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クンストホーフ津和野

“暮らす森”を知ろう

SLOWNER WEB MAGAZINE

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文化・歴史

静かに心を躍動させる、津和野・本町通りのギャラリー

ロイヤルシティ芸北聖湖畔リゾート/2024.07.30

クンストホーフ津和野

山陰の小京都・島根県津和野町。小さな隠れ里のような町には、今も古くからの町の伝統や文化が受け継がれている様子を感じることができます。メインストリート、本町通りが伸びる津和野の中心部は、伝統的建造物群保存地区に指定。道幅も江戸時代から変わらず、大きな商家の建物が今も現役で使われています。
本町通りで、2006年(平成18年)からオープンしているギャラリー兼アトリエ「クンストホーフ津和野」。この建物もかつて専売公社が所有していたもので、建物裏にある土蔵も保存の対象に指定されています。

緑の看板が目印。建物に残されていた古家具も活用し、作品を展示

いろいろな視点で作陶して約半世紀

クンストホーフとは、ドイツ語で「芸術の広場」という意味。この場所から、芸術が身近な存在になるようにと願いを込めて名付けられました。ギャラリー内に所狭しと飾られているのは、津和野町出身の陶芸家、中尾厚子さんの作品と次男でドイツ在住の画家、成(あきら)さんによる油絵。他にも、ドイツの蚤の市で見つけた雑貨や、厚子さんがつくった陶食器『つわぶき葉皿』なども展示販売しています。ちなみに津和野の地名は「つわぶきの生い茂る野」をその名の起源に持つといわれています。

陶芸家の中尾厚子さん。作陶に必要な体力や集中力は、長年続けている太極拳や卓球で鍛えているとか。ちなみに厚子さんは卓球の元国体選手で、現在もマスターズに出場するほどの腕前

47年前、夫・靖(せい)さんの転勤先だった栃木で、公民館の陶芸講座に入ったことから陶芸人生が始まった厚子さん。『裂華紋(れっかもん)』というオリジナルの技法を用いた作品は、日照りの続いた大地や古木の樹皮を思わせる大胆な亀裂が特徴です。収縮率の異なる土を中と外の2層に重ねることで、わざとひび割れを発生させているとか。本来失敗作や不良品につながるひび割れの、「ひとつとして同じものはない裂け方」に魅力を感じたと厚子さんは言います。長年の試行錯誤の末、たどり着いたその苦労が花開き、1999年(平成11年)に日展に初入選、以降7回の入選をかさね、現在も精力的に国内外で個展を開催しています。

(写真左)第42回島根県総合美術展 工芸部門銅賞受賞『蒼霧(そうむ)』
(写真右)画家で次男の成さんによる『ゲート エットリンゲン』

異なる作風ながら、不思議な一体感を醸す中尾親子の作品

一方、成さんが描くのは、ヨーロッパの町並みをモチーフにした幻想的な油絵です。日本とドイツの大学で長年学んだ建築や都市計画の知識を土台に、シンプルな直線で光と影が印象的に描かれ、観る人の想像力を駆り立てます。親子とはいえ、ジャンルも作風も全く異なる芸術家同士。同じ空間に飾ると不思議な一体感を感じさせると、来場者からも評判です。

高さ50cmを超えるものもある厚子さんの作品の数々。土をこねるところからひと月かけて完成させる。幅広い作風に「作家さんは何人いらっしゃるんですか?」と聞かれることもあるとか

健康維持のために「畑仕事をするつもりで」津和野にUターンし、ギャラリーとして使っているこの建物も「老化防止のために購入したつもりだった」と笑う厚子さんと靖さん。現在も自宅のある東京とのニ拠点生活をしながら、不定期にギャラリーを開放し、町の人や観光客との交流を楽しんでいます。「陶芸はキリがないから、ついついのめり込んじゃって。こうやって一生できるものに出会えてよかったなぁって思います」。穏やかな町並みからは想像できないほど、訪れた人の感性を刺激する雰囲気に包まれたギャラリーです。

作品の話、津和野の話を笑顔で話してくれる厚子さんと、夫の靖さん。「観光客の方から『津和野に来てここが一番面白かった』と言われます(笑)」奥に見えるのは名峰青野山

取材撮影/2024年5月22日

クンストホーフ津和野[現地から約65km]

クンストホーフ津和野[現地から約65km]
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