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スタッフからの現地便り

日本百名山に包まれた、秋色の八幡平を歩く

  • 更新日:2014年05月01日
  • カテゴリ:自然観察
日本百名山に包まれた、秋色の八幡平を歩く

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 今回の八幡平の取材は岩手県だけでなく、八幡平リゾートから日帰りが可能な秋田県や青森県も紹介することになり、青森空港に向かいました。台風26号の影響で青森便は私達の乗る朝一番の1便だけがかろうじて飛び、さほど大きな揺れもなく青森空港に着く事ができました。しかし追って来る台風の影響で初日は雨の1日となってしまったので、雨の影響の少ない黒石市の『こみせ(小見世)通り』へ向かうことになりました。
 市役所のほど近く、道の両側の建物の梁の下が歩道になっていて、今でいうアーケードが続いています。角に建つ立派な建物を覗くと日本酒が並んでいました。この鳴海家住宅は造り酒屋で市の有形文化財の指定を受けているそうです。突然の訪問にもかかわらず丁寧に酒蔵や大石武学流の庭園(国の登録記念物)の説明をしてくださいました。
鳴海家住宅の隣にはお土産処『津軽黒石こみせ駅』があり、津軽三味線の演奏を生で聴く事ができるというので、演奏時間にあわせてご当地グルメの『黒石つゆやきそば』を食べることにしました。初めて生で聞く津軽三味線の演奏は、箸を持つ手が思わず止まってしまうほどの迫力。耳と舌で津軽を体感することができました。
 外に出るとさらに雨が強くなっていましたが、『こみせ』は傘をささずに歩けます。雨や夏の強い日差しを避け、冬は雪から通る人を守ったという『こみせ』の便利さを実感。軒下に雪が積もる時期も歩いてみたくなりました。黒石市に隣接する田舎館村は田んぼアートで有名です。6月頃から見られるそうなので、その時期に訪れてみるのも良いですね。


 
■こみせ通り
青森県黒石市の中町通(通称:浜街道)沿いに残る「こみせ(小見世)通り」は、黒石藩政時代に造られた歩道の上に張り出したひさしが連なっている言わば木造のアーケード。「重要伝統的建造物群」、「日本の道百選」に選ばれている。雨や夏の日差しからの通行人を守る他、豪雪地でも吹雪や積雪を避けて通行ができる。重要文化財として国の指定を受けている高橋家は内部を見学できる他、市の指定文化財の鳴海家や津軽三味線の生演奏が聴ける「津軽こみせ駅」、造り酒屋などがある。

 続いて秋田県鹿角郡小坂町に向かいました。ここには移転復元された『小坂鉱山事務所』と日本最古の現役芝居小屋『康楽館』があります。どちらも白い壁の美しい洋風建築で小坂鉱山の繁栄が偲ばれます。康楽館からは歌声が聞こえてきました。中では今日も公演が行われているようです。一帯の『明治百年通り』は、木造の電話ボックスに自動電話と書かれていたり、煉瓦敷きの歩道やレトロな街灯など、明治期のイメージで整備されていて、ここのアカシアの並木は『日本のかおり風景百選』にも選ばれているそうです。町内の300万本といわれるアカシアの花が満開になる6月には、甘い香りで町が包まれることでしょう。
 辺りは薄暗くなっていましたが、この日の最後に鹿角市の『道の駅かづの』に立ち寄りました。ここは秋田県の無形民俗文化財で2014年に国の重要無形民俗文化財にも指定された『花輪ばやし』の展示館が併設されています。『花輪ばやし』は日本三大囃子のひとつで、起源は平安時代末期と伝えられているそうです。展示館には実際に祭りで使われる全ての町の豪華絢爛な屋台(山車)10基が展示され、お囃子も聞くことができます。展示館には、花輪地区に伝わるもうひとつの祭り、『花輪ねぷた』 (こちらは「ぶ」ではなく「ぷ」)の灯篭も展示されています。夏の花輪地区は『花輪ねぷた』から始まり『花輪ばやし』『花輪町踊り』と3つの祭りが続くそうです。見てみたい祭りのリストに東北の静かな町で大切に守られ伝承されてきた3つの祭りを追加しました。

  
■左:小坂鉱山事務所
秋田県鹿角郡小坂町にあった小坂鉱山の事務所として1910年に建設されたルネサンス様式の洋風建造物。現在の位置に移転復元された後、国の重要文化財に指定された。全国一位の鉱産額を誇った小坂鉱山の繁栄ぶりを物語る。内部には鉱山の歴史などの展示や、観光施設などがある。
■中:康楽館
小坂鉱山の厚生施設として1920年に建設された現役の芝居小屋。国の重要文化財。外観は洋風だが、内部には江戸時代からの芝居小屋のように回り舞台や花道がある。香川県の旧金毘羅大芝居や兵庫県の永楽館とともに日本最古級の芝居小屋として知られる。周辺は『明治百年通り』として明治期のイメージで統一され、小坂鉱山事務所、康楽館の他、日本のかおり風景百選に選ばれたアカシア並木、旧小坂鉄道などがある。
■右:花輪ばやし屋台
秋田県鹿角市花輪地区の幸稲荷神社に奉納する祭り。国の重要無形民俗文化財。8月に豪華絢爛な屋台(山車)がお囃子を演奏しながら練り歩く。お囃子は日本三大囃子のひとつで、平安末期頃に京都から伝わった笛の曲が元となっているという。屋台は前面の床がない『腰抜け屋台』という形で、太鼓の叩き手が歩きながら演奏する。現在屋台は10基、お囃子は12曲伝承されている。道の駅かづのに併設されている祭り展示館では10基全ての屋台と、花輪地区の七夕行事『花輪ねぷた』の将棋の駒形をした王将灯篭が並んでいる。ここではお囃子も聞くことができる。

 2日目は朝食前に盛岡市内を散策。北上川沿いに整備された遊歩道を夕顔瀬橋から開運橋まで歩いてみました。夕顔瀬橋から岩手山を見ると雪と雲を冠っています。夜のうちに通り過ぎた台風は、置き土産として山に雪を降らせていったようです。夕顔瀬橋横の階段から遊歩道に降りると、ここにも置き土産が。大きな鮭が何匹も打ち上げられ、昨日の水量の多さを物語っていました。

■夕顔瀬橋から岩手山と北上川
岩手山は標高2,038mで岩手県最高峰。北上川は東北最大の河川。10~11月には河口から約200kmの盛岡市までサケが遡上する。夕顔瀬橋際には『夕顔瀬かっぱ』が住んでいたという伝説があり、橋のたもとに説明板とカッパの像がある。

 この日はまず現地に向かいました。八幡平リゾートは盛岡市内から50分ほどで到着します。八幡平リゾートは樹々に囲まれたエリアと樹が少なく開けたエリアがあり、景色や環境の違いを楽しむ事ができます。今回は樹々に囲まれたエリアから散策を始めました。さっそく5弁の花のように実が割れ、オレンジ色のタネが吊り下がっているツリバナが目に入りました。カマツカも赤い実をつけています。藍色の実をつけているのはサワフタギです。鮮やかな赤い実をつけたガマズミが遠くからでもよく目立つように、この時期はカラフルな実が多く見られます。歩いているとついそちらに目が行ってしまいますが、足元には大きな葉の間から立ち上がった茎に丸い玉がいくつもついたタマブキや、ひげのようなタネをつけたクサボタン、イカリソウの葉などもありました。今回は花の時期ではなかったので、タネや葉しか見られませんでしたが、春からは様々な花が次々と咲き林床を彩ることでしょう。
   
■左: ツリバナ(吊花)の果実 ニシキギ科ニシキギ属
北海道から九州の山地に生育する落葉低木~小高木。5~6月につける淡緑色の花は花茎が長く枝から吊り下がる。9~10月、紅色に熟した果実が5つに割れ、朱赤色の種子が顔を出す。名前は花や果実がぶら下がる様子からついた。
■左中:カマツカ(鎌柄)の果実 バラ科カマツカ属
北海道から九州の日当たりのよい山地に林縁などに生育する落葉小高木。4~6月に白い5弁の小さな花を10~20個まとめてつける。果実は10~11月に赤く熟す。柄にいぼ状の皮目があるのが特徴。名前は材がかたく丈夫なので鎌の柄などに使われることからついた。
■右中:サワフタギ(沢蓋木)別名ルリミノウシロコシ、ニシゴリ ハイノキ科ハイノキ属
北海道から九州の沢沿いなどに生育する落葉低木。5~6月、側枝の先に小さな白い花がまとまってつく。果実は9~10月に藍色に熟す。沢を覆い隠すほど茂ることからついた名前。別名のニシゴリ(錦織木)は木灰を紫根染(しこんぞめ)や茜染(あかねぞめ)の媒染剤として用いたことからついた。
■右:ガマズミ(萊蒾)別名アラゲガマズミ、ヨソゾメ、ヨツズミ スイカズラ科ガマズミ属
北海道西南部から九州の山野に生育する落葉低木。5~6月、白い小さな花を枝先に多数つける。9~11月に赤く熟す果実は酸っぱいが食べられる。霜に何度か当たり透明になると甘みが増す。名前は漢名の「萊蒾」の音読み「キョウメイ」が「カメ」、「ガマ」に転じ、さらに酸実(スミ)がついたという説がある。

 全体的に紅葉には少し早かったようですが、歩いていると紅葉した樹がありました。ウリハダカエデとハウチワカエデです。この一角は日当たりが良いのでしょうか、個体差なのでしょうか、綺麗に紅葉しています。 
 他のスタッフが現地案内所を取材している間、周辺を散策することにしました。現地案内所は開けたエリアにあるので、周囲の山々を見渡すことができます。南に見える岩手山の上空は風がかなり強いようで、雪を冠った頂上付近を次から次へと雲が流れて行きます。西に目を向けると八幡平の上空も雲が多く青空は見え隠れしていましたが、流れの早い雲の影で山肌の色が次々と変わるので、しばらくの間眺めてしまいました。

■現地から八幡平
十和田八幡平国立公園八幡平地区北部に位置する。岩手県と秋田県にまたがる。標高1,614m。頂上近くまで車で行けるため、さまざまな高山植物や八幡沼周辺の湿原植物などを気軽に観察できる。坂上田村麻呂が八幡宮を奉ったことからついた名という。

 日当たりのよい場所ではノコンギクが群生し、寒さに負けずにたくさん花をつけています。まだ蕾もあるので強い霜が降りなければ良いなと思いながら近くの林の中に入ってみると、ユニークな形をしたスッポンダケが倒れているのをみつけました。近くにはクスサンの繭も落ちています。この繭は作りかけのように見えますが、これが完成品。中の蛹が透けて見えるため、透かし俵(スカシダワラ)とも呼ばれます。この夏から秋にかけて羽化して空き家になった繭が風で飛ばされたのでしょうか。 
  
■左:ノコンギク(野紺菊) キク科シオン属
北海道から九州の山野に生育する多年草。8~11月、淡青紫色の花を分枝した茎の上部に多数つける。野山でよく見ることのできる日本の野菊の代表種。ヨメナによく似るが、ノコンギクの葉はざらつき、花に長い毛(冠毛)があり、タネになると筆のようになるのが特徴。名前は野にある紺色のキクの意味。
■中:スッポンタケ(鼈茸) スッポンタケ科スッポンタケ属
全国の雑木林や竹やぶに生育する。頭部に暗緑色をした網目状の隆起があり粘液状の胞子をつける。悪臭を放ちハエを引き寄せ胞子を運んでもらう。柄は中空で食用可。卵形の幼菌を破って出てきた姿が卵から孵ったスッポンに似ていることからついた名。臭いに誘われたハエの仲間が来ていた。
■右:クスサン(楠蚕)の繭 別名シラガタロウ、クリケムシ、クリムシ ヤママユガ科
北海道から九州に生育する大型の蛾。成虫は9~10月に出現する。別名に白髪がつくように幼虫には白く長い毛が密集する。幼虫はクスノキ、クリ、カエデ、リンゴなどを食べる。後翅に目のような模様がある。繭は網目状で蛹が透けて見えることからスカシダワラ(透かし俵)と呼ばれる。クスノキの葉を食べ、テグスの材料にもなる強い糸がとれることからついた名。

 林縁の斜面ではオレンジ色のぽってりとしたキノコが顔を出していました。ハナイグチです。昨日の雨で傘の表面のぬめりが増しています。この時期はキノコの種類も豊富なので、足元に注意しながら歩いてみる事にしました。すると歩道沿いのコケの間から何とも愛らしい姿をした小さなキノコが顔を出していました。ヒナノヒガサのようです。近くには鮮やかなオレンジ色やクリーム色のものもありました。
 
■左:ハナイグチ(花猪口) イグチ科ヌメリイグチ属
全国にカラマツの樹下に生育する。北日本に多い。ジゴボウ、ラクヨウなどの方言名がある。夏から秋に発生。傘は赤褐色から橙褐色で粘液に覆われる。傘の裏は管孔(スポンジ状)で黄色い。柄にはつばがある。よく似るシロヌメリイグチは傘が汚白色。ヌメリイグチはマツ林に発生し、柄のつばより上部に赤い細粒点があるのが特徴。名前の由来は不詳。形からか?
■左:ヒナノヒガサ(雛日傘) キシメジ科ヒナノヒガサ属
梅雨から秋にかけて林や庭のコケ類の間に発生する小型のキノコ。全国に生育する。傘は直径5~10程度でオレンジから橙黄色。ひだは白色。鐘形からまんじゅう形でのちに開き中央がやや凹む。柄は傘と同色。食用不可。
 
 道沿いの斜面ではセンボンヤリの綿毛がまるで梵天のついた耳かきが刺さっているように立っています。綿毛はタンポポに似ていますが、花は白くて小さいので印象がかなり違います。ゲンノショウコも花は終わっていましたが、ミコシグサ(神輿草)という別名の由来のように神輿の屋根に似た形にタネをつけています。タネのつき方や形を観察するのも秋の散策の楽しみのひとつですね。見上げると岩手山の頂上が顔を出していたので、急いで写真を撮り現地を後にしました。
 
■左:ゲンノショウコ(現の証拠)別名ミコシグサ フウロソウ科フウロソウ属
北海道から九州の草地などに生育する多年草。7~10月、長い柄の先に5弁の小さい花を2個ずつつける。東日本は白、西日本は紅紫色が多い。果実は熟すと5つに裂け先端にタネをつけ巻き上がる。この姿が神輿の屋根に似ていることからミコシグサ(神輿草)という別名がある。古くから下痢止めなどに使われ、効き目がすみやかなことからつけられた名。
■右:現地から岩手山
十和田八幡平国立公園八幡平地区南東部に位置する。山の形は変化に富み、見る場所によって岩手富士、南部富士、南部片富士、裏富士など様々な名称がついている。現地からは岩手山の北側を見ることができる。多くの文人や画人に愛され、石川啄木は「ふるさとの山に向かひて言ふことなし ふるさとの山はありがたきかな」と詠んだ。春に鷲の形をした雪形が残ることから厳鷲山(がんじゅさん)とも呼ばれ、これが転訛して岩手山になったという名前の由来説がある。日本百名山、新日本百名山。

 八幡平リゾートは十和田八幡平国立公園の八幡平地区の間近にあり、アスピーテラインと八幡平樹海ラインの2通りのルートで山頂付近に行くことができます。2ルートが岩手県と秋田県の県境で合流した後、アスピーテラインが秋田県鹿角市へと向かう途中にはいくつもの温泉があるので、少し足を延ばすと日帰りで温泉のハシゴを楽しむことができます。今回は秋田県側の温泉も紹介するために八幡平を山越えする予定で、まずはアスピーテラインの入り口にある松尾八幡平ビジターセンターへ。しかしアスピーテラインも樹海ラインも雪で閉鎖されているとのこと。山越えは諦めて鹿角方面から八幡平の西側に位置する焼山へ向かうことにしました。
 焼山は山の東に後生掛温泉、西に玉川温泉が湧き出ています。まずはアスピーテラインを後生掛温泉へ。途中、八幡平ビジターセンターの前に広がる大沼に立ち寄りました。大沼の外周と南側に広がる大沼湿原には自然探勝路が整備され、道路から下りるとすぐに木道が植物の間に設置されていました。この木道は途中まで車椅子も利用が可能なので、春のミズバショウやエゾノリュウキンカから始まり、次々と咲く湿原植物や水鳥などを気軽に楽しむことができそうです。この日は秋空の元、空の青を映し込んだ沼と周囲の樹々の紅葉、足元に広がる草紅葉が絵のような景観を作っていました。

 
■大沼
アスピーテラインをはさんだ八幡平ビジターセンター向い側に広がる大沼と湿原はミズバショウ、コバイケイソウ、ワタスゲなどの湿原の植物が季節ごとに花を咲かせる。アスピーテラインのすぐ横にあり、30~40分で巡ることができる自然探勝路が整備されているので、気軽に湿原の植物を観察することができる。八幡平周辺にある湖沼の多くは火山活動でできたものだが、大沼は断層の陥没箇所に水がたまってできた断層湖といわれている。
アスピーテラインから少し入ったところに、大きな水たまりから湯気が出ているような不思議な景色がありました。ここが「馬で来て足駄で帰る後生掛」と後生掛温泉です。箱蒸し風呂や泥風呂、地熱で床を暖めたオンドル部屋などがあり、湯治宿として古くから知られています。宿の奥には自然研究路があり、いくつもの火山活動を間近で見ることができるそうです。 
後生掛温泉からアスピーテラインをさらに八幡平に向かって進み、少し奥に入った標高1,100mの場所には八幡平最古の湯の蒸ノ湯(ふけのゆ)温泉があります。地熱を利用した『蒸かしの湯』が有名だったことから『蒸ノ湯』とついたそうです。宿の前から見ると錦に染まる樹々に囲まれた谷の所々から湯気が立ち上がり、露天風呂の囲いと地熱浴オンドルの小屋がぽつんぽつんと建っています。こんな野趣溢れる温泉でゆっくりするのもいいな、などと思いましたが、今日は温泉につかっている時間はありません。次の温泉へと向かいます。

 
■左:後生掛(ごしょうがけ)温泉
オンドル(地熱での床暖房)のある湯治場として古くから知られる。箱蒸し風呂や泥湯などがある。周辺には1周約40分の自然研究路が整備され、日本一の規模と言われる泥火山や大湯場などの火山現象を間近で観察できる。後生掛温泉から玉川温泉までは焼山を縦走する4時間程度の後生掛~玉川自然探勝路ルートがある。
■右:蒸ノ湯(ふけのゆ)温泉
アスピーテラインから少し入った標高1,100mに位置する一軒宿。八幡平最古の湯で開湯は約300年前。雄大な景色の中に露天風呂や地熱を利用したオンドル浴がある。

 次の玉川温泉へは焼山を4~5時間で縦走する後生掛~玉川自然探勝路がありますが、今回は車なのでアスピーテラインを戻り、玉川温泉へ向かいました。駐車場に着いた頃には日が落ち始めていたので、約1km の自然研究路を足早でまわってみました。駐車所から降り硫黄の匂いに包まれた遊歩道を歩いていると川の中に桶が並んでいます。川と思ったのは源泉の流れで、樋は湯の華を採るためのものでした。さらに進むと源泉が湧き出る『大噴』があります。この湯は日本一の強酸性で、1ヶ所からの湧出量も日本一です。高温のお湯がボコボコと音をたてての湧く様子は『噴』という字がピッタリ。この強酸性の湯とともに玉川温泉で有名なのが岩盤浴です。岩盤浴をする人があちらこちらでゴザを敷いて寝たり座ったり、なんとも不思議な光景が広がっています。近くではイソツツジがこんな過酷な環境でもつぼみをつけていて、植物の力強さを感じました。さらに不思議な光景は、人々が岩盤浴をしているすぐ近くにある噴気孔です。100個以上あるといわれる硫黄で黄色くなった噴気孔から蒸気が吹き出す様子は、まるでSF映画の一場面を見ているかのようです。火山は生きていて、温泉はその火山の恩恵なのだということを強く感じました。
  
■左:噴気孔
100ヶ所以上ある噴気孔から100度以上の水蒸気と硫化水素や二酸化イオウなどのガスが音をたてて吹き上がる。噴気孔の周りはイオウの固まりで黄色くなっている。玉川温泉は『北投石(ほくとうせき)』(国の特別天然記念物)というラジウムを含む放射性を有する鉱物の日本で唯一の産地でもあるが、これも温泉の成分が結晶堆積したもの。
■中:玉川温泉「湯の花採取風景」
日本一の強酸性(ph1.05)、日本一の1ヶ所からの温泉湧出量(毎分約9,000リットル)、約98度の高温の温泉。1周約1km(約30分)の自然研究路を歩くと源泉湧出口の大噴(おおぶき)や水蒸気が吹き上がる噴気孔、熱湯が流れる湯の川などを観察することができる。自然研究路沿いの熱をもった岩盤での岩盤浴が有名で、さまざまな場所でゴザを敷いて岩盤浴をしている。
■右:イソツツジ(磯躑躅) ツツジ科イソツツジ属
北海道と東北地方の高山の湿原や硫気荒原などに生育する常緑低木。6~7月に白色の小さな花を枝先に多数つける。磯とつくが海岸にはない。エゾツツジが誤ってイソツツジと呼び伝えられた。硫気を含む火山性ガスが発生している場所や酸性の強い土壌でも育つ。このように硫化水素や亜硫酸ガスを噴出する火山活動が活発な地帯に生育する植物を硫気孔植物と呼ぶ。玉川温泉では他にイワカガミ、シラタマノキ、ヤマタヌキランなどが生育している。

 翌日はもう少し足を延ばし、十和田八幡平国立公園の十和田・八甲田地域に向かいました。途中立ち寄った東北自動車道の津軽サービスエリアからは、リンゴ園の先に雪を冠った岩木山が穏やかな稜線を美しく広げる姿を臨むことができました。『お岩木山』、『津軽富士』と地元の人達に愛され、全国ふるさと富士人気投票1位に輝いた山です。

■岩木山 津軽サービスエリアより
標高1,625m。津軽平野のどこからでも見ることの出来る独立峰。円錐形に裾野が広がる様子が富士山に似ていることから『津軽富士』と呼ばれ、全国ふるさと富士人気投票では1位に輝いた。『お岩木山』とも呼ばれる。日本百名山、新日本百名山。名前の由来はアイヌ語からという説や、石の城を意味するイワキから、などの説がある。

 八甲田ゴールドラインを北から南に樹々の間を走っていると突然視界が開け、広々とした草原と八甲田連峰の雄大な姿が目に飛び込んできました。この萱野高原の草原ではオオノアザミがピンクの花をつけていました。近くの茶屋で「1杯飲むと3年長生きし、2杯飲むと6年、3杯飲むと死ぬまで生きる」といわれる『長生きの茶』と生姜味噌おでんでひと休みしている間、次々と車やバスが停まり、降り立った観光客が慌ただしくお茶を飲んで出て行きました。やはり秋の観光シーズン最盛期ですね。
 
■左:オオノアザミ(大野薊)別名アオモリアザミ キク科アザミ属
北海道、秋田、青森、岩手の山麓から亜高山帯の明るい草地などに生育する日本固有の多年草。ノハラアザミの北方型で全体的に大きい。クモ毛が密集する長い茎を立ち上げ、8~10月に淡紅紫色の花を上向きにつける。葉は茎の上部には少なく根本に集中し花期にも残る。名前は大きいノアザミの意味。
■右:八甲田連峰 萱野高原
八甲田ゴールドライン沿い標高約500mにある高原。草原の先に北部八甲田山系の山々がそびえ立つ。八甲田山という独立峰はない。左から八甲田山系の中で一番北にある前嶽(1,252m)、赤倉岳(1,548m、この日は雲に隠れていた)、八甲田ロープウェイが設置されている田茂萢(タモヤチ)岳(1,324m)が並ぶ。日本百名山、新日本百名山。


 紅葉で有名な城ヶ倉渓流に架かる城ヶ倉大橋の歩道もたくさんの人で、360度見渡せる絶景にあちらこちらで歓声があがっていました。こちらの紅葉も少し早いようでしたが、岩木山や八甲田連峰を背景に、紅、黄、緑と様々な色の樹々が混ざった山肌はまるで錦絵のようです。足元に地上最高点122mという表示があったので見下ろしてみると、色とりどりの樹々に彩られた岩の間を縫うように流れる城ヶ倉渓流が遥か下に見えます。数日後には一面が赤や黄色に染まるであろう光景を想像し、時を忘れて見入ってしまいました。
 
■城ヶ倉渓流(城ヶ倉大橋)
アーチ支間長225mの日本一の上路式アーチ橋(全長360m)。地上最高点は122m。八甲田連峰や青森市内、岩木山を望むことができる。周囲の樹々はアオモリトドマツ、ヒメコマツ、コメツガ、ブナ、ミズナラなど。

 城ヶ倉渓谷からはブナやダテカンバなどの樹々のトンネルを走る途中、酸ヶ湯(すかゆ)温泉、地獄沼、睡蓮沼などから八甲田連峰を望みながら奥入瀬渓流に向かいました。青森県の紅葉の名所といったら外すことができない奥入瀬渓流は、十和田湖から流れ出る唯一の川です。湖畔の子ノ口(ねのくち)から焼山まで約14kmを銚子大滝、白糸の滝、雲井の滝などの大小さまざまな滝や、阿修羅の流れ、三乱の流れなど、次々と姿を変え、樹々や苔むした岩の間を流れて行きます。川沿いの散策路全てを歩くと約4~5時間かかるそうですが、平行した自動車道を走っているバスを利用し、ポイントだけを見るという楽しみ方もできます。今回見たのは数カ所でしたが、どこを切り取っても絵になる美しさに圧倒されました。秋の紅葉はもちろん、樹々の芽吹きの時期やヤマツツジが咲く頃、緑深い夏…。雪と氷に包まれた奥入瀬渓谷も水墨画のような美しさだそうです。季節を問わず美しくダイナミックな姿をゆっくり訪れることができたらどんなに素敵でしょう。
   
■左:睡蓮沼から八甲田連峰
北部八甲田山系が見渡せる。右から高田大岳(1,552m)、小岳(1,478m)、八甲田大岳(1,584m)。八甲田山系は北部八甲田山系を南部八甲田山系に分かれているが、一般的に八甲田山というと最高峰の八甲田大岳を含む北部八甲田山系を指すことが多いらしい。八甲田の由来は「八の(たくさん)峰と、多くの田代(湿原)があることからついたといわれる。
左中:阿修羅の流れ
奥入瀬の中では一番激しいといわれる流れ。苔むした岩や樹々の間を勢い良く流れる水が作り出す景観は、テレビや写真などでもよく紹介されるスポット。
右中:銚子大滝
幅20m、高さ7mと奥入瀬渓流で一番大きい滝。『魚止めの滝』の別名があり、この大きく直角に切り立つ滝が遡上する魚を拒んでいたために十和田湖に魚がいなかったといわれている。奥入瀬川本流にある唯一の滝。名前は十和田湖をとっくり(銚子)に見立てると注ぎ口に位置することからついた。
右:雲井の滝
奥入瀬川の支流、養老沢にかかる三段に落下する高さ約25mの滝。水量が豊富で、迫力がある。滝壺の近くまで行って見ることができる。水量が多いため岩が削り取られ後退しているという。

 今回の最後は青森県と秋田県の県境に位置する十和田湖に向かいました。二重カルデラ湖である十和田湖の南東部は、御倉半島と中山半島が突き出して西湖、中湖、東湖の3つに分かれた独特な形をしています。この2つの半島の間にある瞰湖台(かんこだい)に立つと、目の前には中湖が広がり、その先に横たわる中山半島の奥には西湖も見えます。日の光を受けて輝く穏やかな湖面を滑るように進む船の波紋が、御倉半島から中山半島へと続いていました。 
 

■十和田湖 瞰湖台(かんこだい)展望台より
十和田湖は青森県と秋田県にまたがり、標高400mに位置する二重カルデラ湖。湖の南東部は御倉半島と中山半島により西湖、中湖、東湖の3つに分けられる。御倉半島と中山半島の間、標高583mにある瞰湖台からは、2つの半島と間に広がる中湖、中山半島の奥に西湖を見渡すことができる。中湖の水深は327mあり、十和田湖最深。

 今回歩いた北東北は、伝統的な祭りや雄大な山々、美しい景色、そして多種多様な温泉など、時間をかけてゆっくり楽しみたい場所ばかりでした。時間の関係でまわれなかった場所もたくさんあるので、ぜひまた訪れたいと思います。「八幡平の大自然が近くていいな」と思っていた八幡平リゾートですが、日帰り圏内にこんな素敵な場所がたくさんあることを知り、ますます羨ましくなってしまいました。

※上記写真は全て平成25年10月撮影


 

 


 
 




 

 

  


 



 

担当スタッフ紹介

ガイド写真

自然観察指導員1級造園施工管理技士
グリーンアドバイザー

関口 亮子

群馬県前橋市出身、恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒業、現在「むろたに園芸研究所」勤務、設計、草花植栽、園芸講座講師を担当、特に自然風の庭造りを得意とする。

 

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