大和ハウス工業株式会社

DaiwaHouse

LOGISTICS NEXTSTAGE
ロジスティクスはネクストステージへと進化

vol.3 ロジスティクスによって、社会へ貢献するビジネスへ

  • 大和ハウス工業株式会社
    取締役常務執行役員 建築事業本部長
    浦川 竜哉
  • 早稲田大学ビジネススクール教授 内田 和成氏

公開日:2021/08/23

テクノロジーとビジネスモデルを融合させる

浦川:ライバルとの差別化というかたちで物流のDX化を進めることは、どこでもやっていることですが、弊社では、スタートアップ企業とのパートナーシップによって、物流施設内の自動化や機械化など、物流の効率化をしようとしています。
物流業務にかかわる費用の川上から川下までを100として、テナントユーザー様から見ると、借庫の賃料において保管費はわずか20%で、残りの80%は保管費以外になります。その中で一番大きいのが輸配送で、トラックの経費、燃料代、人件費も含めて、入庫と出庫のところになります。一番大きな部分を解決しないと、いかに土地を安く買って、建物を安く抑えて、賃料を抑えたとしても微々たるものなのです。ここを効率化するためにダイワロジテックという会社を立ち上げました。

ダイワロジテックのパートナー企業に、株式会社Hacobuという会社があります。Hacobuでは、トラックバース予約システム、求車求荷システムを提供しています。今、各メーカーや物流会社でトラックバースの待機問題が起きています。トラックバースの待機時間をなくすことによって物流の時間を短縮し、ドライバーの働き方の改善にもつながります。ただし、結局他の会社ではいろいろなシステムを使っているので、例えば、A社のトラックが入ってくればHacobuのシステムを使えるのですが、B社のトラックがくると使えません。ですから、いかにシェアを取るかにかかっています。どこがシェアを取るかが非常に大事です。我々だけでやっていると限界がありますので、他の競合企業にも声をかけて出資を促し、彼らが開発する物流センターにもHacobuのシステムを導入してもらって、今では業界のシェア約60%を占めるほどにもなってきました。これをスタンダード化しようとしています。ライバルとアライアンスを組むことも取り組み始めました。

内田:私はヤマト運輸さんとも付き合いがあるのですが、宅配便の会社は3社もいらないと思っています。1社にすると競争がなくなるなど弊害があるかもしれませんが、2社あれば十分ではないでしょうか。受け取る側から見れば1社でいいですよね。黎明期には何十社と乱立したけれども、今やこれほど確立したら国民生活的なインフラとして宅配便のインフラは1社、あるいは競争するために2社でいい。そんなふうに時代と共に変えていけばいいのです。トラックに関しては、昔から共同配送に関しては失敗の繰り返しです。何十年も解決しない問題です。まったく畑違いの御社が仕掛けていったと聞いて、面白いと思いました。

浦川:市川の物流センターでは、ダイワロジテックが物流のシェアリングサービスを行っています。例えば、物流センターの中で複数社の荷を混載して、一個あたりいくらの従量課金制にしています。AGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)など、物流の機械は非常に高価で、中小企業では購入することができませんから、使った分だけ費用をいただくという仕組みです。

内田:AGVとは荷物を自動的に動かす機械ですね。それは一台入れただけではだめなのですよね。

浦川:本格的に稼働させようと思えば、数百台は必要となりますので、トータルで何億、何十億円になってしまいます。これでは、中小企業やスタートアップの荷主様は投資することができないので、我々が貸し出して一個あたりいくらで使った分だけの従量課金としました。そういった機械、設備のシェアリングサービスをやっています。
その設備を活用すれば、その日の出荷頻度に合わせてABC分類をして、例えば、1日30個出るA分類商品と1週間に1回しか出ないZ分類商品でロケーションを入れ替えて、出荷頻度が高いものを手前に持ってきて、出荷頻度が遅いものは奥へ持っていきます。要は、自動でセンター長の頭の中の8割くらいをやってくれる非常に便利な設備です。

内田:面白いですね。大変興味があるので一度見学させてください。テクノロジーとビジネスモデルの両方がうまい具合にできていますね。
しかし、ずいぶんいろいろなことを手掛けられていて、少し驚きました。前にお話を聞いた時よりもさらに進化していますね。

浦川:いろいろなことをやり出しました。大和ハウス工業の成長ドライバーを不動産開発に充てているのですが、2015年に対談した頃は、全体5400億円に対して3200億円をほぼ物流で使っていました。2021年度の3カ年計画では6500億円まで物流に投資していますので、倍くらいになっています。DPLシリーズも今年は32棟着工していますから、平均して今後1カ月に約3棟が完成してくることになります。

物流の効率化は途上

内田:一方でエンドゲームというか、古くなって効率が悪くなったとか、メーカーが自分で持っていたとか、そういった倉庫はどうなってしまうのですか。日本全体で言うと、御社がそれだけ新しいことを始めたり、真似した競合がたくさん出てくると、古い物流倉庫や物流拠点はどうなってしまうのかという素朴な疑問です。

浦川:残念ながらそのまま使っている例がほとんどです。

内田:そうすると、日本の国内総生産(GDP)は伸びないのに、物流の物量はずっと増え続けているのですか。

浦川:物量は信じられないくらいに増えています。いつか止まると思うのですが、物流施設をつくれば埋まるような状態が今も続いています。

内田:意地悪な言い方をすると、日本の物流の効率化が進んでいないことになりますよね。つまり、本当に進むということは、適材適所でうまくやれば増えなくて済むはずじゃないですか。だけど増え続けている。その間、日本のものづくりが飛躍的に伸びているかというと逆で、どちらかというと輸出が減ってしまっている。そう考えると、物流費が伸びてしまうことは、世の中の最適で言うとどうなのでしょうか。

浦川:各企業が在庫を持たなくなってきていたのが、東日本大震災や水害等で、メーカーが在庫を持つように変わってきたということもあるかもしれません。また、ECの動きが激しいことも挙げられます。
さらに、薬品、食品でGMP(Good Manufacturing Practice:医薬品・医薬部外品の製造管理及び品質管理)やGDP(Good Distribution Practice:医薬品の適正流通)など薬事法の世界基準、あるいはグリーンビルディングの認証などもあります。例えば、有名なブランドを持つある企業は、借庫する際、グリーンビルディングの認証のLEED認証でゴールド以上をとった建物でないと入居しません。あるいは食品ではHACCPなど、国際的なレギュレーションに合致した建物でないと入居しない企業もあります。

内田:そうだとしたら、なおさら古い倉庫はスクラップした方がいいですよね。それなのにあまりそうなっていないのはなぜなのでしょうか。

浦川:たしかに言われているほどの効率化ができていない倉庫がほとんどです。また、最新鋭の物流センターと言いながら、どんな機械が入っているのかわからないところもあります。実態は、パレットに積んで山積みといったかたちが多いのかもしれません。

内田:今や国内総生産(GDP)という指標は古いと思うのですが、仮に国内総生産(GDP)で言うと、過去30年で国内総生産(GDP)が2倍になり、物流費は5割増しで済んでいるというのであれば素晴らしい話です。ところが、GDPは増えていないのに物流費だけが増えても「あれ?」と思う、そういう問題意識です。これはどこかで天井がきますよね。そうでないとおかしいですから。

浦川:確実にきます。ただ、天井がくる時に初めて建て替わりが促進されるのではないでしょうか。住宅やアパート、マンションがそうです。住宅、アパート、マンションがなくなるかと言えば、需要は少なくなってはいますがなくなることはありません。というのは、建て替えをせざるを得なくなってきているからです。マンションは50年以上経てば、建て替わっていきます。物流の場合はまだそこまでいっていません。

物流だけではない、複合的、社会的な貢献度、必要度が重要になる

内田:私は基本的に、省力化や集中化、あるいは水平分業的に統合していくことは、企業として当然やるべきことで、それをビジネスにするのはすごく良いことだと思っています。しかし一方で、少しカメラを引いて国全体を考えたとき、行き着く先、出口戦略が必要だという思いがあります。御社がそのような部分を担うことによって業界を引っ張っていただきたいと思うのです。先ほどパナソニックさんのお話がありました。パナソニックさんにとって、事業撤退は資本主義的に言うとしなければいけないことですが、雇用の確保という面ではやりにくかったり、できなかったりするわけです。そこで出口戦略までセットにして、雇用が欲しい人とうまくマッチングする仕組みをつくったことによって、単にビジネスチャンスとしてではなく、地域や社会への貢献になりました。私は省力化やAIの活用はすべきだと思うのですが、その成果をどうやって社会に還元していくかがこれからは問われます。

浦川:事業の多角化を図っていく中で、日本が直面するいろいろな課題を少しでもお手伝いするためには、そこまで踏み込むことも必要かもしれません。

内田:人材が絶対的に足らない一方で、省力化すれば雇用がなくなってしまいます。片方では人材が欲しくて、片方では人材が余っている。頭数でいうと、余る方の人材の年齢や仕事の質ともう片方は普通はマッチングしないわけで、だからいろいろなことがうまくいきません。しかし、御社であれば、もしかしたらそういったことができるかもしれないという気がしました。

浦川:最後に一つだけお話ししておきたいことがあります。かつて、物流センターは地域の皆さんから見ると厄介者でした。ものをどんと置くだけで、薄暗くて、雇用を生まないし、トラックが出入りして排気ガスをまき散らし、事故の可能性があるなど、厄介者扱いされてきたわけです。地方の県や企業庁の工業団地でも、工場、生産施設はいいけれども物流はだめだという制約をかけられていました。
しかし、今の物流は、先ほどのパナソニックさん跡地のヤマト運輸さんのように、ラストワンマイルを担うこれからの新しい産業であり、ECといったところで雇用を生み、地元に税収を生み、地域に貢献をします。
また、地震や水害が多い地域では、防災協定を結ぶことがあります。例えば、DPL流山は江戸川が決壊すると3メートルも埋没してしまいます。そこで防災協定を結んで、水害が起こったときには地域住民に避難してもらいます。
水害時には物流網も途絶えてしまうので、防災グッズ800人分をDPL流山に備蓄しました。地域の住民に逃げこんでもらって、数日間過ごしてもらえるような防災拠点としての協定を地方自治体と結びだしています。そのようなことから、物流のイメージは、今までの厄介者から、近くにあって良かったね、助かったねと言われるような物流へと変わってきました。

中には事業所内保育所もあります。大和ハウス工業は株式会社ママスクエアという会社に出資をしています。パートのお母さんたちのお子様を預かり、そして働いてもらう、そして地元の待機児童を減らす。地方創生の核になって、県内企業、県外企業を誘致する。地方では工業団地全体をつくってから、まず先に企業誘致、生産施設を誘致する。そして、そこにない物流需要をつくって物流センターをつくる。そういった物流需要の創設し、地域創生の核に物流を持ってくるようなことを今やらせていただいています。

内田:昔、日本はものづくりが主でした。メーカーがあって、工場というものが大事でした。私が子どもの頃は京浜工業地帯、四大工業地帯などありましたが、今ではそのような言葉が死語になるくらい、ものづくりでは日本に昔の勢いはありません。だけど我々生活者としては、ものがきちんと流れていることが非常に大事になっています。ものづくり社会から、いろいろな意味でそういったものが循環する社会に変わってきています。もしかしたら物流という言葉がもうあまり相応しくないのかもしれません。大和ハウス工業さんはそういったことを担っているのだということを、ネガティブイメージを払拭するのではなく、日本が変わってきたことに対して、我々はこんな貢献をしているのだとか、良い社会づくりに役立っているのだということをアピールした方が良いのかなと、聞いていて思いました。

浦川:盛んにやっているつもりなのですが。「R&D(Research and Development:研究開発)は国内で、量産は海外で」といったシフトがこれからさらに増えていくと思います。例えばブラックタイガーは、一部の高級品は別として、市販品はほとんどタイやベトナムでつくられていますから、産地での品質管理をしておく必要があり、ベトナムと日本、両方の冷蔵庫が必要になります。その両方をつくっていく。我々は今そういったことをやっていこうとしています。そういった意味では、おっしゃるとおり、物流だけではない、複合的、社会的な貢献度、必要度が重要になると思います。

内田:物流というものの性格が変わった、機能が変わってきているというお話がありました。電話で言えば、携帯電話は昔は通話の手段でした。今は通話の手段だと思っている人は少なくて、どちらかというとアプリのためにあって、たまに電話するくらいです。おそらく若い人は電話はあまり使わず、メッセンジャーアプリでやりとりする方が多いでしょう。そう考えると、携帯電話と言いながら、もう電話ではなくなっているわけです。同じように、皆さんが投資しているDPLのアセットも、物流ではないと定義した方がより可能性が広がるかもしれませんね。ものやサービスが循環していて、そこに税収が生まれたり、雇用が生まれたり、あるいはものが安全に素早く手に入るとか、そういったことを地域につくり出す役割を担っていると言い換えた方がいいのでしょうね。
ネガティブイメージの払拭はそれで必要なのですが、もっと前向きに、物流施設があることによってそのエリアに他にはないプラスがあるということを、もっと打ち出せそうな気がします。もちろん一私企業なので行政に取って代わることは難しいと思いますが、私はなんとなく日本はものづくり社会ではなくなってきたという印象を持っています。

浦川:雇用と税収だけではなく、物流の社会的使命、役割感が増してきているということを、私どももずっと言い続けてきました。今は市町村や県、企業庁の工業団地の中で物流はだめだというバイアスもだいぶ薄れてきて、非常に理解が進んできたように感じます。

内田:いろいろなことをやった結果、新しいビジネスチャンスが生まれたのは素晴らしいことだと感じました。
企業は絶対に効率化していかなければいけないので、その際には省人化やAIは必要なものだと思います。しかし、各企業がバラバラにそれをやってしまうと、どこかでしわ寄せを受けた人たちが出てきてしまうので、それを日本としてどうするのか。これは政治の大きな課題だと思いますが、今日のお話を聞いていると、大和ハウス工業さんがそういった部分で担える材料をお持ちなので、それを慈善事業ではなく、ビジネスとしてやられたらもっと良い会社になるのではないかという印象を持ちました。

浦川:今回はありがとうございました。

内田:こちらこそありがとうございました。

物流DX -スペシャル対談-
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