サーキュラーエコノミーとは?
「ごみを出さないことから広がった、徳島県上勝町のサステナブルな経済循環の輪」
上勝町(徳島県)
2019.08.29
徳島県上勝町には、家庭や事業所から出るごみがごみで終わらずに資源となって循環する仕組みがあります。ごみを13品目45種類に分別するルールや、不用品を次に使う人へ繋げるサービス、ごみの削減や地産地消を促すシステムなど、独自のアイデアは多岐にわたります。2003年に、2020年までにごみをゼロにする「ゼロ・ウェイスト宣言」を日本で初めて行った上勝町。今回は、リサイクル率81%を達成※したサーキュラーエコノミーの国内先進地である上勝町を訪ね、サステナブルな未来づくりのヒントを探りました。
※(2016年度一般廃棄物処理実態調査・環境省)
坂野晶 さん
特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミー理事長
関西学院大学で環境政策を学ぶ。在学中は世界的な学生組織「アイセック」で学生の海外インターンシップを支援。アイセック日本支部の副代表やモンゴル支部代表を務め、フィリピンの物流企業を経てゼロ・ウェイストアカデミーへ参画。2019年には世界経済フォーラムの年次総会「ダボス会議」で共同議長を務めた。
サーキュラーエコノミーとは、地域社会やビジネスに、資源が循環する経済的な仕組みを埋め込むこと
「サーキュラーエコノミーとは、モノや資源の価値を最大限活かす仕組みが新しいビジネスになる、サステナブルな経済の概念です。今の経済は、資源がモノに加工され、消費者が買い最後はごみとして廃棄されることで成立しています。しかし、資源は有限なので、こうした一方通行の経済はサステナブルではありません。そこで、企業がモノを売って終わりにせず、循環させることで資源を枯渇させない経済のあり方が求められ、その中で、サーキュラーエコノミーという概念が登場しました。」
そう話すのは、徳島県上勝町に本拠地を置くNPO法人 ゼロ・ウェイストアカデミー理事長の坂野晶さんです。上勝町では、家庭から出るごみを住民自ら公設の「日比ヶ谷ごみステーション」に運び込み、45種類に分別するスタイルを確立してきました。目的は、より細かく分別することで資源としての価値を高めること。ガラス瓶は色で分け、古紙の紙パッケージは平らなパックかカップか、アルミつきかアルミなしかでも分けています。
各品目のプレートには、売れる資源は緑、処理にお金がかかるごみは赤でkgあたりの売価あるいは処理コストが書かれている
もとは、人口の少ない中山間地で高機能な焼却施設整備が難しく、資源ごみも通常以上に交渉しなければリサイクル業者が取りに来てくれないというハンデを乗り越えるための苦肉の策でした。
「本来、リサイクル業者が手間をかける細かい分別まで自分たちでやることで、取りに来てもらえるようになりました。結果として、町の財政から出ていくごみの処理費用を減らすことに成功。こうした取り組みが注目をいただいたことで、最近では企業とのコラボレーションに発展しています。」
ごみステーションの一角には、洗剤類の詰め替えパウチ袋の専用コーナーがあります。これは、大手トイレタリーメーカーが、経済活動の結果として廃棄されるごみに責任を取ろうと資金を提供しているプロジェクトです。回収されたパウチ袋はブロック玩具に生まれ変わり、地元の小学校や保育園に届けられました。
「企業は、売り切りの状態をどう変えるかという問題意識を持ち始めています。それを変えるにはまず、回収する仕組みが必要です。では、消費者が使ったあとはどこに行くかというと、ほとんどは、自治体のごみ回収かスーパーの店頭回収でしょう。循環する仕組みをつくるため、すでにある回収インフラとうまく連携するモデルを企業と一体となり、模索しているところです。」
海外に目を向けると、容器の回収を前提に設計された新しいサービスも登場しています。坂野さんがサーキュラーエコノミーの代表例に挙げる販売プラットフォーム「Loop」は、商品をリユース式の容器に詰め、配送トートバッグで宅配。使い切ったら宅配業者が回収し、洗浄して再び商品を詰め、利用客のもとに届けられます。参加企業には、P&G、ユニリーバ、ペプシコ、コカ・コーラ、ネスレ、ダノン、ボディショップなど大手25社(2019年1月時点)が名を連ね、先行して導入が進むニューヨークとパリでは、ハーゲンダッツのアイスクリームやパンテーンのシャンプー・リンスなどがステンレス製の容器で配達されています。
Loopでは、各ブランドのロゴ入りリユース容器で商品が宅配される
「Loopが実現したのは、新しいものを生み出すのではなく、暮らしの中でモノや資源が自然に循環する新しい仕組みの構築。これもサーキュラーエコノミーのコンセプトです。」
上勝町のごみステーションに併設された「くるくるショップ」は、まさに “循環する仕組み”として機能しています。ここには、年間約10トンの古着や文房具、まだ使える電池などが持ち込まれ、そのうち8〜9割は持ち帰られています。
くるくるショップのごみ削減効果を計測するため、持ち込む品物を計量している
また、ゼロ・ウェイストアカデミーの事務所内にはリメイク・アップサイクル拠点「くるくる工房」があります。持ち込まれた鯉のぼりや着物の布地を1g1円で販売。20人ほどの手仕事により、衣服や雑貨に生まれ変わっています。
くるくる工房の手によって、傘や上着に生まれ変わった鯉のぼりの布地
サーキュラーエコノミーは、ごみを出さない上勝町が生んだアイデアの集合体
「出てしまったごみが資源として再利用されるための取り組みも重要ですが、理想は仕事や暮らしの中でそもそもごみが出ないこと。そのために、モノを長く、最大限使い尽くす仕組みとしてつくったのが『くるくる工房』と『くるくるショップ』です。最近ではこれに加えて、モノだけでなくゼロ・ウェイストに取り組む町民や事業所の価値とメリットを最大化する仕組みづくりにも取り組んでいます。」
その仕組みの一つがゼロ・ウェイスト認証制度です。従業員がゼロ・ウェイストの研修を受けていることや、自治体の制度に則り分別・リサイクルに取り組んでいること、活動に目標を設定して計画的に取り組むことに加え、以下の6種類の基準で審査しています。
ゼロ・ウェイスト認証制度 6つの基準
-
地域の食材を活用し、地産地消に努め、ごみの発生抑制に取り組んでいる
例)地元農家から直接仕入れを行うことで、容器包装を使わず仕入れている -
食材や資材の調達において、ごみの発生抑制に取り組んでいる
例)仕入れの際にマイコンテナやクーラーボックス等を持参し、仕入れ容器ごみを削減している -
おしぼり等の無料サービスにおいて、ごみの発生抑制に取り組んでいる
例)おしぼりはリユース、シュガースティックではなく角砂糖をポットで出すなど使い捨て製品を使わない -
利用者がごみの削減あるいは分別に取り組める工夫をしている
例)顧客へゼロ・ウェイストに取り組んでいることを情報発信し、参加できる仕掛けを設けている -
利用者が食器や容器ごみなどの代用品を持ち込むことで、ごみの発生抑制に繋がる仕組みを導入・周知している
例)マイボトルを持参すれば割引があり、コーヒーを使い捨て容器無しでテイクアウトできる -
再利用を通じ、地域内のごみの発生抑制・資源循環に取り組んでいる
例)古民家や建具など、置いておくと廃材としてごみになってしまう地域資源を活用し、店舗に活かしている
ゼロ・ウェイストアカデミーでは、認証を取得したカフェやレストランのマップを年間2000人以上が訪れる視察者などに配布。認証店への集客に貢献し、価値を見える化して高めています。
上勝町のゼロ・ウェイスト アイデア概要図
ゼロ・ウェイスト アイデアを、上勝町とゼロ・ウェストアカデミーが一体となり循環させている
また、もう一つは、「ちりつもポイントカード」があります。分別によって資源としての価値がより一層高められ、利益が生まれます。その利益は、分別に協力した町民に「ちりつもポイント」として配分され、ポイントが貯まったら賞品と交換できる仕組みとなっています。
同じ紙パックでもアルミがついているかどうかでも資源としての価値が変わる
2018年秋からは、町内の指定店舗でレジ袋を断ったり、容器を持参した場合もポイントが貯められるようになりました。また、使い道においても、調味料や卵などを量り売りで買う際にポイントが利用できるなど、着々と進化しています。
ちりつもポイントは、約40種類の商品と交換できる。商品リストには、ビニール製ラップを代替する蜜蝋ラップやZIPPOなど、ゼロ・ウェイストライフを助ける厳選アイテムがずらり
「ちりつもポイントカードの発行枚数は500枚を超えています。上勝町の世帯数が約770ですから普及率は65%で、通貨のように機能する水準です。これが使える場所をゼロ・ウェイストに取り組む事業所や日々の生活で役立つモノに限定することで、ごみを出さない仕事や暮らし方の価値がメリットとなってくるくるまわるよう促す試みです。」
サーキュラーエコノミーの展開は、世界各国の若者が注目。
ゼロ・ウェイスト認証店マップに掲載されている事業所の中で最高となる5項目で認証を受けている事業所が、Cafe polestarです。
東輝実 さん
Cafe polestar オーナー
上勝町出身。町役場の職員としてゼロ・ウェイスト政策を牽引してきた母の背中を見て育つ。大学で環境問題を研究し、帰郷した2013年にCafe polestarをオープン。
Cafe polestarでは、紙のおしぼりや個包装のお砂糖・ミルクなど一度限りで使い捨てのものは出しません。味噌・米・野菜などの材料の80%は地元で調達しています。野菜は、農家と直接コミュニケーションをとって購入するので、個包装なしでかたちのよくない野菜の仕入れも可能。これにより、規格外野菜やビニール袋の廃棄の削減に貢献しています。味噌や魚、肉の仕入れの際にも、タッパーやバット、ダンボールなど、何度でも使える容器を持参しています。創業2年目から紙ストローを導入し、使い終わったらコンポストで土に。トイレも紙ナプキンを置かずにハンカチの持参を推奨し、頼まれた時にタオルを渡しています。
トイレのドアに貼られたメッセージ
繰り返し使用する、小売り用の持ち帰り容器
ゼロ・ウェイストクレド
また、卵は1個から、ごま油、サラダ油、オリーブオイルやコーヒー、米などお店で扱っている食材は必要な分だけ買うことができます。こうした買い物に、上述したちりつもポイントを使えるようにすることで、ゼロ・ウェイストに貢献する町民と事業所の価値が、双方のメリットとなって循環するのです。
オーナーの東さんは、「自分たちが取り組むことだけでなく、発信すること、お客さまや取引先を巻き込むことに力を入れています」と話します。カフェのお客さまの台所ごみ削減に貢献する量り売りもその一つ。ほかにも「クレド」と呼ぶ宣言文をメニューに入れ、言葉でも伝えています。
「取り組みの一つひとつは小さいけれど、それぞれ大きな世界につながっています。ベストだと思うあり方をかたちにして目の前の人に伝えることで輪が広がり、世界をサステナブルに変える一端を担えると信じています。」
取り組みは世界的に注目を集め、今年だけでもチリや中国、オランダ、米国からゼロ・ウェイストを学ぶために人びとが上勝町を訪問。Cafe polestarでは独自にインターンの受け入れを始めました。現在は、カナダ、シンガポール、ドイツから来た若者が、東さんの自宅で共に暮らしながらサステナブルなあり方を学んでいます。
「インターン生だけでなく、視察も含めてゼロ・ウェイストの取り組みをきっかけに訪れてくださるお客さまも多く、宣伝効果という意味での経済的メリットは大いにあります。『量り売り』というごみを出さない仕組みと共に、サーキュラーエコノミーの広がりを感じています。今後は量り売りでの利益も増やしていきたいです。」
建物は高気密高断熱でエネルギー効率がよく、薪ストーブの薪も地産地消している。
価値を見出し、既存(中古)住宅を循環させる仕組み
大和ハウス工業は2018年、中古の戸建てやマンションを資源とする住宅ストック事業のブランド「Livness(リブネス)」を立ち上げました。リブネス事業推進部 部長の平井聡治は、ブランド設立の動機を次のように話します。
「ひとくちに住宅ストック事業といっても、仲介やリフォーム、一度弊社で買い取ってリノベーションしてから再販売するなど、さまざまな業態が該当します。グループ各社で個別に取り組んでいたこれらの窓口を「リブネス」というブランド名で一元化することで、現オーナーさまにも、既存住宅を買いたいお客さまにも相談していただきやすくすることが狙いです。」
構造がしっかりした既存物件に資産価値を見出す新しい考え方で、人口と世帯が減り空き家が増える時代に合ったビジネスモデルを今後、確立していく考えです。
「遠方にあるご実家が空き家になるなど、ストックの扱いに困っている方からのお問い合わせが多い一方で、『古い家は不安だし、前に別の人が住んでいたことが嫌』という日本人特有の意識が存在するのも確かです。この意識を払拭するには、魅力と信頼性ある既存住宅市場をつくるしかない。そのためには、構造・見た目ともに新築と遜色ないが新築よりも手が届きやすく、価値の高い中古住宅を1戸1戸、世に出していく必要があります。」
まずは、過去に大和ハウス工業が施工した既存物件から目下、買い取って物件の構造をチェックし、付加価値をつけて次の住まい手につなぐプロジェクトが数戸進んでいます。2019年10月からは順次全国の各支店に担当者が配置され加速する予定。買取査定や販売時の価格設定を現地の市場性を考慮して的確に行えるのも、全国ネットワークを持つ大和ハウス工業ならではです。
限りあるモノや資源を循環させ活かし続ける。それにより生まれる価値とメリットを循環させることで、循環の輪を大きく育てている上勝町は、世界に先駆けて、限りある資源を消費し続ける一方通行の経済からの卒業に向かっています。
そうした循環の輪があちこちに増え、また、わたしたち一人ひとりが参加することがサーキュラーエコノミーを推進し、サステナブルな未来をつくるのでしょう。