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【太陽光パネル設置義務化】
から考える建築のエネルギー問題

2022年12月東京都の「2025年4月より新築住宅への太陽光パネルの設置が義務化となります」
の報道とともに、対象者やエリア、建築コストのUP、費用の負担、導入者のメリットなどと、
情報が交錯しているようです。今回は条例の目的や背景などから解説します。

対象エリアと開始時期は?

国は義務化を見送りましたが、東京都では先行して2022年4年第4回定例会会議(都議会)にて「新築住宅を対象とした太陽光発電の設置義務化」可決・成立となりました。制度施行は2025年4月からで、それまでは準備・周知期間となっています。
まだ先のことではありますが、住宅の契約から完成までには少なくとも半年くらいはかかりますので、住宅購入(発注)時期や入居時期に関わる詳細など、今後の発表に注意が必要です。

実は東京都だけでなく、京都府、群馬県、神奈川県川崎市が同様の条例を可決しています。

条例によっては、太陽光発電だけでなく太陽熱利用設備や風力発電設備と多様に検討しているので、それぞれ注目する必要があります。
今回のコラムでは、東京都の条例を基に解説します。

なぜ義務化なの?

世界規模で大雨や山火事など気候変動による災害が発生していますが、その原因は地球温暖化を促進する「温室効果ガス」であり、それが二酸化炭素(CO2)とメタンです。

生活に必要な電気エネルギーの生成時には大量の温室効果ガスが発生してしまいます。さらに電気の元となるエネルギー資源は海外からの輸入に頼っていますが、社会情勢により入手が困難になり価格が高騰するなど安心できる状況ではありません。
また、義務化の背景として、2050年カーボンニュートラル、2030年度温室効果ガス46%削減(2013年度比)の実現に向け、2021年10月地球温暖化対策計画の削減目標を強化することへの閣議決定があります。

東京都は新築住宅による太陽光パネル設備設置の義務化で、2030年時点で43万トン削減になると試算しており、その量は家庭から出る温室効果ガスの削減目標の約5%にあたるそうです。都内のCO2排出量の約7割が建築でのエネルギー使用に起因しており、脱CO2に向けた建築への対策が急務とされています。建物は長期にわたり使用されるので、2050年時点で建物ストックの約半数(住宅は約7割)が今後新築される建物に置き換わることが見込まれています。

よって、地球規模での社会貢献として、災害に強いまちづくりを経済的にサポートするので協力してほしいという趣旨のようです。

誰が対象なの?

太陽光パネルの設置義務者は、年間の都内供給延床面積が合計20,000m2以上の大手ハウスメーカー等の住宅供給事業者(50社程度)になり、再エネ設置基準※1のクリアが課せられました。対象メーカーは年間新築棟数の半数程度(想定)に太陽光発電設備を設置する計算のようです。

注文住宅の施主や分譲住宅の購入者は住宅供給事業者(ハウスメーカー、ビルダー、デベロッパー等)からの断熱・省エネ、再エネ等の環境性能に関する説明を受けた上で、環境への負荷低減に努めることが求められます。

※1設置可能棟数×算定基準率×棟当たり基準量=再エネ設置基準(発電量)

すなわちお客様へは、「目的の説明とご理解の上で費用をご負担いただきます。ただし、コストUPに負担を感じたり、太陽光発電設備の設置に敷地環境が適していないとの判断であれば、導入を断ることもできます」といった内容です。

どのくらいの発電量が必要なの?

<世帯別一軒家の平均電気使用量>

kWh/月 kWh/年
1人暮らしの場合 219 2,628
2人暮らしの場合 331 3,972
3人家族の場合 386 4,632
4人家族の場合 436 5,232

出典:東京都環境局:平成26年度東京都家庭のエネルギー消費動向実態調査報告書
株式会社地域計画建築研究所調べ

1kWの太陽光パネルで発電できる年間発電量の目安は約1,000kWhとされており、一戸建て住宅(3~4人家族)の場合、4,632kWh~5,232kWh/年の使用量となるので、太陽光パネルはおおむね4~5kWが必要になりそうです。

出典:太陽光発電協会HP(FAQ)より

太陽光発電設備の初期費用は?

太陽光発電設備の内訳として、太陽光パネル、パワーコンディショナー、電力量計、発電量モニター、架台、配線工事、設置工事などがあります。社会情勢により建築資材コストの高騰や、供給競争による発電設備の低価格化など不確定要素が大きく、屋根形状や建物の立地によっても価格差はありますが、おおむね4~5kWで160万〜200万円くらいが目安のようです。

今後、太陽光パネルの設置義務者(ハウスメーカー、ビルダー、デベロッパー等)も東京都より「環境性能向上支援事業」としての助成金の受給があれば、現在の相場より下がってくるのではないかと思われます。

初期費用を軽減するには?

「助成金」

太陽光発電設備の義務化前の現在でも、東京都は導入費軽減のため「太陽光発電設備の設置に対する東京都の助成事業(東京ゼロエミ住宅)」などを実施していますので、導入しやすくなっています。

太陽光発電設備導入によるメリット

1. 災害時のライフライン

災害時に停電状態であっても自立運転ができるので、情報収集や連絡方法の要であるスマートフォンやタブレットを使用できるほか、冷蔵庫や電気ポッドが使えるのも大きな安心になります。

2. 経済的メリット

一番気になるポイントではないでしょうか。一戸建て住宅(3~4人家族)を想定した「4kWの太陽光パネルの設置」例を解説します。

A. 一般家庭の平均年間電力消費量の8割強を発電

1kWの太陽光パネルで発電できる年間発電量の目安は約1,000kWhとされています。※2
一戸建て住宅(3~4人家族)の年間電気使用量は平均4,632kWh※3
4,000kWh÷4,632kWh =0.86(消費電力量の約8.6割を発電)

夜間や雨天時などの発電非効率時を勘案した、太陽光発電の年間平均稼働率は13.7%※4となります。

3人家族の月電気使用料(税込) 11,228円※3
太陽光発電設備導入費(4kW) 1,600,000円
自家発電分の電気使用料(年) 11,228円×12カ月×0.86=115,872円
設備投資回収年月 1,600,000円÷115,872円=約13年10カ月

約13年10カ月で太陽光発電設備の投資額を回収できるようになります。

それ以降は、パワーコンディショナー交換などのメンテナンス費用などもかかりますが、実質1.4割で電気を使用できる計算になります。

B. さまざまな助成金(補助金)

太陽光発電設備の設置促進のため、さまざまな助成金が組まれています。
太陽光パネル設置に対してだけでなく、上乗せの補助金であったり、連動するものもありますが、ここでは分かりやすいものをピックアップしてご紹介します。

●1kWあたり10万円の補助金(東京都)

「東京ゼロエミ住宅」※5の一環として、3.6kW超の太陽光パネル設置の場合、1kWあたり10万円(上限36万円)の補助金が上乗せされます。
4kWであれば36万円になり、太陽光発電設備導入費160万円との差額は124万円になりますので、設備投資回収年月は約10年9カ月になります。

太陽光発電設備導入費(4kW) 1,600,000円
4kW太陽光パネル設置補助金 360,000円
自家発電分の電気使用料(年) 115,872円
設備投資回収年月 (1,6000,000円-360,000円)÷115,872円=約10年9ヶ月

※5東京ゼロエミ住宅

家庭部門の省エネルギー対策を推進し、高い省エネ性能等を持つ住宅を普及させるため、2019年度から「東京ゼロエミ住宅」基準を設定するとともに、基準に適合する住宅を新築した建築主に対しその費用の一部を補助する事業を実施しています。(補助金額:20万円から最大210万円)
補助金の詳細情報は下記。

出典:クール・ネット東京 東京ゼロエミ住宅導入促進事業

●不動産所得税の減税

2030年カーボンハーフの実現に向け、太陽光発電設備の設置を通じた再生可能エネルギーの利用促進および断熱・省エネ性能の高い東京ゼロエミ住宅の普及を税制面から支援するため、一定の要件を満たす新築の東京ゼロエミ住宅について、不動産取得税を最大で全額減免します。

東京都主税局では「東京ゼロエミ住宅の新築に対する不動産所得税の減免」として、太陽光発電システム導入で住宅に係る不動産所得税の5割を減免します。
手続きには、東京ゼロエミ住宅認証書、東京ゼロエミ住宅設計確認書等の書類が必要なります。

(例)
分譲住宅販売価格が4,000万円であれば、固定資産税評価額はおよそ70%になりますので、2,800万円を基に算出します。
不動産取得税の税率は、土地・建物ともに3%(2024年3月末までに取得した場合の特例措置の適用後)です。新築住宅の不動産取得税の額は、固定資産税評価額×3%で計算できます。

不動産取得税額 固定資産税評価額(土地と建物それぞれ)×3%
固定資産税評価額 4,000万円×70%=2,800万円
不動産所得税 2,800万円×0.03=84万円
不動産所得税の減免 84万円×50%=42万円

出典:「東京ゼロエミ住宅の新築に対する不動産所得税の減免」

C. 余った電力は売電で収入

住宅用太陽光発電の固定価格買取期間は10年間で、2009年11月までに太陽光発電を設置した方を対象にFITというものがありました。
調達価格1kWhあたりが当初は42円/kWh※7と高額でしたが、現在は16円(10kW未満)となっています。
今後も太陽光パネルの面積が増えれば、価格は下降していくと思われますが、余剰電力をそのまま捨てるのではなく売電することにより、無駄なく設備投資の回収やメンテナンス用の充填へ充てることができます。

出典:資源エネルギー庁「2022年度以降の価格表(調達価格1kWhあたり)」

D. 不動産売却時の資産価値UP

性能評価は安心の担保といった認識の時代になってきたように感じます。安心の数値が高ければ、不動産売買時に高額のままで取引されるといった具合に、公式な評価の有無で不動産評価も変わってきます。

東京都であれば「東京ゼロエミ住宅認証制度」※8があり、国では「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」※9、第三者機関として「BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)」※10というものがあります。

他にもバリアフリー、可変性、耐震性、省エネルギー性、住居環境、維持保全計画、維持管理・更新の容易性、劣化対策などを数値化し、条件により住宅ローン金利を優遇する「フラット35」や「長期優良住宅」などもあります。

太陽光発電設備導入ともに、意識してみてはいかがでしょうか。

導入にあたり注意すべき点

1. 発電効率を考える

東京都では太陽光発電設備導入の目安として、適合性を4つのデータを基に値をシュミレーションした「東京ソーラー屋根台帳」(ポテンシャルマップ)をWEB上で提供しています。

  • 航空測量による近隣建物の高さおよび敷地形状
  • 周辺地形や近隣建物の影響に加え、気象データを用いた日照率から算出した年間日射量
  • 対象となる屋根形状
  • 設置可能システム容量と年間予測発電量(推定)および予想CO2削減量(推定)

既存建物をベースに作成されていますが、新築の場合でも周辺建物や環境を調査することで導入の際には指針になるでしょう。

2. メンテナンスと自然災害による破損

パネル面の汚れによる不均等な太陽光受光は効率を下げてしまいます。鳥のフンやほこりなどを定期的な清掃で除去し、日陰の影響となる樹木も定期的に剪定することが望ましいでしょう。また、パネル下部に隙間がある場合などハトの巣などになる可能性もあるので注意が必要です。
ひょうや台風の自然災害による破損は、火災保険で補償されますので、新築時からの加入がお勧めです。

発電エネルギーをより有意義に活用するために

太陽光発電は日照時に行われますが、社会生活においてその時間帯は会社や学校にいるため、家庭での使用は限られたものになります。せっかくの発電エネルギーなので売電といった方法もありますが、太陽光パネル設置の面積が増えるにつれ、買取価格も下降の一途をたどるようです。
自家発電した電気を、一旦別の形で蓄え好きな時間に使用できる方法をいくつかご紹介します。

1. 「おひさまエコキュート」※11

エコキュート※12とはヒートポンプ技術で安価な深夜電力を使い、夜間に湯を沸かし貯湯するシステムです。一方、おひさまエコキュートは昼間に自家発電した余剰電力を使うことを前提としたシステムです。
メリットとして、おひさまエコキュートは使用時間までの貯湯時間が短いのでエネルギーのロスが少なくより効率的です。また、湯沸かしの稼働が昼間なので微振動とはいえ、近隣に対するトラブルも解消されます。

  • ※11「おひさまエコキュート」の名称は、電力会社・給湯機メーカーが昼間沸上げ形自然冷媒CO₂ヒートポンプ給湯機を総称する愛称です。
  • ※12「エコキュート」の名称は電力会社・給湯機メーカーが自然冷媒ヒートポンプ式電気給湯機を総称する愛称です。

2. 「蓄電池」

昼間発電した使われない電気(余剰電力)を蓄電池にためる仕組みです。太陽光発電からの電力を家庭で使用するにはパワーコンディショナーが必要なのですが、蓄電用にもパワーコンディショナーが必要となります。新築時であれば両方を兼ね備えたハイブリッドパワーコンディショナーを選択するのがお勧めです。

最大2000Wの出力も可能なので、停電時でも電子レンジや炊飯器、冷蔵庫、床暖房が使用でき、コンセント(携帯電話の充電など)への通電を自動的に行います。災害で停電が続いても昼間に蓄電を繰り返すので、大きな安心になります。

しかし、蓄電池は種類や使用状態によって異なりますが、目安として15年〜20年の寿命といわれています。交換には大きな出費となりますので、長期における試算計画は行うべきでしょう。

3. 「V2H」

ヴィークル・ツー・ホーム(Vehicle to Home)の略ですが、電気自動車やプラグインハイブリッド車の蓄電池を活用した仕組みです。
電気の直流と交流を切り替える専用のV2H機器(EV用パワーコンディショナー)が必要になりますが、蓄電容量が大きいため、車の燃料費節約と家庭の電気代節約に大きく貢献できる可能性の高いシステムす。停電時の非常用電源としても期待でき、車種によっては最大5日間くらいの供給が可能とされています。

まとめ

太陽光発電設備の導入に関しては、さまざまな手厚い助成事業(補助金)を用意しても「設置の義務化」へ誘導しなくてはならない、地球規模の環境問題や国策としての事情があることが分かりました。導入やメンテナンスにも費用がかかりますが、必ず訪れる大規模な災害への備えや安心・快適な生活の確保を併せて検討する必要がありそうです。

住宅のエネルギー対策に関する制度や補助金に関してはZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)も大きく関わっていますので、別コラムもご覧いただければと思います。

執筆者

石崎友久

有限会社アーキウィル石崎建築設計
代表取締役 一級建築士・FP

建物を建てるには大きな資金が必要であり、人生と共にするくらいの返済が発生する大プロジェクトですが、成功は簡単ではありません。自身の相続経験から設計と資金の両面からサポートできるよう、相続税対策・土地の活用・資産形成に力を入れています。

※掲載の情報は2023年4月現在のものです。内容は変わる場合がございますので、ご了承ください。

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