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連載:私をつくる、モノやコトのはなし。成功ではなく「幸せに働く」を極める時代になる。これから必要な"感性"の力

連載:私をつくる、モノやコトのはなし。

成功ではなく「幸せに働く」を極める時代になる。これから必要な"感性"の力

2024.09.30

    前野さんのロングインタビューはこちら

    「働きやすさ」の先に「働きがい」をどうつくるか。前野隆司さんが考える、ウェルビーイング経営とは

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    「幸福学(well-being study)」研究の第一人者であり、ウェルビーイングな生き方や働き方の重要性を提唱してきた前野隆司さん。一人ひとりの幸福を大切にすることが、企業にも社会にも幸福をもたらし、社会全体がより良い方向へ向かっていくことを伝え続けています。

    2024年4月には、世界初となる「ウェルビーイング学科」を武蔵野大学に創設し、学部長に就任。「資本主義のあり方が限界を迎えている今、ウェルビーイングの専門家を養成し、抜本的な社会変革につなげていきたい」と考えています。

    前野さん自身のウェルビーイングにもつながる、人生を豊かにするモノとは?

    心がウェルビーイングじゃないと、書は書けない

    3年前に、書道家の嶋田彩綜先生と出会って書道を習い始めました。先生は、世界平和のために書を書いているとおっしゃるんですね。「心和平」という字を、世界の平和を祈って毎日書いている。「一」という字を書くだけでもものすごく深みがあってすばらしいのに、87歳になっても「まだ半分ぐらい"道"が残っている」と言うんです。思わず「弟子にしてください」とお願いしました。最近は、暇さえあれば筆を動かしていますね。

    書道のどんなところに魅力を感じているんですか。

    書道ってすごくマインドフルネスで、字を書くことだけに心を集中するんです。体の使い方は、合気道や空手と一緒で、丹田に力を込めたら手が自然と動く。だから心がウェルビーイングじゃないと書は書けないし、自分の状態がそのまま出る。その人がどんな精神状態か、達人が見ればすぐにわかってしまうんです。

    そして、美しいものを通して世界の平和を願い、書を見た人を感動させる。書道とは、そういう行いなんですね。それぐらいアート、つまり感性の力には奥深さがある。ここを追求することに、これからの時代は注力することになるだろうと思っています。

    前野さんが書いた書(ご本人提供)

    感性の力がより重要になってくる?

    というかアート以外では、人間はAIに勝てないでしょう。この先、知識や難しい問題を解く力はAIに負ける。そうしたら、偏差値の時代は終わって感性の時代になるしかありません。仕事も、成果を出すよりも幸せに働くことを極める方向になっていって、みんなが人間性を競うようになっていくのではないかと思います。

    世界から美しいものを切り取って形にする

    僕は写真を撮るのが趣味なんですけど、世界から美しいものを切り取って、それを形にするのが好きなんですね。僕の中で、書とカメラとウェルビーイングの研究は、どれも同じです。世界には美しいものがたくさんある。人間の美しい生き方を研究するのがウェルビーイング研究だし、人間や植物といった美しいものを切り取るのが写真、それを字という形で表現するのが書道です。

    どれも美しいものにフォーカスしているんですね。

    僕がウェルビーイングの研究をやっているのは、みんなの心が美しい社会をつくりたいから。世界は本来美しいものだと思っているからこそ、この世界をいかに美しくしていくかを追求しているのかもしれません。

    仕事以上に、人間に必要な活動とは

    アートは、1000人1000通りなんですよ。プロとアマチュアはいるし、順位がつく場合もあるけれども、すべてが個性であり、何よりも自分らしくいられるものです。だからアートは、幸せのために非常に重要です。感性を生かすのがアート、理性を生かすのがロゴス、そしてエトスという美学がある。ここを現代人は忘れすぎているんですね。本来アートは、仕事以上に人間が生きるための活動だと思うんです。

    アートは無駄なものとされがちな現代ですが、そうではないと。

    いろいろな分野の達人の取材をしてきましたが、達人とウェルビーイング経営をしている社長は雰囲気が一緒で、同じような精神性を持っています。書道の先生は書を通して美しい世界を残そうとしているし、社員の幸せを目指し会社を運営する伊那食品工業の塚越社長は美しい会社をつくるアーティストに見えます。「より良い世界をつくるのが目的です」と、当然のようにおっしゃるんです。

    社員の幸福度が上がれば、確かに会社の業績は上がります。ですが、「ウェルビーイング経営は儲かるらしい。前野さんに任せるから、ウェルビーイング経営をやってくれ」ではダメなんですね。その人が本気でやらないといけない。心を込めて「みんなに幸せになってほしい」「幸せって大事だな」と思わないと、うまくいきません。これが「感性」の力なんです。

    人のことを思うのも環境のことを思うのも、すべてはマインドから。SDGsバッジをただつけている人と、森が破壊されるのは悲しいことだと心から思ってる人とでは、相手の対応も変わるし、本気でやっているかどうかは、消費者にも必ず伝わります。

    だからこそ感性が大切なんですね。

    僕は働く幸せについて語ることが多いですが、それは研究のほんの一部です。僕の興味は美や平和、もっと大きく、人類はどう生きるべきか、そのために会社はどうあるべきかというところにあります。「今は人類が幸せになるための転換期である」ということをみんなが意識し、身震いしながらも頑張る人が増えてほしいというのが、僕のいちばんの願いかもしれません。

    PROFILE

    前野 隆司

    前野 隆司Takashi Maeno

    1962年生まれ。1984年東京工業大学工学部機械工学科卒業。1986年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授などを経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。2024年4月より、新設された武蔵野大学ウェルビーイング学科学部長を兼務。著書に『ディストピア禍の新・幸福論』『ウェルビーイング』『幸せな職場の経営学』『幸せのメカニズム』『脳はなぜ「心」を作ったのか』などがある。

    未来の景色を、ともに

    大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

    「対話」が育む他者とのつながりは、ウェルビーイングの大切な要素と考え、大和ハウス工業で働く社員の対話をシリーズでお届けしています。

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