省エネルギー性能の高い住宅を推進するため、国や自治体は各種支援策を充実させています。そのうちの1つである令和4年度以降の住宅ローン控除では、取得対象住宅の環境性能に応じて、4つの区分に応じ、控除対象となる年末残高限度額が異なります。また令和6年度の税制改正で、住宅ローン減税が見直され、子育て家庭や住宅価格上昇に対応するための支援が強化されました。今回は、住宅ローン控除の制度における住宅の環境性能の違いに注目し、それぞれの住宅の特徴を見てみましょう。
住宅ローン控除の制度
住宅ローン控除とは、住宅ローンの年末残高の0.7%が13年間にわたって控除される制度です。以下が変更点となります。
- (1)子育て世帯・若者夫婦世帯は令和6年に入居する場合、借入限度額が令和4・5年の水準を維持(認定住宅:5,000万円、ZEH省エネ住宅:4,500万円、省エネ基準住宅:4,000万円)。
- (2)新築住宅の床面積要件を40m2以上に緩和(所得1,000万円以下限定)、建築確認期限を令和6年12月31日まで延長。
上記の表を見ると、取得対象住宅の区分が、「認定住宅(認定長期優良住宅、認定低炭素住宅)」、「ZEH水準省エネ住宅」、「省エネ基準適合住宅」の省エネルギー性能が施されている3つの区分とそれ以外の省エネ基準を満たさない「その他の新築住宅」の区分になっていることが分かります。「その他の新築住宅」について、令和6年度以降では、令和5年12月31日までに建築確認を受ける住宅、または、登記簿上の建築日付が令和6年6月30日以前の住宅についてのみ適用となっていることから、これらの期限以降の「その他の新築住宅」は住宅ローン控除の適用外となります。そうすると、「その他の新築住宅」では住宅ローン控除が受けられないと懸念されるかもしれません。確かにその通りではあるものの、実際はそれほど心配する必要がないかもしれません。
なぜならば、令和3年6月18日に政府が発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」によれば、「新築住宅のうち、建築物省エネ法に基づく省エネ基準を達成している戸建住宅は約7割(平成30年度)。ZEHは大手住宅メーカーに限れば約5割に達するが、注文戸建住宅の全体で見れば2割(全体の13%)(平成31年度)という状況である」と報告されており、多くの戸建住宅は省エネルギー性能を施しているとの見方ができるからです。
一方、ZEHの普及は課題となっています。住宅ローン控除の制度において、新設区分となる「ZEH水準省エネ住宅」や「省エネ基準適合住宅」は、「認定住宅(認定長期優良住宅、認定低炭素住宅)」よりも少ない年末残高限度額となるものの、省エネ基準を満たさない「その他の新築住宅」よりも控除対象となる年末残高限度額が多くなります。このメリットが得られる制度を利用するためにも、これらの環境性能別の住宅の種類について今一度確認してみましょう。
認定住宅(認定長期優良住宅、認定低炭素住宅)
1)認定長期優良住宅
認定長期優良住宅とは長期にわたって良好な状態で使用するための措置が講じられた優良な住宅のことです。長期優良住宅の建築および維持保全の計画書を作成し、所管行政庁に申請して認定を受けます。
長期優良住宅の認定基準
- (1)住宅の構造および設備について長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられていること
- (2)住宅の面積が良好な居住水準を確保するために必要な規模を有すること
- (3)地域の居住環境の維持・向上に配慮されたものであること
- (4)維持保全計画が適切なものであること
- (5)自然災害による被害の発生の防止、軽減に配慮がされたものであること
具体的な措置として、以下の認定基準をすべて満たさなくてはなりません。
〇劣化対策、〇耐震性、〇可変性(共同住宅・長屋)、〇維持管理・更新の容易性、〇バリアフリー性(共同住宅等)、〇省エネルギー性、〇住戸面積、〇居住環境、〇維持保全計画、〇災害配慮
出典:国土交通省 長期優良住宅
2)認定低炭素住宅
平成24年12月4日施行「都市の低炭素化の促進に関する法律(略称:エコまち法)」をもとに開始された制度が、「低炭素建築物認定制度」です。この認定を受けた住宅が認定低炭素住宅です。
低炭素住宅の基準
低炭素住宅として認定を受けるためには、以下の3つの基準をすべて満たすことが必要です。
- (1)省エネルギー基準を超える省エネルギー性能を備えていること、かつ低炭素化に資する措置を講じていること
- (2)都市の低炭素化の促進に関する基本的な方針に照らし合わせて適切であること
- (3)資金計画が適切なものであること
低炭素住宅の具体的な認定基準は、以下の2点です。
- (1)省エネ法の省エネ基準に比べ、一次エネルギー消費量がマイナス10%以上となること
- (2)その他の低炭素化に資する措置が講じられていること
(2)の低炭素化の具体的な措置として、以下のうち、2項目以上で該当することが求められています。
〇節水対策、〇エネルギーマネジメント、〇ヒートアイランド対策、〇建築物(躯体)の低炭素化、または標準的な建築物と比べて、低炭素化に資する建築物として所管行政庁が認めるもの
ZEH水準省エネ住宅
外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅をZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス、略称:ゼッチ)といいます。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁 ZEHの定義(改訂版)<戸建住宅>
図1:ZEHにおける断熱性能、省エネ、創エネのイメージ図
ZEH水準省エネ住宅は以下の(1)~(4)により、家庭での年間エネルギー消費量を正味でゼロまたはマイナスとする住宅をいいます。
- (1)(断熱性能)ZEH強化外皮※基準
地域区分1~8地域の平成28年省エネルギー基準(令和7年までに義務化)を満たした上で、高い断熱性能(UA 値:1・2地域:0.40以下、3地域:0.50以下、4~7地域:0.60以下) を持つ建築物であること - (2)(省エネ)再生可能エネルギー等を除き、基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費量削減
- (3)(創エネ)再生可能エネルギーを導入(容量不問)
- (4)(創エネ/省エネ)再生可能エネルギー等を加えて、基準一次エネルギー消費量から100%以上の一次エネルギー消費量削減
※外皮とは、建物の外周部分の構造体、すなわち建物の外壁、屋根、外気に接する床(ピロティ)、窓. 等を指す。
上記が「ZEH」の本来の認定基準となるのですが、寒冷地、低日射地域、多雪地域等の住宅では日射が少なく十分な発電量が得られなかったり、都市部の狭小地の住宅では太陽光パネルの設置面積が少なかったりする場合があります。そのため、これらの地域の特性を考慮して「ZEH」の基準を緩和したのが、「Nearly ZEH」(ニアリーゼッチ)や「ZEH Oriented」(ゼッチオリエンテッド)です。
「Nearly ZEH」(ニアリーゼッチ):寒冷地や低日射地域、多雪地域では、創出するエネルギーが消費エネルギーを上回ることは難しいため、特別なZEH基準が設けられています。高性能・省エネによって「20%以上」の消費量を削減し、かつ太陽光などで創出されたエネルギーを加えて「75%以上」の省エネが実現できる住宅と定義されています。
「ZEH Oriented」(ゼッチオリエンテッド):寒冷地等のみならず、都市部狭小地も太陽光パネルを載せるには屋根が小さく、十分なエネルギー創出が難しいため、高性能・省エネによって「20%以上」の消費量の削減を実現できる住宅で、創エネ基準はありません。都市部狭小地とは、北側斜線制限の対象となる用途地域等で敷地面積が85m2未満の土地と定義されています。ただし、平屋建ての住宅は含まれません。
省エネ基準適合住宅
「省エネ基準適合住宅」とは、現行の省エネ性能を満たす基準、すなわち、日本住宅性能表示基準における、断熱等性能等級(断熱等級)4以上かつ一次エネルギー消費量等級(一次エネ等級)4以上の性能を有する住宅が該当します。
住宅ローン控除の取得住宅区分のまとめ
上記を踏まえて、「認定長期優良住宅」、「認定低炭素住宅」、「ZEH水準省エネ住宅」、「省エネ基準適合住宅」の違いをまとめると以下の通りになります。
認定長期優良住宅 | 長く住むためのトータル性能の高さを認定した住宅 |
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認定低炭素住宅 | 二酸化炭素の排出量を抑えること(低炭素化)に特化した住宅 |
ZEH水準省エネ住宅 | 年間エネルギー消費量を正味でゼロまたはマイナスにすることに特化した住宅 |
省エネ基準適合住宅 | 断熱等性能等級(断熱等級)4以上かつ一次エネルギー消費量等級(一次エネ等級)4以上の性能を有する住宅 |
環境への配慮の方向性がそれぞれ異なっていることが分かります。なお、住宅ローン控除の制度上の「ZEH水準省エネ住宅」は、創エネの部分について求められていません。つまり、省エネ性能がZEH水準(断熱等性能等級(断熱等級)5かつ一次エネルギー消費量等級(一次エネ等級)6)であることのみが求められており、必ずしも太陽光パネルを設置するなど再生可能エネルギーの導入は必要ありません。そのような意味で住宅ローン控除の制度上では、ZEHの要件が緩和しているといえます。
他、ZEHについては、「ZEH、LCCM住宅関連事業(補助金)」や「こどもみらい住宅支援事業(補助金)」があります。ただし、補助金事業は予算の終了や併用不可の場合もあるので実際に利用を検討する場合には事前に調べておく必要があります。また、先の話にはなりますが、令和4年10月より【フラット35】S(ZEH)が始まり、【フラット35】Sの金利引き下げにおいても省エネルギー性の基準が強化されるなど、支援事業が充実しています。
まとめ
今回は、住宅ローン控除の制度における住宅の環境性能の違いに焦点を当てました。今後、高い水準の省エネルギー性能を持つ住宅が当たり前となる社会を政府は目指しています。現在は、政府が推進していることもあり、住宅取得時に住宅ローン控除や補助金事業でメリットを享受できます。このような制度を利用し、光熱費の削減効果も高く、なおかつ、地球環境に配慮もしている住宅を取得するには良いタイミングといえます。また、新しい支援制度もありますので、それらの制度をしっかり把握している住宅メーカーを選び、長期的な視点をもって、お得な住宅であるかどうかの判断をすることをおすすめいたします。
執筆者
山田健介
FPplants株式会社 代表取締役社長
住宅メーカーから金融機関を経て「お客さまにお金の正しい知識や情報をお伝えしたい」という思いからFPによるサービスを行う会社を設立。現在は全国のFPを教育する傍ら、執筆、セミナーを行う。特にライフプラン作成、住宅、保険に関する相談を得意とする。
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