日本には、長い歴史の中で育まれた独自の食文化があります。
伝統的な食の在り方を子ども達に伝えていくことがなぜ大切なのか、そして、普段から家庭の中でできる取り組みとは。
株式会社食文化の萩原章史さんにお話を伺いました。
2013年に「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録され、世界から注目を集めました。しかしその一方で、残念なことに当の日本では、食の欧米化などにより、家庭から伝統的な食事が消えつつあります。
食に限ったことではありませんが、受け継がれてきた伝統には必ず理由があります。例えば、日本では納豆や漬物などの発酵食品が多く食べられてきましたが、現在では、発酵食品に含まれる生きた菌に腸内環境を整える働きがあることが科学的に立証されています。また、固い漬物や魚の干物を食べることは、歯やあごを鍛える上でも理にかなっていました。このように、昔から継承されてきた食生活には意味があり、健康な体をつくるための知恵が詰まっているのです。
さらに、米を主食に、野菜や魚を多く取る和食は栄養バランスに優れ、「長寿食」とも呼ばれます。アメリカでは日本の食生活が広まったことにより、三大疾病が減ったとも言われるほど。この世界に誇るべき食文化を次の世代へと伝え、廃れさせないことが、親世代が果たすべき大切な役割だと言えるでしょう。
伝統的な食文化に触れる機会として、正月のおせち料理や、ひなまつりのちらし寿司などの行事食が挙げられます。季節の行事や祝いごとの食事には、自然への感謝や家族の健康を祈る思いが込められています。例えば、おせち料理はもともと一年間健康で過ごせたお礼として、神さまやご先祖さまに供えるものでした。料理を味わいながら、その由来や意味を子どもに伝えていくことで、自然の恵みや先人に対する感謝の気持ちが育まれるでしょう。
また、料理のつくり方や風習を伝承していく過程で、世代を超えたコミュニケーションが生まれます。一緒に行事食をつくる経験を通して、おじいちゃんやおばあちゃんへの尊敬の念も芽生えるはず。特別な日の華やかな食事が、家族の絆を一層深めてくれるのです。
南北に長く、海と山の幸に恵まれた日本は、場所によってとれる食材が異なります。運搬・冷蔵技術が発達する以前はその土地で入手できるものを食べていたため、地域ごとに独自の食文化が生まれました。こうした多様な郷土料理や食習慣に触れる経験は、子ども達が食を通して地域の風土や生活文化を学ぶきっかけになります。
さらに、各地で行われている農業・水産業などへの理解を深めることも大切です。普段何気なく食べている野菜がどうやってつくられているのか、収穫されてから食卓に並ぶまでにどんな経路をたどるのか。そのプロセスを知ることは、太陽や雨の大切さや、関わる人々の労力を知ることにもつながります。世の中の仕組みを理解すれば社会性が養われ、普段の食事への姿勢もおのずと変わってくるでしょう。
お祭りで郷土料理に触れよう
地域のお祭りでは、郷土料理の振る舞いや販売が行われる場合があります。土地ごとに異なる食文化に触れ、地元の方々とコミュニケーションする良い機会なので、子どもと一緒に参加してみましょう。
農業・漁業体験をしよう
農業や水産業への理解を深めるため、家庭菜園や米づくり体験、水揚げや地引網体験などを子どもと楽しむのもおススメです。生産の現場やゼロからつくるプロセスを経験することで、食文化への興味・関心が高まるでしょう。
萩原章史先生(株式会社食文化)
会社勤務を経て、2001年に株式会社食文化を創業。「食で日本人を元気にする」ことをミッションに掲げ、生産者を支援するためのインターネット販売システムを構築。「うまいもんドットコム」ほか多数のサイトを運営する。
2018年9月現在の情報となります。