国土緑化政策の象徴 近未来型の巨大植物園
シンガポール政府が力を入れている国土緑化政策の象徴ともいえる「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」が2012年にオープンしました。高さ20~50mの人工樹「スーパーツリー」と、巨大ドーム型植物園「フラワードーム」と「クラウドフォレスト」がある近未来型の巨大植物園で、人気を呼んでいます。一番目を引くスーパーツリーは全部で18本あり、そのうちの2本は空中回廊でつながっていて地上22mの高さを散策できます。
スーパーツリーは訪れた人を楽しませるだけでなく、園内の維持に大きな役割を果たす多機能な人工樹です。上部の広がった形状部分から、雨水を受け止めてフラワードームやクラウドフォレスト、庭園に水を供給するのと同時に2つのドームの排気口となっています。このほかバイオマス発電で生じた燃焼ガスも排出しています。また太陽光発電パネルを内蔵し、自ら発電した電気を使って夜間のライトアップやショーも行っているのです。
園内の一部を除いて無料開放となっているので多くの市民や観光客が思い思いにくつろぐ姿が見られます。
クラウドフォレストでは標高2000mの高地で育つ植物の生態系を見られます。
写真提供:シンガポール政府観光局
右から「スーパーツリー」「フラワードーム」「クラウドフォレスト」
写真提供:シンガポール政府観光局
ドーム内の空調には、ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ内に設置されたバイオマス発電所が大きな役割を果たしています。緑化政策で緑豊かになったシンガポールでは、毎年、約50万トンの間伐材や農業廃棄物が排出されています。これらがバイオマス発電所に集められ、発電に利用されます。
発電した電気はドーム内の空調設備や照明などに使われます。また発電時に発生する温水は、熱交換器に送られます。熱帯の空気を冷却・除湿してドーム内に冷気として送り込むのに使われるのです。さらに発電した際に排出される燃えかすも刈り草と合わせて肥料として再利用しています。
ガーデンズ・バイ・ザ・ベイの循環の仕組み(簡略図)
刈り草とバイオマス発電で排出した燃えかすを合わせた肥料をストックしています。
写真提供:Yotsuya Photo
バイオマス発電施設の内部。ガーデンズ・バイ・ザ・ベイの循環の仕組みの中で大きな役割を果たしています。
写真提供:Yotsuya Photo
このような合理的な循環システムによって豊かな緑が維持されるとともにCO2排出量の削減に効果を上げています。一般家庭の約4500軒分にあたる約1万3000トンのCO2削減につながっているそうです(※1)。
※1 シンガポール国家環境庁調べ
シンガポールが緑化政策に力を入れた理由
シンガポールは1963年から当時の首相、リー・クアンユー氏が植樹キャンペーンを行うなど、国土の緑化に力を入れてきました。それは熱帯の高温・多湿な気候を少しでもやわらげて暮らしやすくするためです。同時に、狭い国土への海外投資の誘致と観光産業の育成に役立ち、国際的な競争力を高めると考えたからです。
国土の緑化にあたっては公園や街路樹を増やすだけではなく、ビルの緑化も積極的に行っているところが都市国家らしい点です。
例えばビルの屋上・壁面の緑化費用はその50%を政府が助成金で賄います。ビルの緑化はヒートアイランド現象の緩和にも役立ちます。ビル緑化面積は2013年に61ヘクタール。これを2030年に200ヘクタールに拡大することが目標です。
また、緑化だけでなくCO2排出抑制など、さらに環境に配慮した設計のグリーンビルディングも増えています。シンガポールでは2005年から認証制度「グリーンマーク」をスタート。この認証を受けたビルは、初年度の17棟から徐々に増え、2015年には2500棟に増加しました(※2)。2030年までにオフィスビルの80%をグリーンビルディング化するのが政府の目標です(※3)。
- ※2 出典:The third Green Building Masterplan
- ※3 出典:Towards a Future-Ready Built Environment
ホテルとオフィスの複合施設「パークロイヤル・オン・ピッカリング」。省エネ性能が高く、認証制度「グリーンマーク」の最上級のプラチナ賞を受賞しています。
写真提供:シンガポール政府観光局
水資源の少ないシンガポールでは貯水池が大切にされています。そのほとりにある公園には水辺を散策できる遊歩道が整備されています。
写真提供:Darren Soh
このように環境と共生した豊かな暮らしを次の世代へと受け継ぐために、計画的に緑を増やしてきたシンガポール。私たちの今後の街づくりにもお手本になりそうです。
2016年3月発行 冊子「SUSTAINABLE JOURNEY」vol.4(ecomom春号同封)より転載