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連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞く、サステナブルの「目」 奥信濃の「旅トレイル」が育むもの。自然と人のサステナブルな関係づくり

連載:いろんな視点から世の中を知ろう。専門家に聞く、サステナブルの「目」

奥信濃の「旅トレイル」が育むもの。自然と人のサステナブルな関係づくり

2024.05.31

    本連載では、「サステナビリティ」の現場に向き合う当事者たちの声を、寄稿形式でお届けします。今回はトレイルランナーの山田琢也さんが初登場。自然共生、生態系の保全、新たな地域資源や観光の開発——。それらを叶える可能性を持つ、トレイルランニングについてご紹介いただきます。

    トレイルランニングは自然との対話の場

    皆さん、こんにちは。トレイルランナーの山田琢也です。

    私は長野県木島平村を拠点に、トレイルランニングやクロスカントリースキーを中心としたアウトドア活動と、長野県の魅力発信に力を注いでいます。国内外のレースに出場したり、仲間と山に出かけたり、四季を通じて山を楽しんでいます。

    2007年まで、株式会社クラレの支援を受けてドイツでスキー選手をしていました。オフトレーニングの一環として山を走るうちに、その魅力に取りつかれ、選手を引退後、本格的にトレイルランニングを始めました。

    山や森、川辺を走ることで、四季折々の美しさや変化を肌で感じるこのスポーツは、最初は体を鍛えるためのトレーニングであり、自己表現の場でしたが、長い時間を山で過ごすうちに、自然との対話の場でもあると感じるようになりました。トレイルランニングは、体力と技術の向上だけでなく、自然環境への深い理解と敬意を育むのかもしれません。

    100年先もおもしろいを目指して

    私たちは2021年に「奥信濃100」というプロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトの一つに、100kmという途方もない距離を走るトレイルランニングレースがあります。2024年6月7~9日に、第4回目を迎えます。

    プロジェクト名の「100」には2つの意味があります。一つは距離としての数字、もう一つは、 100年先まで奥信濃の美しい自然環境やコミュニティが持続してほしいという願いです。大会は本気で100回大会を目指しています。このプロジェクトでは、奥信濃にある古道や旧道をつなぎ、ロングトレイルを整備し、この地の資源の一つとなることを目標としています。

    また、アニメ『機動戦士Ζガンダム』に登場する「百式」というモビルスーツが、100年先も活躍できるという設定で、実はこのネーミングの決め手になりました。ガンダムシリーズの中でもトラウマレベルの悲惨な最終回を迎えますが(笑)、私たちは大破することなくやり抜きます!

    奥信濃で「旅トレイル」が生まれた背景

    「奥信濃100」立ち上げのきっかけは、長引くコロナ禍。地元木島平村のシンボルでもあるスキー場やホテルが大打撃を受け、「この冬を最後に倒産するかもしれない」という状況に陥ったんです。

    地元の宿やスキー場などの観光産業をなんとかしたい。大会中止が相次いで走れずにいるトレイルランナーの仲間たちに活躍の場を提供したい。そしてレースをきっかけにロングトレイルを整備し、この地の資源の一つにしたいという思いからスタートしました。

    大会開催に向けて地元の人たちと準備を進める中で、私たちは今は使われていない古道に出会いました。この地域には西国街道やとりで街道など、生活物資の運搬や湯治のための古道があります。そして樹齢300年を超えるブナの原生林、木島平の美しい田園風景、果樹園に通じる小道があります。すべてをつなげたら、これは旅だ、奥信濃を巡る「旅トレイル」だと思ったのです。

    生態系の保全を目指した登山道整備

    2022年には100kmのロングトレイルがつながり、大会を開催することができました。しかし、 トレイルのメンテナンスは継続的に行う必要があり、多くのボランティアスタッフに協力をいただいています。

    ところで、登山道整備とは、人が歩きやすい道にすることだと思いますか?

    私たちも以前はそう思っていました。しかし、登山道をただ人が歩きやすい道として整備するだけでは、すぐに崩れてしまうことが分かりました。人の歩きやすさだけを追求した人工物は、自然の力で短期間で壊れてしまうだけでなく、登山道の荒廃を進行させることもあります。人が歩くことによる踏圧や、登山道を流れる水の力、誤った施工により登山道が崩れたり、ぬかるみ化が起きるため、自然の作用をよく観察し、それに合わせた施工を行わなければいけません。

    そこで私たちは、こうした課題に向き合っている団体から研修を受け、周辺生態系の復元を図り、壊れにくく景観にも調和した登山道整備を目指しています。

    私たちにできること

    登山道整備は一人で始められることではありませんが、登山道を保全するために皆さんがすぐに始められることがあります。

    • 1. 登山道から外れない(植生に入らない)
      泥ねいや障害物があったとき、皆さんはそれらを避けて登山道ではないところを歩いていませんか?すると登山道の複線化が起こり、植物が育たなくなる裸地化を招くため、できるだけ登山道を進みましょう。靴の汚れは洗えば落ちます。
    • 2. 登山道を観察する
      登山のとき、景色と一緒に登山道やその法面(U字型になった登山道の脇に存在する斜面や傾斜部分)、周辺植生にも関心を向けてみましょう。
    • 3. 登山道整備イベントに参加してみましょう
      一歩踏み出してみたい方はぜひイベントへ。新しいアクティビティに出会うかもしれません。肉体労働でキツそうというイメージがありますが、それ以上の楽しさがあります。自身が整備した箇所をまた訪れたくなるはずです。

    先日、私たちの仲間の夫妻に娘さんが生まれました。自分のことのように嬉しくて、私のスマートフォンには写真や動画がたくさんあって癒されています。そして「奥信濃100」が100回目を迎える頃には、この子は95歳だね、と笑っています。

    PROFILE

    山田琢也

    山田琢也Takuya Yamada

    長野県木島平村生まれ。2003年よりドイツのスキークラブに所属し、ヨーロッパを中心にクロスカントリースキー、スキーアーチェリー選手として活躍。2007年にロシアで行われたスキーアーチェリー世界選手権で優勝。2007年に帰国後、トレイルランニングに遭遇し、邁進する。奥信濃を舞台にトレイルランニングレース「奥信濃100」を立ち上げるなど、長野県北信地域を中心にレースプロデューサーとしても活動。

    未来の景色を、ともに

    大和ハウスグループも「生きる歓びを、分かち合える世界」の実現に向け、様々な取り組みを進めていきます。

    大和ハウスグループは環境スローガン「未来をつなごう We Build ECO」のもと、環境長期ビジョンや環境行動計画の策定、環境配慮型の商品やまちづくりなどに取り組んでいます。

    環境への取り組み

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