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岩手山の麓で風と光を浴びて暮らす日々
※写真をクリックすると拡大します。 八幡平を訪ねたのは東北が梅雨入りして間もない6月中旬。雨を心配していましたが、それほどくずれることもなく、深緑に包まれた八幡平を満喫することができました。 ロイヤルシティ八幡平リゾートは、樹が少ないエリアと、樹に囲まれたエリアがあります。 今回は、樹に囲まれたエリアを中心に歩くことにしました。 雨上がりの林の中を歩き初め、まず目にはいったのがフタリシズカです。青々とした葉の間から花穂が2本立ち上がっています。フタリシズカといっても、2本に限らず、1本や3本のこともあります。3本では静かではなく賑やかになってしまいますね(笑)白いのは花弁ではなく雄しべが丸まったもので、内側に葯や雌しべを包み込むという、変わった形をしています。見つけたら観察してみてください。この時期は白い花の固まりをつけた樹を多く目にする事ができますが、その中のひとつ、カンボクも綺麗な花を咲かせていました。この花のように見えるのは萼で、内側にある多数の小さな粒状のものが花です。秋に実る赤い実も綺麗ですが、あまり美味しくないようで、食べる物がなくなった時の鳥達の非常食なのか、冬の林の中でも残っていることが多いです。
■左:フタリシズカ(二人静) センリョウ科センリョウ属 北海道から九州の山野の林に生育する多年草。4~6月、2~3対の葉の中心から白い小さな花をつけた細い花穂をつける。花穂は2個のことが多いが1~5個と変化がある。花穂が1個のヒトリシズカに対して2個のことが多いことからついた名。 ■右:カンボク(肝木) スイカズラ科ガマズミ属 北海道から本州中部以北の山地から深山に生育する落葉小高木。5~7月、5裂した装飾花に囲まれたガクアジサイのような花の固まりをつける。秋に赤く熟す果実は鳥が好まないのかいつまでも残る。似ているヤブデマリは装飾花の1枚が小さいがカンボクはほぼ同じ。ムシカリの葉は亀の甲羅のような形をしているがカンボクは深く3裂している点が違う。名前は薬として使っていたことから『肝要な木』とついたという説がある。
少し薄暗い林の足元では顔を出し始めたギンリョウソウが。いつ見ても不思議な植物です。白い花も見つけました。タニギキョウです。よく見るとキキョウのように釣り鐘の形をしています。やはり薄暗い林で大きな葉を3枚広げているシロバナエンレイソウは花が終わり、実が膨らみかけていました。葉だけでなく、花弁も3枚、花が終わった後は3枚の萼が目立ちます。前日歩いた八幡平頂上付近では、仲間のエンレイソウがちょうど褐紫色の花をつけていました。
■左:ギンリョウソウ(銀竜草)別名ユウレイタケ イチヤクソウ科ギンリョウソウ属 4~8月、日本全土の林や森の湿り気がある腐葉土に生育する。葉緑体を持たず、光合成を行わない腐生生活をいとなむ多年草。(腐生植物)。姿を竜に見立て、白銀色をしていることからついた名。 ■中:タニギキョウ(谷桔梗) キキョウ科タニギキョウ属 北海道から九州の山地の林床に生育する多年草。草丈は10cmほどで、6~8月に5深裂した白色の小さな花をつける。キキョウの仲間で谷筋の湿ったところなどに生えることからついた名。キキョウは漢名から。 ■右:エンレイソウ(延齢草) ユリ科エンレイソウ属 北海道から九州の湿った山地の林に分布する多年草。4~5月、大きな三枚の葉の中心に縁から褐紫色の三弁の花をつける。仲間には白い花のシロバナエンレイソウや、北海道から東北に分布する大きな白い花のオオバナノエンレイソウなどもある。中国で胃腸薬として使われていた延齢草根という名からついた。
道を歩いていると黒猫がすり寄って来て、少しだけ遊んでスッと立ち去って行きました。散歩の途中に変なヤツを見つけたので確認に来たのかもしれません。猫と別れて少し進むと、道ばたにオオヤマオダマキが花をつけていました。地味な色ですが、複雑な形をしています。近くにはホタルカズラの青い花もありました。この花は蕾の時はピンク色をしていて、開くと徐々に青くなるので、1つの株で青い花とピンクの花が咲いているのを見ることもあります。近くの葉の上ではウスバシロチョウが翅を休めていました。鱗粉が少ない半透明の翅が美しい蝶です。
■左:オオヤマオダマキ(大山苧環) キンポウゲ科オダマキ属 北海道から九州の山地の林縁や道端に生育する多年草。6~8月、茶褐色の萼弁と距(花弁の一部が筒状に伸びたもの)を持ち、淡い黄色の花弁を下向きにつける。ヤマオダマキの距が内側に巻き込んだもの。花の形を麻糸を巻いた器具の苧環にみたてた名。 ■中:ホタルカズラ(蛍蔓) ムラサキ科ムラサキ属 日本全土の日当たりのよい山地などに生育する多年草。草丈は15~20cm。葉や茎には粗い毛がある。4~5月に鮮やかな青紫色の花をつける。花は5裂し中央には盛り上がった白い筋が入る。緑の中に鮮やかな色の花が点々と咲く姿を蛍にたとえたという説や、花にある白い星型の筋を蛍の光にたとえたという説、花の付け根の裏側が赤いのを蛍にたとえた説などがある。 ■右:ウスバシロチョウ(薄翅白蝶)別名ウスバアゲハ チョウ目アゲハチョウ科ウスバシロチョ ウ亜科 北海道・本州・四国に分布する北方系のチョウ。シロチョウとつくがアゲハチョウの仲間。春にのみ現れる。幼虫の食草はムラサキケマンやヤマエンゴサクなど。成虫はハルジオンなどの花の蜜。名前は薄い翅の白い蝶という意味。
道が交差する辺りで樹に絡まった蔓に白い花が咲いているのをみつけました。イワガラミだろうか、ツルアジサイだろうかと近寄ってみると。4弁の萼を持つツルアジサイでした。イワガラミは1枚です。先程見たカンボクの花にもよく似ていますが、カンボクは萼片は5枚。花だけでも見分けることができます。 白い花が多いこの時期、目を惹く鮮やかなピンク色の花はタニウツギです。松川地熱発電所横の川沿いでも、何株も綺麗な花をつけていました。上を見るとウリハダカエデが実をつけていました。他のカエデの実もまだ緑色ですが、秋になるとクルクル舞いながら風に乗って飛ぶのがあちらこちらで見られるでしょう。
■左:ツルアジサイ(蔓紫陽花)別名ゴトウヅル、ツルデマリ ユキノシタ科アジサイ属 北海道から九州の山野に生育するつる性落葉樹。木や岩に絡みつき6~7月、白いガクアジサイに似た花をつける。属は違うがよく似ているイワガラミは装飾花の萼片が1枚。葉の縁の切れ込みがツルアジサイは細かくイワガラミは粗く不規則なので区別がつく。アジサイの仲間で蔓になるのでついた名。 ■中:タニウツギ(谷空木) スイカズラ科タニウツギ属 北海道西部から本州(主に日本海側)の日当たりのよい山地に生育する落葉小高木。日本固有。5~6月、漏斗状で5裂する桃紅色~紅色の花を数個まとめてつける。下部からよく枝分かれし株立ちする。花が美しいので植栽されることも多い。茎の中が中空になっていることから空木、谷によく自生することから谷とついた。 ■右:ウリハダカエデ(瓜膚楓)の果実 カエデ科カエデ属 本州から九州の山地に生育する落葉高木。雌雄別株。日本固有。5~6月に淡緑色から淡黄色の花が十数個下垂する。葉は浅く3~5裂する。紅葉するものと黄葉するものがある。名前は若木の樹皮がマクワウリの果皮に似ていることからついた。
小雨が降ってきたので下の方を見ながら歩いていると、孔雀が羽根を広げたような綺麗な姿をしたクジャクシダがありました。トゲトゲした蕾のコウゾリナと、地面に張り付くように生えているコナスビなどの、黄色い花も何種類か見ることができました。 管理作業が終わった道に出たので、除草の終わった道沿いでは、花は期待できないか、と思いながら歩いていると、林の中でも見たアマドコロの大きな株が残してありました。機械で刈る際、手間がかかるのでしょうが、こんなところに細かい気遣いが感じられます。後で管理員さんとお話しした時も「アマドコロが咲いていますよ」と教えて頂きました。
■左:クジャクシダ(孔雀羊歯) ホウライシダ科ホウライシダ属 北海道から九州(一部)の山地の林床などに生育する夏緑性のシダ植物。茎は黒褐色で針金のように細い。名前の通り孔雀が羽根を広げたように細かい葉をつける。観葉植物のアジアンタムの仲間。 ■左中:コウゾリナ(髪剃菜) キク科コウゾリナ属 北海道から九州の山野の草地や道ばたに生育する2年草。5~10月にタンポポに似た黄色い花をつける。茎や葉に剛毛があり、ざらざらしていることから神剃(カミソリ)にたとえ、これが転訛したといわれている。菜は若芽を茹でて食べることから。 ■右中:コナスビ(小茄子) サクラソウ科オカトラノオ属 日本全土の道ばたなどに生育する多年草。地を這うように広がり、5~6月に5~7mmの5裂した黄色い花をつける。5mmほどの実がナスの実のつき始めに似ていることからついた名。熟しても茄子紺にはならず、茶色くなる。ちなみに、ナスはナス科。 ■右:アマドコロ(甘野老) ユリ科アマドコロ属 北海道から九州の山野の草地などに生育する多年草。4~5月、白い筒状の花が1~2個づつ葉の基から下垂する。茎は稜があり角張る点が、よく似るナルコユリとの大きな違い。地下茎がヤマイモ科のトコロ(オニドコロの別名)に似ていて甘いことからついた名。
そろそろ他の取材班と合流する時間なので、わかりやすいところに移動している途中、マタタビの葉が白くなりかけているのを見つけました、花を探してみましたが、残念ながらまだ蕾でした。葉の白い色が濃くなる頃には花も満開になっているでしょう。車を待ちながら周囲を見ていたら、草丈の高いスミレが白い花をつけていたので、小さな花を覗き込んでみました。側弁と雌しべに無数の毛があります。エゾノタチツボスミレです。今回は、このスミレを最後にロイヤルシティ八幡平リゾートに別れを告げました。
■左:マタタビ(木天蓼) マタタビ科マタタビ属 北海道から九州の山地の林縁に生育する落葉つる性木本。果実のつく両性花の株と雄株がある。花の咲く頃に枝の上部の葉が白くなる。花は白く、芳香がある。花が終わる頃に葉が白から赤に変化するのはミヤママタタビで、ネコも喜ばないそうだ。キウイフルーツの仲間。 ■右:エゾノタチツボスミレ(蝦夷の立坪菫) スミレ科スミレ属 北海道から本州(岡山県以北)の山地に生育する多年草。茎は直立し15cm~40cmになる大型のスミレ。4月下旬~6月に白色~淡紫色の花をつける。花の側弁(左右の花弁)と雌しべの一部(花柱)にも毛があるのが特徴。北海道に咲くことからエゾとついた。タチは花が終わる頃に茎が立ち上がることから。ツボは塀に囲まれた庭や道ばたを意味する坪で、身近に見られることから。スミレは花の後ろにある膨らみ(距)が大工道具の墨壺に似ているのでついたという説が有力。
このあと、現地からも近い八幡平ロイヤルホテルの向かい側にある岩手県県民の森を少しだけ散策。エゾハルゼミの大合唱に包まれた林の下ではササバギンランがひっそりと咲いていました。近くの草の上にはエゾハルゼミが。力つきたのか動かないで手に取り観察すると、腹弁(発音器の一部)がなく産卵管がある雌でした。近くの広場は、広々とした草原と緑の樹々、そして青い空をバックにそびえ立つ雄大な岩手山、という素晴らしい景観が見られるビューポイントです。
■左:ササバギンラン(笹葉銀蘭) ラン科キンラン属 北海道から九州の落葉樹林に生育する多年草。4~6月白い花をつける。ギンランに比べ大形で葉も長い。下方の花の苞が笹の葉のように細長い。花が黄色のキンランに対して白いギンランに似るが、葉が笹の葉に似ているのでつけられた名。刈り払われた林でよく見ることができる。 ■右:エゾハルゼミ(蝦夷春蝉) カメムシ科セミ科セミ亜科 北海道から九州の主に落葉広葉樹林に分布する。北海道や東北では低山地に、関東から西では涼しい高山に生息する。5月下旬から7月にかけて発生し、透明な翅を持つ小型のセミ。鳴き声はヒグラシに似るが、朝から夕方まで鳴く。他のセミの成虫が夏に発生するのに対し、春から発生することから春蝉。北方系なので蝦夷とついた。蝦夷とつくが分布は北海道だけではない。
八幡平は高山植物の種類が多いことでも知られています。ロイヤルシティ八幡平リゾートも、車で1時間かからずに高山植物を見ることができるという羨ましい環境にあります。今回は念願だった八幡平山頂周辺の散策もし、たくさんの高山植物を観察することができました。番外編でご紹介します。 ■岩手県県民の森より岩手山を望む
※上記写真はすべて平成24年6月撮影
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担当スタッフ紹介
自然観察指導員1級造園施工管理技士グリーンアドバイザー
関口 亮子
群馬県前橋市出身、恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒業、現在「むろたに園芸研究所」勤務、設計、草花植栽、園芸講座講師を担当、特に自然風の庭造りを得意とする。
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