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那珂川町馬頭広重美術館

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SLOWNER WEB MAGAZINE

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佇むだけで沁みいる、広重と浮世絵の世界

南那須・大金台林間住宅地/2023.01.27

那珂川町馬頭広重美術館

日本美術において、青色顔料のプルシアンブルーが江戸時代に西洋から日本に輸入されたことは、その後の日本美術を発展させる大きな分岐点となりました。空や水を思いのままに表現できる風景画が、さまざまに描かれるようになると、歌川広重(安藤広重)の木版画『東海道五拾三次之内』が誕生。その鮮やかな青色は、後に『ヒロシゲブルー』『ジャパンブルー』として、海外の名だたる画家たちに影響を与えました。当時の息遣いを感じるように繊細に描かれた浮世絵の人気は、その後も衰えることはありません。
南那須・大金台林間住宅地が広がる那須烏山市に隣接する、那珂川町の『那珂川町馬頭広重(なかがわまちばとうひろしげ)美術館』は、広重作品をはじめ、町に寄贈された約5,000点にも及ぶ「青木コレクション」など、浮世絵を中心とした企画展示で注目される町立の美術館。建築家、隈研吾氏の代表作のひとつに挙げられる設計で、『東海道五拾三次之内 庄野 白雨』をイメージした唯一無二の佇まいで、古き良き広重の世界へといざないます。

風景画だけではない、広重の魅力をあますことなく

「青木コレクション」は、肥料商として成功した栃木県出身の実業家 青木藤作氏が、大正から昭和初期にかけて蒐集(しゅうしゅう)したコレクション。彼が別荘を建てた三浦半島・秋谷海岸を、広重が『相州三浦秋屋の里』として画に残していたことを知り、蒐集を始めたといいます。阪神淡路大震災を機に、青木氏の遺族が、彼の膨大なコレクションを一括して所蔵・展示してくれるところを求め、ゆかりのある栃木県馬頭町(現在の那珂川町)に寄贈。同館は、この青木コレクションを核とした作品を展示しています。
当時、浮世絵は分業制で製作されていました。版元から依頼されたテーマをもとに、広重のような絵師が原画をデザインし、彫り師がそのデザイン画の版木を作成して、摺り師が印刷。大量に摺られるので、庶民も手に入れることができました。
取材時には第1展示室で「秋の浮世絵」をテーマに展示。僅かな色で月の気配を描いた広重初期の作品『東都八景 真崎落雁』などのほか、『秋草に蝶』や『柿に目白』など、風景画だけではない広重の世界も堪能できました。各地に広重の名を冠した美術館がある中で、青木コレクションの大きな特徴は、広重直筆の一点ものの肉筆画が多いこと。そのひとつ、広重晩年の作『江都八景 品川秋月』には、絹地に古の秋が描かれています。

夕立に驚く駕籠かきたちの姿を、大胆な構図で描いた『庄野 白雨』が同館デザインのモチーフ。美術ファンだけでなく、建築ファンも多く訪れるのが同館ならでは。建物奥の竹林は、京都から金明孟宗竹(きんめいもうそうちく)を移植したもので、年中金色と薄緑の色合いが広がる

広重へのオマージュがあふれる、隈研吾氏の設計

旧馬頭町は、タバコ産業が盛んだった町で、この場所にもかつて平屋づくりのタバコ倉庫がありました。隈研吾氏がデザインした同館もゆったりとした平屋建てで、当時の倉庫の形を尊重したものになっています。建物全体を覆う地元産八溝(やみぞ)杉のルーバーは、その細かいラインで光の強弱を演出。宇都宮一族ゆかりの武茂城(むもじょう)跡の裏山を借景とする周辺の景観と、広重の世界が調和しています。建材にはほかにも、県北で採れる白河石と芦野石を床に、那須烏山市でつくられた鳥山和紙を壁にと栃木県産材が採用され、その表情豊かな空間は、建築ファンからも注目の的です。

(写真左)第1展示室の常設展は季節がテーマ。広重はもちろん最後の浮世絵師といわれる月岡芳年、明治に活躍した小林清親などの作品も鑑賞できる  (写真右)取材時は、東京・歌舞伎座や松竹の全面協力による特別展『The Kabuki-za/ざ・歌舞伎座』が開催

「青木氏は、日本的なモチーフを好んで蒐集していたかもしれません」と語るのは、同館主幹で国際浮世絵学会常任理事を務める長井裕子さん。「華やかな画風ではなく、見ていて懐かしくなるような、上品で穏やかな見た目の作品が多いですね。実際にご覧になったお客さまからも、「心が落ち着いた」「日本を感じられてよかった」という声が届いています」。細かい原画を描く広重もさることながら、それを再現してきた彫り師の凄さも圧巻。近年は、無名の彫り師たちの活動にクローズアップした研究も進んでいるといいます。開館から20年以上の年月を経て、まだ公開に至っていないコレクションもたくさんあるそうで、同館では今後もユニークな切り口の展示を企画していく予定です。

那珂川町馬頭広重美術館は、2000年(平成12年)に開館。主幹の長井裕子さん(写真右)は、留学中にボストン美術館のボランティアに参加し、浮世絵をはじめとする日本美術に魅了され、浮世絵に関する本を複数執筆。学芸員の太田沙椰香さん(写真左)は、「青木氏が慕ったジャーナリストの徳富蘇峰の資料もたくさんあるので、青木氏との関係性が伝わるような企画をしてみたいです」と語ります

取材撮影/2022年10月14日

那珂川町馬頭広重美術館

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