「どれだけがんばっても片付かない」「家族は散らかすばかりで協力してくれない」…。
それは、モノの定位置が決まってなかったり、
家族にとって使いづらい収納だったりするからかもしれません。
片付かないモノや空間ばかりに目を向けるのではなく、片付けられない人の動きに注目してみましょう。
片付けのプロ、ライフオーガナイザーの中村佳子さんに、片付けやすい仕組みづくりについて伺いました。
リビング・ダイニングで。このダイニングテーブルは中村さんのワークスペースでもある。背面の棚は仕事関係のモノを収納。オンラインセミナーを行う際に背景にする奥の棚は、上段は見栄えを考えてすっきりおしゃれな収納に。下段は使いやすさを考えた収納にしている。
なぜ片付かないのか、散らかる原因は?
あちこちにモノが出しっぱなし、服も脱ぎっぱなし、部屋の散らかった様子を見るたびにイライラ…。「片付けなさい!」と子どもにガミガミ言っても、収める場所が決まっていなければ、どこに片付けたらいいのかわかりません。また、雑誌や動画をまねて、収納ボックスをずらりときれいに並べてみても、何をどのように収納したいのかイメージできていないと、結局は使わない収納グッズが山積みになるということも。「使う人に合った収納でないと、部屋は一向に片付きません。自分では片付けやすいつもりでも、家族にとっては使いづらいということもありますよね」と中村さん。「片付けの相談に伺った際は、仕事をされているかどうか、どういう働き方をされているのか、まずはご家族の生活ぶりをじっくりとヒアリングしています。そのうえで片付けの悩みを解消できる家の環境や、ご家族の動線に合わせた片付けの仕組みを考えていきます」
家族それぞれの動線に注目する
片付けの仕組みを考える際は、家族それぞれの動線を観察してみましょう。まず服を脱いでから収納するまでの「洗濯動線」と、朝起きてから出掛けるまでの「コーディネート動線」を整えます。この2つの動線が整うと、ほかの所にも注目する余裕ができ、家全体を整えやすくなります。「わが家は夫がリビングで着替え、パジャマを脱ぎっぱなしにしていました。よく観察してみると、着替えた後、髪をセットするために洗面室へ行きます。そこで寝室ではなく洗面室にかごを置いて、そこにパジャマを入れるようにしました」。長年染みついた習慣を変えるのはとても難しいものです。人が収納に合わせるのではなく、人に合わせて収納の不具合を解消していくことで、無理なく片付く仕組みを目指しましょう。
洗濯動線
服の脱ぎ捨てや洗濯などの作業を行う場所が分散していると、あちこち移動することになります。例えば、ファミリークローゼットをつくって、家族の衣類をまとめて収納する方法もあります。ライフスタイルに合わせて、なるべく動線が短くなるように工夫してみましょう。
コーディネート動線
朝の外出までが一日で一番忙しい時間帯。動線上に必要なモノがあればスムーズです。衣類だけでなく、バッグやアクセサリーなどの小物の収納場所も考えましょう。「最後に上着を取りに2階に戻るというご家庭もありました。1階に上着を置いておくとスムーズに出掛けられますね」
リビング・ダイニングに隣接する和室の押し入れをリフォームし、左側を中村さん専用のクローゼットとして使用。ふすまで隠れる部分に衣類をつるし、押し入れの中の小さなチェストには小物類を収納。外側にはトップス類を収めたチェストを置き、コーディネート動線を集約することで、忙しい朝もバタバタすることなく身支度が完了。押し入れ右側にはリビングで使用する日用品等を収納。
衣類だけでなく、バッグやアクセサリー、ハンカチまでまとめて収納。
1枚のふすまにはミラーを貼り、着替え終わったらコーディネートをチェック。
右側には3段ボックスを配置し、子どもの学校関係のプリント類や裁縫道具、アイロンなどの日用品を収納。こまごましたモノもボックスを統一して収納することで見た目がすっきり。
収納は戻しやすさを考えよう
家族みんなが使う収納は誰にでもわかりやすい仕組みにしておきましょう。「例えば、わが家のキッチンは夫も料理をするので、調味料などをおしゃれな瓶に詰め替えたりはしません。しょうゆはどれ?などと、いちいち家族が聞かなくてもよいように、わかりやすさ、使いやすさを優先しています」。子どもが使うモノは、子どもの背の高さ、手の届く所を確認しながら定位置を考えます。
モノの定位置を決めて、わかりやすく
片付けの基本は使ったら元に戻すこと。そのためにはすべてのモノの定位置をしっかり決めておくことが肝心です。定位置が決まったら、ラベルを貼るなどしてわかりやすくしておきます。人によっては文字で表示するより、絵やアイコンにした方がパッと見てわかりやすい場合もあります。またボックスを色違いにしたり、中身が透けて見える半透明にするのも一案です。
工程を減らして、ワンアクションで出し入れ
特に毎日使うモノは、できるだけ出し入れの工程を少なくすること。細かく分けると見た目がすっきりして探しやすいですが、戻しやすさを重視したざっくりした収納がおすすめです。また、収納ボックスのふたを外しておくだけでも、モノを楽に出し入れでき、片付けのハードルが下がります。
使う場所にひとまとめにする
家での仕事はダイニングテーブルでするという中村さん。椅子に座ったまま手が届く棚に、仕事道具一式を収納しています。「テレワークのときに使うオンライン用グッズもかごにまとめています。使う場所にひとまとめにしておけばあちこち動きまわらず、必要なときにサッと取り出せて便利です」
ダイニングテーブルの上に散らかりがちなモノをワゴンに。「ファイルボックスの中には小学生の次男の勉強道具を収納。面倒くさいと勉強しないので、いつでも取り出せるようにしています」
「朝は洗面室が混み合うのでメイクはダイニングテーブルでします」。かごの中に化粧品をコンパクトにまとめている。
「仕事関係の書類一式は背面の棚の、手が届く所に」。文房具など小物もファイルボックスにまとめて見た目もすっきり。カウンターと棚の隙間を生かしてパソコンも収納。
リビング・ダイニングの奥の棚の下段には、最近飼い始めたハムスターのおうちも。「世話は次男が担当です。エサや砂などのグッズをかごにまとめてケージのすぐそばに置いています」
散らかっていても、戻しやすい仕組みがあれば大丈夫
片付いた状態をキープするには、1日に1回、夜寝る前にモノを定位置に戻してリセットするのが理想的ですが、忙しくて毎日は難しいのなら、無理せず自分のペースで行いましょう。週末に片付けると決めておけば、今は多少散らかっていてもいいと思えて気持ちが楽になるでしょう。
「散らかさないで暮らすのは難しいし、ストレスもたまります。わが家もいつでも片付いているわけではありません。何分後にはきれいにできると把握できていれば、多少散らかっていてもイライラすることはありません。でも元に戻せない、片付けのゴールが見えなくなったなら、仕組みを考え直しましょう」。例えば、子どもの収納なら小学生から中学生になるときなど、大きく環境が変わるときが見直すタイミング。「わが家は、コロナ禍で私や夫の仕事や子どもたちの勉強がオンラインに切り替わったときに、モノの配置などの仕組みを見直しました」
「私は必要であれば同じモノがいくつかあってもいいと思っているので、わが家は決してモノが少ないわけではありません。例えば、はさみは玄関にもキッチンにもあります。使う場所にそれぞれ置いておく方が、いちいち取りに行く面倒がないからです。すっきり片付いているだけが快適な空間ではありません。家族が心地よく過ごせるための仕組みを考えましょう」
Profile
中村 佳子さん
Drawer Style代表。ライフオーガナイザー。一般社団法人日本ライフオーガナイザー協会認定講師。片付けのプロとして、個人宅や企業からの相談に応じたり、セミナー講師として活躍。著書に『男の子がひとりでできる「片づけ」』(KADOKAWA)がある。