カーテンやクッションなどの生地を企画・販売する株式会社フジエテキスタイル。
戦後まもない日本で、同社はインテリアデザインの向上に貢献しました。
今回は、日常を彩るテキスタイルの魅力と同社の試みをご紹介します。
部屋に豊かな表情をもたらすカーテンやカバーリングソファなどのテキスタイル。空間にフィットし、暮らす人の個性を表現するオーダーメイドのインテリアテキスタイルは、目にするたび、触れるたびに心を満たしてくれます。
フジエテキスタイルはオーダーメイドカーテンを中心とした、インテリアテキスタイルの商品企画を手掛けるトップランナーの一つです。明治時代に京都西陣の織物製造業者として創業。戦争で一時廃業するも、戦後間もなくの1950年、生地の卸売業として再出発します。
物不足のため、生地を卸せば売れる時代。それでもこだわりをもって良い商品を提供したい。そのためには自ら生地を企画しなければ、と2代目社長の冨士榮良治氏(現顧問)は考えました。独力で染色や紡績、機織りの業者を訪ねては相談し、糸一本から生地を企画していった冨士榮氏。フジエテキスタイルの現在の事業はこのスタイルが原点になっています。
その後インテリアテキスタイルの本場ヨーロッパを訪問した際、日本とのデザインのクオリティの差に愕然とした冨士榮氏。1963年、後にテキスタイルデザインの大家となる粟辻博氏と氏の個展をきっかけに出会います。日本のインテリアデザインを向上させたいという志を共有し、意気投合した両者は同年にコラボレーションを始めました。
大胆なストライプ柄に、カラフルでモダンな花模様。それまで日本人が見たこともないデザインを次々と生み出し、人々を驚かせた2人。デザイナーと連携したものづくり自体が当時とても珍しく、衆目を集めたそうです。
粟辻氏のコレクションに冠された名前は「ハートアート」。日本のインテリアにハート(心)を満たすアート(芸術)をもたらしたいという意志が込められています。1971年に粟辻氏は毎日産業デザイン賞を受賞。それは日本におけるテキスタイルデザインが黎明期を経て、私たちの暮らしに根付いたことが認められた瞬間でした。
1971年の社名変更を機に制作された社名ロゴ。
昭和を代表するグラフィックデザイナー、田中一光氏がデザインした
フジエテキスタイルが掲げるコンセプトは「シンプル&モダン」。「シンプル」は日本人の感性が伝統的に美しいと捉えてきたもの。室町時代から受け継がれたその美意識は、東山文化に端を発し、現代にも根付いています。一方、「モダン」は直訳すると「現代」という意味ですが、フジエテキスタイルでは「時代ごとに生み出すべき、より良いもの」と捉え直しています。
「シンプル&モダン」は、日本で生まれた、世界に発信しうるコンセプト。これを基軸に、フジエテキスタイルは独自の意匠性を展開し、常に新しいものを創出してきました。素材の選び方、染色の仕方、織り方一つで無地のテキスタイルにも豊かな表情が生まれることを知り尽くしているからこそ、「シンプル&モダン」の無限の美を追求しているのです。
染料も素材もオール天然の桜染めカーテン「アカリ」
インテリアテキスタイルの可能性を探る「PROFILE(プロファイル)」コレクションには、フジエテキスタイルのものづくりへの志が現れています。同コレクションの5つのコンセプトのうち、「PURE(ピュア)&CRAFT(クラフト)」は天然染料にこだわり、草木染めのなかでも特に難しいとされる桜染めのカーテンを商品化しました。
天然染料は物性が安定せず、太陽光などによって色あせるため、化学染料を混ぜて安定させることが一般的。しかし、本物の素材感を表現するために、あえてフジエテキスタイルは染料から繊維までオール天然素材を掲げました。当然、このような難しい作業を請け負える業者はなかなか見つかりません。首を縦に振る業者を探す日々が続きました。
デザイナーの意図するイメージに合わせ、前例のない素材や染め方・織り方を企画
桜色に染まったオーガニックコットン。桜の生命が繊維の一本一本に閉じ込められている
あきらめかけた時に出会ったのが福岡県の小さな工房、夢細工。草木染めに対する並々ならぬ思いを持つ職人が集まった工房です。彼らは、何より一定の色を出すのが難しい100%の桜染めを、独自の研究と情熱で実現させました。桜の枝や蕾だけを使って、カーテンに満開の桜色を閉じ込めることに成功したのです。
また、繊細な天然の材料を使用したため、織る工程も困難を極めます。美しく染まったピンクのグラデーションを損なわないよう、幾重にも工夫が重ねられました。こうした染匠や機屋の努力が実を結び、ついに商品化が実現しました。
他にも、難易度の高い麻素材の織りに挑戦したり、ベルベット素材に透け感をもたらすバーンアウトという手法などを試みたり。今までに成功したことがないアイデアでも試行錯誤を重ねて実現への道を探り、可能性がある限り追求する。美意識の高いユーザーの感性を満たす商品は、ものづくりに対する誠実さと絶え間ない挑戦のもとに成り立っています。
織るのが最も難しいとされる麻のテキスタイルにも挑戦
自然な麻をベースに、下部にグレーの毛並みをあしらったカーテン。優しげな雰囲気をまといます
バーンアウト(薬品により生地を部分的に溶かす手法)によりベルベットに独特の透け感を表現
フジエテキスタイルがデザインするのはテキスタイルだけではありません。テキスタイルを通して空間を演出する旗艦コレクション「STORY(ストーリー)」。異なる柄の生地を重ねて使ったコンビネーション、異素材の組み合わせによる質感のコントラストなど、多様な組み合わせを前提としてデザインされています。
例えば「シャインフォレスト」という商品は、木漏れ日をフロアに映し出します。窓から訪れる風を受け、ふわりと揺らぐ柔らかな葉陰。季節や時間とともに移ろう光によって、ドラマチックな変化が室内に描かれます。
テキスタイルは、言うなれば空間を舞台に光と影を操る演出家。心の琴線を震わせる多彩な可能性を秘めています。
静謐なボタニカル柄が美しいフラットカーテン
木の葉柄のレースを通して葉陰をフロアに映し出す「シャインフォレスト」
近年はインテリアテキスタイルのスタイリングにもさまざまなトレンドが現れています。例えばレースカーテンを室内側に、ベーシックなドレープカーテンを外側に配置する「フロントレース」は、レースの柄をより楽しむことができます。コードの操作で生地を昇降させる「シェードスタイル」、ヒダをとらないスッキリした印象の「フラットカーテン」など、一般的なドレープカーテンとは異なるスタイルも可能です。
フジエテキスタイルでは「C&S(コンビネーション&スタイル)」と呼ぶ2色づかい、3色づかいの選択肢も。配色に特別なルールはなく、ユーザーの好みやインテリアに合わせて自由にチョイスできます。
フジエテキスタイルが目指すのは、生活にデザインを取り入れる楽しさや喜びをより多くのユーザーに知ってもらうこと。独自の意匠性で、期待を超えて感動できるものづくりを。ユーザー自身も気づかないニーズを引き出し、常に新しい境地へ。フジエテキスタイルは「シンプル&モダン」のコンセプトを受け継ぎ、これからも心弾ませる提案を続けていきます。
ふちに可愛らしいフリンジをつけて
ドレープカーテンを裾が床につく長めの丈にすれば、エレガントなイメージに
グラフィックデザイナー田中一光氏によるロゴデザイン
粟辻博氏のコレクション「ハートアート」
大阪ショールーム内 テキスタイルラボラトリー
フジエテキスタイルショールーム大阪
http://www.fujie-textile.co.jp/
- 住所/
- 大阪府大阪市中央区南本町4-1-10 ホンマチ山本ビル1F
- TEL/
- 06-6120-3000
- 定休日/
- 日曜・祝日
- 営業時間/
- 10:00AM~6:00PM
取材撮影協力 / 株式会社フジエテキスタイル
2018年10月現在の情報となります。