に立ち向かっていく力が必要です。
そんな『正解のない問い』と主体的に向き合う子どもをどう育てたらよいのでしょうか。
橋を架けてしまうより 泳ぎ方を教える大切さ
「例え話ですが、子どもが川の向こう岸に渡りたい、と言ったらどうしますか?」と、国内外の教育事情に詳しい宮地勘司さん。「そんなときに橋を架けてしまう親がなんと多いことか」と話します。橋は確かに安心・安全。「でも、まず泳ぎ方を教えて子どもが本来備えている力を引き出すことが、子どもとの関わり方だと思うんです。泳ぎ方を身につければ、川から湖や海へと主体的に行動できる範囲も広がります」。
教育と探求社 代表取締役社長
宮地勘司 さん
1963年長崎県生まれ。88年立教大学社会学部卒業。日本経済新聞社入社。2002年、自らの起案により教育開発室を創設し、新聞資源を活用した教材開発に取り組む。04年11月、教育と探求社を設立、代表取締役に就任。
泳ぎ方を教える際は「子どもの可能性を信じることが大切」。これは子どもが自転車に乗れるように見守るときでも必要です。
ただ泳ぎ方でも自転車の乗り方でも、親が教えられることは基本的な事柄まで。「ある程度以上のことは子どもが実践の場で自ら学び取って実行していく必要があります」。
例えば川を渡りきるには、プールと違って水温や水流の速さ、自分の体力などを判断し、最適な泳ぎ方を考えなければなりません。川の向こう岸という目標だけがあって、適切な泳ぎ方は子どもの能力や状況に応じて変わっていきます。自分のチカラでなんとかしなくてはならないのです。
子どもが自転車に乗れるようになるには親の並走と、転んでも安全なスペース(=失敗しても大丈夫な安心感)が欠かせません。バランスの取り方を覚え、乗る楽しさに気づくと、子どもは自らの力で走り出していきます。
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信じること
どの子どもにも限りない可能性があると信じること。親から信じてもらえることで「人を信じる」「人から信じられる」「自分を信じる」という子どもたちの気持ちが生まれていきます。
感じること
親が先走って子どもの気持ちをくみ取ろうとするあまり、子どもの本当の気持ちとズレが生じることがあります。「きっとこう感じているんだろう」という思い込みは禁物。
待つこと
他の子どもと比べてちょっと速度が遅くても、親が手を出しすぎずじっくり待つことが大切。タイミングが来ると、自分の意思で方向を決め、自分の力で走り出すようになるのです。
一緒にいること
一緒にいるだけで不思議と勇気がわいてきた、という体験はありませんか。寄り添って並走するうちに、子どもは親の励ましを感じて、自らの力で走っていきます。
森の幼稚園
1950年代半ばにデンマークで生まれた、自然の中で子どもたちをのびのびと遊ばせる保育活動。大半は園舎を持たず、幼児たちは森の中で思い思いに一日を過ごす。大人は見守るだけ。樹木や小川で遊び、小動物や昆虫と触れ合う。自然の中で互いに助け合いチームワークも育つ。
「昨日は途中であきらめた干し草の山に今日は登ることができた、というように、子どもたちは自分なりにリスクを背負いながら日々チャレンジを繰り返します。達成感や、自分と仲間とではそれぞれに得意不得意があって多様なことなどを、自然の中で実感しながら成長していきます」(宮地さん)。
「感動したのは『ここは民主主義を学ぶ場なんです』と園長先生がおっしゃった時。幼い頃から民主主義が血肉となっていくのですね。デンマークでは投票率が90 %を超える選挙が少なくないことにも納得です」(同)。