Be clothed blue (ビー・クロースド・ブルー)
文化・歴史
能登 志賀の郷リゾート/2022.02.25
金沢箔、輪島塗、加賀友禅、九谷焼など、数々の伝統工芸品が受け継がれる金沢。そうした工芸品が人々の暮らしに根付いているせいか、地元の人々は金沢で活動する若い作家や職人を受け入れ、作家たち同士も互いに刺激しあいながら、ものづくりに励んでいます。街を歩いても、ショップの店頭に手作りアクセサリーや絵画作品を紹介するワゴンがあったり、町家を改装したギャラリーで作家同士のコラボレーションが行われたりしており、作り手の息遣いがそばで感じられるほど。街全体に作家や職人を見守るようなまなざしが感じられます。
金沢の人気観光スポット、ひがし茶屋街に近い住宅街の路地に、格子壁と引き戸をしつらえた古民家がポツリ。『金澤町家職人工房 東山』の門札が出されたこの建物は、若手作家の制作拠点として貸し出されています。1階は広い土間と小さな台所、そして急な階段だけというシンプルな設計。階段を上ると、糸車や機織り機などが所狭しと並んでいます。
ここは、染織作家の弘田朋実さんの工房。金沢美術工芸大学大学院を修了後、大学講師として勤める傍ら、織物のオリジナルブランド「Be clothed blue」を立ち上げ、活動しています。
弘田さんが工房として使っている古民家は、戦前に建てられ、しばらく使われていなかった建物。2010年(平成22年)より若手工芸作家に貸し出され、工房兼ギャラリーとして使用されています。事前に連絡すれば見学も可能です
弘田さんが手がけるのは、ストールやブランケットなど身にまとうもの、コースターやテーブルクロスなど食卓を彩るもの、ネクタイやブローチ、イヤリングなどのアクセサリーなど、生活を彩る織物。そのすべてが、弘田さんが綿を手で撚(よ)って糸を紡ぐところから始めた一点ものです。染める藍液も、自然に発酵させて仕込み、さらに手織りして生地を完成させる……という大変な作業が続きます。例えば、ストール1枚つくるには、縦糸だけでツムノキ(糸巻きなどの心棒)15個分が必要ですが、ツムノキ1個分を紡ぐのに約1時間を要するため、1日4個つくるのが限界。それでも「手で紡ぐと、手触りが柔らかくなるし強度も出ます。生地が空気を含むので、冬は暖かいし、夏は涼しいものに仕上がる」と、昔ながらの製法を守ります。染める工程だけでも約1週間かかるため、ストール1枚の完成はおよそ1カ月後。「生活の中で人との関わりが大事なように、自分の作品も、誰の生活に、どのように関わるのかをしっかり考えたい」。そうした思いのもとでつくられる織物は、機能的でありながら、使い手の使い方や体に合わせて自然とフィットするものばかりです。
古道具屋で見つけた糸車を使って糸を紡ぐ。足と手でスピードを調節し、糸の太さを調整します
弘田さんの作品は、金沢市内のアパレルショップや市内で行われるイベント、webショップで公開中。幅広い年齢層の女性から支持され、男性への贈り物としても人気です。また、弘田さんがつくる稀少な織物と丁寧な仕事ぶり、そして、自然に負荷を与えずにつくられるその工程にアパレルメーカーが注目。現在、メーカーから、カバンや洋服に使われる生地づくりがオーダーされています。
京都生まれの弘田さんは、藍染めを学ぶために金沢の大学へ進学。染織の授業の一環で、糸を紡ぐ工程を習得し、自分の手で糸がつくれることに感動を覚えたといいます。「自分の手で、どこまでできるかやってみたい!」という衝動が、弘田さんの作品づくりの原点になっています