大和ハウス工業株式会社

DaiwaHouse

脱プラスチック、プラスチックフリーはなぜ必要?本当の理由を高田秀重教授に聞きました ~生物への影響、気候変動との関係、リサイクルの実態 解説編~

脱プラスチック、プラスチックフリーはなぜ必要?本当の理由を高田秀重教授に聞きました〜解説編〜

    日本で2020年7月1日より始まったレジ袋の有料化は、私たち消費者の行動を変化させ、プラスチックごみに対する課題意識をぐっと身近なものへと引き寄せました。その一方で、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、フェイスシールドや手袋、テイクアウト用食品容器、オンラインショッピング商品の配送用緩衝材など、新たな場面で排出されるごみが急増し、悩ましい事態となっています。

    しかしながら、プラスチックごみは地球規模の課題です。世界中から海へ流出するプラスチックごみは、年間約800万トン(東京スカイツリー243個分の重さ ※1)と推定され、このまま進行すれば2050年には、海中に生息する魚の重量をプラスチックごみの重量が上回ると試算されています。

    ※1 中嶋亮太 海洋プラスチック汚染(2019年・岩波書店)より

    このような危機的状況に、私たち一人一人はどう向き合えば良いのでしょうか。マイクロプラスチック汚染を専門に研究する高田秀重さんにお話を伺いました。

    高田秀重 さん

    お話を伺った方

    高田秀重 さん

    東京農工大学農学部 環境資源科学科 教授。
    環境汚染の解析が専門。廃棄されたプラスチックの海洋汚染や環境ホルモン、ごみ処理のあり方に警鐘を鳴らしてきた。著書に『プラスチックの現実と未来へのアイデア(東京書籍)』、『プラスチックモンスターをやっつけよう! (クレヨンハウス)』がある。

    マイクロプラスチック化したレジ袋は有害な化学物質の運び屋

    国で導入されたレジ袋の有料化の理由について、様々なプラスチック製品の中で、なぜレジ袋の削減へと舵を切ったのでしょうか?

    まず生活に必須ではない、なくなっても困らないものであるということ。そして個々人の努力によって確実に使用を減らすことができるプラスチック製品であることから、行政が手をつけやすかったという背景があります。

    そして何よりも、海の生物へ与える影響が大きいことが最大の理由です。2019年、地中海ギリシャの海岸に打ち上げられたクジラ34頭のうち、9頭の胃の中からプラスチックが発見され、中でも多かったのがレジ袋でした。そのうちの3頭はレジ袋に腸を塞がれたことが死因であると報告されています。レジ袋の形状は臓器に引っ掛かりやすいのです。

    さらに、ポリエチレンというポリマー(重合体)から作られているために、海中の有害な化学物質をくっつける力が強い。また、薄くて軽いので遠くまで運ばれやすい上に、紫外線と波の力で細片化されやすく、容易にマイクロプラスチック(※2)になります。海に流れ込むレジ袋は、有害な化学物質が付着したマイクロプラスチックが増え続ける主因と言えます。

    こちらもチェック

    プラスチックフリー生活は毎日できる、誰もができる。〜プラスチックフリー実践編〜

    プラスチックフリー生活は毎日できる、誰もができる。〜プラスチックフリー実践編〜

    詳細を見る

    ※2 マイクロプラスチック:5mm以下のサイズのプラスチック

    日本列島から1000km離れた太平洋上で気象庁が採取したマイクロプラスチック(提供:高田秀重)

    東京湾で捕ったカタクチイワシ64匹の消化管を調べた結果、49匹から計150個のマイクロプラスチックを検出し、大きさは1ミリ前後のものでした。カタクチイワシの体長は10cm前後、体長の1/100サイズの有害な異物が体内に入るという事実が身近で起きているのです。オーストラリア周辺地域では、海鳥への影響も深刻です。プラスチックの被害に遭った海の生物の映像を見たことがありますか?プラスチックの破片で海鳥のお腹がぱんぱんに膨れており、人間に換算すると6kg〜8kgという驚くべき量です。それだけの量のプラスチックが体の中に入っていれば、何らかの有害化学物質が溶け出してくるのではないかと、心配になります。

    有害な化学物質が付着したマイクロプラスチックは、具体的にどのような影響を生物に及ぼすのでしょうか?

    そもそもプラスチックには耐久性や持続性を高めるために添加剤が多く使用されています。例えば、ヂエチルヘキシルフタレート(DHEP)という添加剤は、子どもの生殖機能... 続きを読む

    そもそもプラスチックには耐久性や持続性を高めるために添加剤が多く使用されています。例えば、ヂエチルヘキシルフタレート(DHEP)という添加剤は、子どもの生殖機能などへの影響があるため、おもちゃに使用することが禁止されています。しかし、適切に廃棄されず海へ流されると、マイクロプラスチックとなって魚や貝に取り込まれ、それを子どもが食べてしまう可能性があります。避けたはずの有害物質が、違う道筋を通って結局は子どもの体へ入り込むのです。

    現在、人体への影響は研究中ですが、マイクロプラスチックに含まれる化学物質が生物に与える影響が分かってきました。プラスチックの摂食量が多いことが知られているオーストラリアのアカアシミズナギドリという海鳥を調べると、血液中のカルシウム濃度やコレステロール濃度が正常値ではありません。カルシウム濃度が低下すると卵の殻が薄くなり、孵化率の低下を招くことが考えられます。こうした現象から、プラスチックが生物の生殖に悪影響を与えつつあると言えます。

    海鳥から摘出されたマイクロプラスチック(提供:高田秀重)

    こうしたこともあり、プラスチックごみは気候変動や生物多様性と並ぶ地球規模の環境課題と位置付けられています。2016年、国連本部で「海洋ごみ、プラスチック及びマイクロプラスチック」というテーマで議論が交わされ、2018年に開催されたG7(主要7カ国首脳会議)では、プラスチックごみによる海洋汚染問題への各国の対策を促す文書「海洋プラスチック憲章」が採択されました。人体に影響が出る前に予防的な対策が必要であると、グローバルに関心が高まっています。また、国内では2019年5月31日に「プラスチック資源循環戦略」が政府より発表されました。

    燃やされるプラスチックごみは、気候変動の原因になっている

    海洋生物や人体への影響を防ぐためには、プラスチックごみが海へ流れないようにする対策が重要になりますか?

    海洋汚染だけに注目すると「プラスチックが海に入らなければ良い」「使った分をリサイクルすれば良い」「きっちり陸上で集めて燃やせば良い」といった議論になります。しかしプラスチックごみの悪影響は、海洋汚染にとどまりません。

    なぜなら、プラスチックのほとんどは石油から作られているからです。日本ではプラスチックごみの半分以上が焼却処分されます。石油からできているものを燃やせば、CO2が発生しますから、気候変動が加速します。プラスチックごみは、処理段階において気候変動にも悪影響を及ぼしているのです。

    日本におけるプラスチック処理方法は、単純焼却は8.2%で、埋立7.7%、残り約85%はリサイクルされているというデータがあります。

    廃プラスチックの処理方法(一般社団法人プラスチック循環利用協会 『プラスチックの基礎知識2020』より2018年データで作成)

    サーマルリサイクルと称されるエネルギー回収は、本来リサイクルの概念に当てはまりません。焼却する際の排熱をエネルギーとして利用する方法ですが、燃やす時に排出するCO2はどこにも戻らないからです。

    焼却時のCO2発生により、気候変動へも影響を及ぼしていることを認識する必要があるということですね。

    プラスチックを別のプラスチックとして再使用するマテリアルリサイクルについて、その有効性はいかがでしょうか。リサイクルに貢献しようとペットボトルや食品トレーの回収へ取り組んでいる人も多いと思いますが。

    飲み物や食品に使われるプラスチックは、実は非常にリサイクルしづらいものです。プラスチックごみから新たなプラスチック製品を作る際、種類の異なる樹脂が混ざってはいけません。ペットボトルを捨てる時にはラベル、キャップ、ボトル本体を分けますよね。これは、ラベルはポリプロピレン、キャップはポリエチレン、ボトル本体はペットと、異なる樹脂から作られているためで、わざわざ分けて回収しなければならないのです。

    さらに、臭いや付着物のある部分はリサイクルできず取り除かれています。例えば、10本のペットボトルをリサイクルしても、新しいペットボトルは8本しかできません。2割を補うためには新しい原料や添加物を投入しなければならない。そこで、そもそもペットボトルを使う必要があるのか、一度考えてみてもいいのではないでしょうか。

    河川ごみとして最も多いのがペットボトル(提供:高田秀重)

    海外ではマイボトル利用が進んでいて、特にヨーロッパや米国、中国の街中には給水機が設置されています。米国・サンフランシスコ市は、2014年から市が所有する施設でのペットボトル飲料水の販売を禁止しました。

    首脳会談で机の上に置かれた飲み物を見てみてください。これまであったペットボトルがガラス瓶に入った飲み物に変わっています。みなさんの周りはいかがですか?

    輸出して処理されてきたプラスチックごみを減らすには?

    食品トレーについてはどうでしょうか?

    リサイクル用のごみ箱や回収ボックスに入れた食品トレーも、ペットボトルと同様にリサイクルに手間がかかります。多くの働き手が必要となりますが、日本国内ではそれほどの人員を確保できないため、人件費を抑えるためにプラスチックごみを東南アジアなどの海外へ輸出して処理してきました。年間約90万トン、日本で廃棄されるプラスチックの約10分の1です。

    2019年 日本の廃プラスチックごみ輸出先上位10カ国
    参考:JETRO 2019年の日本の廃プラ輸出量は約90万トン、100万トン割れは2004年以来(2020年)

    諸外国へ運ばれたプラスチックは現地ですぐに燃やされたり、水質汚染を引き起こしたりといずれにしても環境負荷がかかっていました。事態の深刻化を受けて2019年にバーゼル条約(※3)が改定され、2021年1月1日から相手国の同意なしに汚れたプラスチックごみは輸出できなくなりました。国内でなんとか処理するしかない状況です。

    ※3 バーゼル条約・・・一定の有害な廃棄物の国境を越える移動等の規制について国際的な枠組みおよび手続等を規定した条約

    プラスチック製品を使った以上はできる限りリサイクルするべきですが、本当にリサイクルと呼べる方法で処理されているのか、よく知り、考える姿勢が大切だと思います。

    プラスチックを燃焼するとCO2が発生し気候変動を加速する。リサイクルにまわしても適切に処理されないことがある。様々な場所に目を行き届かせることが必要なんですね。

    はい。さらにはごみを燃やす焼却炉の建設費と運営費は自治体が負担しています。プラスチックごみを処理する費用は、プラスチック商品を生産・販売する時の費用に組み込まれていません。

    このためコストが安いと錯覚してしまいますが、処分の費用、さらに環境負荷の低減や環境修復の費用までを考えるとプラスチックは決して安くはないと認識しなければいけないと思います。

    企業は商品を作る段階、生活者は選んで買って使う段階で、初めからプラスチックを避けることが非常に大事です。

    プラスチックごみ問題を地産地消で解消していく

    プラスチックは生活の隅々にまで浸透しています。どうしたら避けることができるのでしょうか?

    今のグローバル経済・社会を前提に解決しようとすると難しく感じてしまうかもしれません。しかし、社会・経済システムごと地域循環型に変えてみることで、何ができるのかが見えてくると思います。

    例えば、生鮮食料品を海外から輸入するためには、鮮度を保ち、長距離でも運ぶことができるパッケージが必要になります。そうなると紙やバイオマスの素材では不十分で、プラスチックのようなしっかりとした包装が採用されるでしょう。しかし、地元で生産された食品を地元で消費するなら、簡易な包装で済むのではないでしょうか。

    またペットボトルでいえば、ミネラルウォーターが国境を越えて輸送されていますが、遠くの山でとれた水を、水道水が飲める日本まで運ぶ必要はあるでしょうか。輸送に必要なエネルギーのことも考えてみると、今後の選択の参考になりますね。

    プラスチックごみを減らすためにも、CO2の排出を削減するためにも、地域で生産された物資が流通・循環するサステナブル社会・経済に設計し直す必要があります。

    そして、プラスチックごみは、海の生物多様性や気候変動にとどまらず、自分自身の健康にも関わる問題だと理解しておくこと。その視点を持っておくことで、何かを選択する時の尺度が得られるはずです。

    この記事の後編はこちら

    プラスチックフリー生活は毎日できる、誰もができる。〜プラスチックフリー実践編〜

    プラスチックフリー生活は毎日できる、誰もができる。〜プラスチックフリー実践編〜

    詳細を見る

    この記事をシェアする

    サステナビリティ(サイトマップ)